操作性とは? 人間工学とは?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第337回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、エアコンや車の操作性・人間工学について---

エアコンパネルはすべてボタン操作(日産サクラ)

画像を見る(全7枚) エアコンパネルはすべてボタン操作(日産サクラ)

残暑厳しい日々が続いています。東京都心は8月、すべての日で30度を超える「真夏日」となりました。熱中症にはくれぐれもお気を付けください。

寝苦しい夜は特につらいものです。エアコンは冷えすぎることもあり、私は昨年(2022年)までできるだけ扇風機や冷感マットでしのいでいましたが、ついに耐えられなくなり、最近は毎夜のエアコンが不可欠になってきました。電気料金の明細が怖い毎日ですが……。

ところで、エアコンのスイッチにもいろいろあります。思い浮かべるのは小さなボタンがびっしりと並ぶ縦長のリモコンですが、我が家のリモコンは卓上式で、これが最高なのです。

自宅のエアコンのリモコン

自宅のエアコンのリモコン

「かんたん見守りリモコン」と呼ばれるこのリモコンは、ボタンが大きく、温度調節や運転切り替え、風量、風向きがすべてダイヤル式のボタンで操作できます。文字も大きく、高齢者にも操作しやすいよう設計されたものですが、実は見事な“副産物”がありました。

寝ているときに温度を下げたい……そんなとき、人はどうしているのか? 眠いから目が開けづらい、部屋は暗くて見えない、でも電気をつけるのは面倒……こんな状況かと思います。このように何かあった場合、何かをやりながらのとき、手探りで操作できるスイッチというのは重宝なものです。

日産R31型スカイラインの室内 かつてはサイドブレーキレバー、レバー式のエアコンパネルは当たり前であった

日産R31型スカイラインの室内 かつてはサイドブレーキレバー、レバー式のエアコンパネルは当たり前であった

一方、スイッチと言えば感じるのは自動車の世界です。多機能になればなるほど、手探りにも限界が出てきます。

レバー、ボタン、タッチパネル……スイッチと称するものにはさまざまありますが、このなかで最も手探りに適しているのはレバーでしょう。代表的なものは変速機構。ひと昔前、クルマにはコラムシフトなるものが全盛でした。

ステアリングのわきから生えている棒状のレバーで変速するものですが、マニュアル車などはコラム部分に小さくシフトパターンが書いてあるだけでも、どのギアに入っているのかがわかりました。

それはフロアシフトもしかり、マニュアル車のギアの位置は、レバーがどこに向いているかでわかりましたし、オートマチックになっても、セレクターの位置はインジケーターだけではなく、手で触れてもおおよそ判別できました。レバーというのは人間が最も認識しやすいものであると、いまでも思います。

電気式変速機に電動パーキングブレーキ(日産ノート・オーラ)

電気式変速機に電動パーキングブレーキ(日産ノート・オーラ)

パーキングブレーキも同様。フロア式(ひと昔前はアンブレラ式という、ステアリングの左下に設置されているものもありました)は、ギーッとレバーを引くことで、耳で音を確認し、腕に力を入れることで感じ、さらに目でレバーの位置を確かめることで解除の有無がわかりました。

足踏み式になっても、踏む力で、ペダルの位置で、かかるラッチで確認ができました。機械的なものはすべて、こうした仕掛けでON/OFFを認識できました。

最近はどうでしょうか? 電動化が進むことで、変速機構は必ずしも機械的なレバーである必要はなくなりました。ボタン式、ダイヤル式、パドル式の「シフトスイッチ」も珍しくなりました。

シフトスイッチ(セレクタースイッチ)もボタン式に(日産セレナ)

シフトスイッチ(セレクタースイッチ)もボタン式に(日産セレナ)

こうした機構はインジケーターを見ないと、シフトポジションをほぼ認識することができません。また、電気自動車やハイブリッド車は、電気式変速機で、動かしたあとはレバーが中立位置に戻るものが多く、やはりインジケーターを見ないと確認できません。パーキングブレーキは電動式になると、小さなスイッチを押し引きすることで解除する仕掛けです。

冒頭のエアコンも、自動車のエアコンは、かつてはレバー式のみでした。そこからプッシュボタン、ダイヤル、タッチパネルをミックスした操作パネルに“進化”しています。

こうした操作は、慣れと言えばそれまでですし、デザイン的なスマートさ、未来感、省力化という意味では確かにこちらの方が優れているのかも知れませんが、視覚、触覚、聴覚も駆使できる操作性が、クルマの楽しさ、真の安全運転につながるのではないかと思います。いかがでしょうか? 私は旧い人間なのかも知れませんね。

日産・アリアには「ハプティック(触覚)スイッチ」という、押すと、振動などを通してON・OFFなどを伝えるスイッチが採用された

日産・アリアには「ハプティック(触覚)スイッチ」という、押すと、振動などを通してON・OFFなどを伝えるスイッチが採用された

とは言え、クルマの多機能化が進むにつれて、スイッチ類はどうしても多くなります。限られたスペースのなか、いわゆる「物理スイッチ」を無限に増やすわけにはいきません。多くの機能をどう使いやすくしていくのか……自動車エンジニアもジレンマに悩みながら、苦心を重ねているようです。

例えば、日産自動車のサイトでは「未来へのスイッチ」と題して人間工学チームの取り組みが紹介されています。ドライビングシミュレーターという実験設備を用いて、スイッチやダイヤルのレイアウトをミリ単位で調整し、設計に生かしていると言います。

電動化、知能化という「100年に一度の大変革」の時代……操作性をめぐる人間工学のあくなき探求が続きます。自宅のエアコンのリモコンを見て、こんなことを考えてみました。(了)

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