数量政策学者の高橋洋一とジャーナリストの須田慎一郎が8月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月26日に閉幕した「ジャクソンホール会議」について解説した。
ジャクソンホール会議が閉幕
飯田)国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が8月26日に閉幕しました。世界中の中央銀行トップや経済学者が参加しましたが、注目されたのは、アメリカの中央銀行にあたるFRBのパウエル議長の発言です。「適切だと判断すればさらに利上げする用意がある」と述べました。須田さんはアメリカから戻られたばかりですが、インフレの厳しさは目に見えてわかりますか?
アメリカに比べて物価は安いが賃金が低い日本
須田)日本にも広く展開している飲食チェーン店がアメリカにもありますが、日本では1000円弱で食べられる塩サバ定食が、5400円もするのです。
飯田)5400円、5倍もする。
須田)「5倍もする」とみんな驚くのですが、その分、所得が大きいのです。初任給で50万円ぐらい貰っていますから。やはり日本の物価は安いけれども、明らかに賃金・収入が低いのだと思います。
雇用が堅調であれば多少、失業率が高くても大したことではない ~物価より雇用が重要
飯田)その意味で言うと、アメリカは好循環なのですか?
高橋)いま物価の話をしていますが、本当は失業率を見るのです。アメリカは失業率も日本と大差ありません。アメリカの失業率が下がり、日本が下がっても、通常は2%くらいアメリカの方が高いのです。
飯田)通常は。
高橋)それがあまり大差ないということは、絶好調だということです。多少の物価など大した話ではありません。
飯田)雇用が堅調であれば。
高橋)それはそうでしょう。雇用が最後の砦ですから。失業率が高くても、職があれば大したことはありません。みんな「物価が上がった」と言うけれど、本当に大事なのは雇用です。
日本では記者会見で雇用についての質問には厚生労働省が答えるが、アメリカでは中央銀行が答える ~高度成長期が長かった日本では、「雇用されるのが当たり前」だと思われている
須田)日本ではそういう認識が薄いですよね。
高橋)記者会見などで、雇用の話に誰が答えるかと言うと、日本では厚生労働省が答えますが、アメリカでは労働省ではなく中央銀行が対応します。
飯田)失業率に関してなど。
高橋)もともと金融政策は雇用に効くから意味があるのです。フィリップス関係と言って、雇用と物価は裏腹なのです。物価対策をしているようで、実は雇用対策を同時に行っている。
飯田)同時に。
高橋)しかし、日本にはその感覚がないので、つい厚生労働省に聞くのです。雇用の話についても高度成長期が長かったから、みんな意識がない。「雇用されるのが当たり前」だと思っています。
飯田)未だに感覚的には完全雇用のような考え方があります。
高橋)雇用の話に関心がある人はほんの少しです。労働経済学者でも、こういうことを理解できないのです。
2024年半ばには1ドル=125円くらいの円高に振れるという共通認識 ~ジャクソンホール会議での為替の議論
須田)もう1点、ジャクソンホール会議に関して言っておくと、為替についてもいろいろと議論があります。来年(2024年)半ばにはドル/円のレートがどのぐらいになるかという議論が出ました。
飯田)そうなのですね。
須田)ドル/円で125円ぐらい。つまり円高の方に振れてくるという共通認識を持っているのです。145円という、かなりの円安に振れたのはどういうことかと言うと、要するにアメリカは景気がよく、物価もまだ上昇しているから、「まだまだ利上げの余地がある」とマーケットが認識したのです。だから為替の方も、これから落ち着いてくるのではないかと思います。
飯田)パウエル議長は「適切だと判断すれば、さらに利上げする用意がある」と述べました。年内にあるとしても、あと1回というところですか?
須田)「1回で済むかどうか」というところではないでしょうか。
金融政策さえわかれば為替の予測はそれほど難しいことではない
高橋)為替は金融政策の差で決まるから、これに着目するのは金融機関の人間なのです。金融機関の人にとって、為替は死活問題なので着目されますが、学者から見ると為替は二の次ですからね。
飯田)学者にとっては。
高橋)それぞれが雇用を確保するために金融政策を掲げ、その結果、決まってくるのです。だから金融政策さえわかれば、予測することはそれほど難しくありません。
飯田)金融政策がわかれば。
高橋)いまの予測は、当面はアメリカの方が利上げするかも知れないけれど、少し先になるとアメリカが落ち着いて、日本が利上げするかも知れない。そういうストーリーが出てくるのです。
飯田)アメリカが落ち着いて。
高橋)でも、本当のことを言うと二の次なのです。金融機関は自分の身銭などが関係するから関心があり、そういうことでジャクソンホール会議をみんなが見るのです。本当は学者の会議だったのですよ。学者の会議であれば、「金融機関の儲け話などどうでもいい」ということです。
金融機関の人にとって、為替の予測は死活問題 ~ジャクソンホール会議の在り方が変わってきた
飯田)昔は「ソロスチャート」というものがありました。日本とアメリカなら、2ヵ国の双方が自国の貨幣をどのくらい出しているかを計算すれば、大体のレートがわかってくる。
高橋)アメリカのドルを分母にして、日本の円を分子にする。それで割り算すると、だいたいのドル/円が出てきます。
飯田)レートが。
高橋)当面はアメリカの方が金融引き締めを行う。つまりドルが縮むことになるから、少し数字が大きくなって円安になる。その後、日本がもう少しまともに動けば、その差がなくなり、日本の方が引き締めていくので、分子が小さくなる。それで円安になるという話です。
飯田)なるほど。
高橋)そのように簡単に説明できるのだけれど、みんな死活問題だから、「どういうタイミングでどうなるか」というところでお金儲けの話になるでしょう。金儲けの話になるからみんな一生懸命聞くのです。
飯田)中央銀行の総裁などが講演すると、耳をそばだてて聞く。
本来は金融政策の根源的なことを議論するジャクソンホール会議
飯田)本当はもう少し中長期的なリスクなどを話し合うような会議だったのですか?
高橋)金融政策の根源的な話です。為替の未来レベルの話などはわかっているので、学者的には面白くないのです。
飯田)学者の方にとって。
高橋)それなら金儲けの話だけやらせておけ、というのが普通です。ジャクソンホール会議では、そういうところばかりみんな言います。中央銀行の経済学者だったら、本当は雇用の話だけをしていればいいのです。それぞれを見て、どのように金融政策を行い、何に着目するかなど。
飯田)雇用について。
高橋)でも、パウエルさんの話は簡単でしょう。「いまはインフレ率が少し高いから引き上げるかも知れない」というレベルで、落ちてきたから「こんなに引き上げません」と言っているだけではないですか。
飯田)パウエルさんは。
高橋)日本にその話を当てはめると、「日本の金利を引き締めるかも知れない」と言っていますが、全然そんな予想はないです。インフレ予想は2%ですが、プラスマイナス1%は全部許容範囲ですから、日本銀行は何もしないというのが普通の予想になるのです。
あまりできていない岸田総理と植田日銀総裁のコミュニケーション
須田)日銀総裁の発言によると、コア指数で見れば、まだデフレ基調が続いている。だから「財政政策として何をやらなくてはならないのか」がきちんと出ているはずですが、日本政府はその辺りを認識しているのでしょうか?
高橋)岸田さんと植田さんのコミュニケーションがあまりできていないのでしょうね。でも金融政策から考えれば、「何もしなくていい」というのが普通です。それは「財政政策も何もしなくていい」という答えになるのかも知れません。
須田)ただ需給ギャップがあって、設備投資は旺盛だけれど、個人消費はまだまだ回復基調になっていません。だから財政出動が必要です。秋の臨時国会では、きちんと補正予算に関する対応をしなければならないと思います。
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