油井亀美也さん記者会見 宇宙からの様々な視点

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第466回)

JAXA宇宙飛行士の油井亀美也さんが4月9日、東京都内で記者会見に臨みました。ISS=国際宇宙ステーションに滞在中、同僚の飛行士に健康上の問題が発生したため、予定を早めて1月に地球に帰還、その後、2月上旬にアメリカでオンラインによる記者会見がありましたが、日本に帰国した後の会見は初めてとなります。

2月の会見ではすでに「ピンピンしている」と話していた油井さんですが、帰国後会見でも元気そのもの。明るい雰囲気で記者会見は進みました。

油井亀美也さん記者会見 宇宙からの様々な視点

油井亀美也さん

■10年ぶりの宇宙長期滞在、「成熟」の域に入ったISS

「自分ができることはすべてやった」

油井さんは宇宙長期滞在の期間を振り返りました。ともに滞在した3人の飛行士とは様々な計画変更の末の縁だったとのこと。「非常にチームワークがよく、団結をしてこれ以上ないクルー」と話していました。想定外のことが起きても順応できることが宇宙飛行士の重要な資質と改めて感じます。

ISSでは昨年8月に「同期」の大西卓哉宇宙飛行士と業務を引き継ぎました。その大西さんがうらやましがっていたのが新型補給機「HTV‐X」初号機の到着。油井さんはキャプチャー(把持)を無事成功させます。補給機を「金色の宝箱」と油井さんは称していました。滞在中はHTV-Xのみならず、多くの補給機が到着、すべてのドッキングポートが埋まったそうです。多くの物資が届き、油井さんは「暇さえあれば荷物の整理をしていた」と笑いながら話します。

油井亀美也さん記者会見 宇宙からの様々な視点

記者会見は明るい雰囲気で行われた

生活面で油井さんが感銘を受けていたのは「食生活」。以前、小欄でもお伝えしましたが、油井さんは野菜が大の苦手で、果物もほとんど食べないそうです。HTV-Xで運ばれた物資の中も野菜や果物も含まれており、憂鬱になったといいます。しかし、いざ食べるととてもおいしく「何で半世紀以上こんなおいしいものを食べずにいたんだ」と感じたそうです。ほかの飛行士にも好評で、なぜこんなにおいしいんだという質問が出るぐらい、士気も上がったということです。ただ、油井さんが地上でも野菜を“克服”できたかを尋ねると「いや、それはまだ……」と苦笑い。地上にはほかにも好きな食べ物があり、“負けてしまう”そうです。

そのほか、様々な実験も紹介されました。二酸化炭素除去装置の設置、細胞分裂に関する実験は、月や火星探査での生活維持、植物の栽培にも資する実験となります。宇宙での実験は10年前、1回目の滞在に比べて、「一連の流れが洗練されている。これ以上伸びることはないぐらいになっている」と絶賛します。2030年には引退が予定されているISSですが、あと4年を残し、「成熟」の域に入っていることがうかがえました。その上で、油井さんは今後について、月や火星で同様の操作を行う時にどうするか、「検証するフェーズに入ってきた」と語っています。

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HTV-X初号機に搭載された生鮮食品と油井さん(NASA・JAXA提供)

■将来の月面探査に向けた後進の育成、複雑な思い

月と言えば、アメリカ主導の国際月探査「アルテミス計画」も話題に。宇宙船「オリオン」はアポロ計画以来の有人による月周回飛行に臨み、4月6日(アメリカ東部時間)午後地球から約40万7000kmの地点に達しました。なお、オリオンは10日夜(同)無事に帰還しています。

「新しい時代の幕開け」と喜ぶ油井さん。今後、日本人宇宙飛行士の月面着陸に期待を寄せ、後進の育成に力を注ぐ考えを示します。一方、油井さん自身は……。

「宇宙で月の写真を撮ったりすると、月に行きたいという気持ちが強くなるのでは?」

私はそのように水を向けると、油井さんは「正直なところ言えば、当然自分も行きたい。小さいころの夢だから」と屈託のない笑顔を見せます。その上で「国全体のことを考えて持続的に明るい未来をつくっていかないといけない」と語り、「自分の心を抑えている感じ」と率直な心境を語りました。

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左:宇宙船「オリオン」に搭乗した飛行士(NASA提供)/ 右:オリオン着水の瞬間(NASA提供)

一方、アルテミス計画そのものは計画の変更が明らかにされました。月面基地を優先し、中継地となる「ゲートウェイ」の建設計画を一時停止するというもの。ゲートウェイの建設については日本の貢献も大きいと目されていたため、影響が懸念されていますが、油井さんはその変更を「非常にリーズナブル」と歓迎しました。

「何か新しいものを開発して飛ばすのは非常に時間がかかることを知っていたので、当初は急ぎ過ぎだと思っていた。納得ある計画になりそう」

このあたりはパイロット出身の油井さんならではの視点と感じます。さらに「優先順位が変わっただけであまり心配していない」と前向きに捉えていました。

油井さんは自らが把持したHTV-Xの今後に期待します。機体は空洞になっている箇所があり、将来は機体同士がドッキングして、機内を宇宙飛行士が歩き回ることができるような設計になっているということです。有人飛行を可能にするにはまだまだハードルがあるものの、小型の宇宙ステーションのような構想を見据えており、この技術はゲートウェイの建設にも大きく寄与すると思われます。

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記者会見する油井亀美也さん

■宇宙からの地球、その姿から見える「ある現実」

終始明るい雰囲気の中、宇宙から見える地球の姿について触れる一幕がありました。

油井さんは宇宙滞在中に10万枚を超える写真を撮影したそうですが、その中には台風の写真も。10年前に比べて「勢力の強い台風」が多かったと感じたそうです。日本でも毎年のように豪雨災害に見舞われますが、こうした現象は宇宙からはより顕著に見えるのでしょう。地球温暖化の影響なのか、検証の材料になりそうです。

もう一つが、地球の各地で放つ光。夜景を見ていると、国境を境に明るい所と暗い所があり「貧富の差」がはっきりと見えるそうです。衝撃だったのは「戦争をやっている所は宇宙から一目瞭然」ということ。爆発の光が見えると、住む所や命を失ったりする人もわかり、「悲しい気持ちになる」と話していました。

こうした戦闘の現状を、滞在するロシア、アメリカの飛行士と話し合ったそうです。話題となったのは各国の報道がそれぞれ違うこと、皆が一致したのはどちらが正しい、間違っているというのではなく、「見方の違い」であるということでした。その上で「お互いが妥協、納得できる真実、解決策は両方の考え方の真ん中ぐらいにあるのだろう」とも話したということです。地球を俯瞰できる立場にある宇宙飛行士ならではのエピソードです。

月面探査の分野ではアメリカと中国の開発競争が激しくなっています。月周回飛行の成功に沸く一方、背景にあるのは月面着陸をどこが早く実現し、資源の権益を得るかという競争です。地球上では紛争が頻発していますが、同じような発想に陥らないために、今後「知恵」を絞る必要があるでしょう。宇宙開発の難しさ、厳しさを感じた瞬間でした。

(了)

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