“レジェンド”のライブで感じた平和の尊さ
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第410回)
先日、沢田研二さんのコンサートに行ってきました。場所は群馬県の伊勢崎、全くのプライベートです。最近のチケット申し込みは先着ではなく抽選が主流で、申込開始時に必死になってリダイヤルしたり、ホームページの更新ボタンを押すことはなくなりました。なかなかつながらないあげく、ようやくつながったと思ったら、むなしく「販売終了」……、そんな経験は少なくなりました。

コンサートが行われた伊勢崎市文化会館
しかし、人気のチケットが取りにくいのは同じ。沢田研二さんのコンサートはあの一件(わかる人にはわかります)以降、人気が再燃したようです。関東地方の範囲でエントリーした中で都心部の申し込みははずれ、運よく伊勢崎の公演が当選したのでした。
久しぶりに見る“ジュリー”のライブ、喜寿前とは思えない高音の伸び、声量は圧巻で、エネルギーをもらいました。また、健康に留意していることも明かしました。アンコール直前まではずっと色付きのメガネで歌唱。ジュリーによると、最近、遮光グラスを購入したのだとか。
アンコール前のMCでは物価高の話、好物の里芋が高くなったと嘆きます。そう言えば、2022年のジュリー主演の映画「土を喰らう十二ヵ月」では、焼いた里芋がおいしそうでした。「僕は“1人でも聴いてくれる人がいれば歌う”という人間ではない」……、会場は笑いに包まれ、“あの一件”を思い出した人も多かったと思います。「皆さんも元気でいて下さい」と締めました。
「合いの手を入れてはならぬ」等、ジュリーのMCにはいろいろな“お作法”がありますが、ファンも今は慣れたもの。拍手を交えながらも掛け声はなく、じっくりと話は進んでいきます。ライブはエネルギッシュな歌唱もさることながら、MCも楽しみだったりします。ジュリーの本音を交えたユーモアあふれる話はとにかく、ほっこりさせてくれます。
一方、MCの中で印象に残ったのは「PAシステム」の話。PAとはPublic Adressの略、直訳すると「公衆伝達」、堅い言葉で言えば、電気的な音声拡声装置です。コンサートなどの音楽イベントではおなじみの用語です。ジュリーはPAの進歩で昔に比べて音が良くなったと振り返りました。その上で、PAは当初「拡声器」と呼ばれ、戦争の部隊に指揮命令をあまねく伝達するために、音響メーカーが開発したものだと話しました。つまり「軍事目的」、逆にPAがこのような音楽イベントに活用されるのは、「平和利用」ということになります。

ニッポン放送マイク
思えば、こうした例は枚挙にいとまがありません。殊にモノや情報を遠く離れた場所に伝える手段は、軍事と表裏一体です。クルマなどに搭載される「カーナビ」、その基になる測位衛星システムは主にアメリカのGPSで、軍事目的から開発されたものでした。私たちが携わるメディアは遠方に情報を伝える仕事ですが、時の政権や軍のプロパガンダに利用されやすい側面があることは歴史が証明しています。
「私は民間放送を愛していると言ってもいい。日本の民間放送は原則として戦後にすべて生まれた。日本の民放は戦争を知らない。国民を戦争に向かってミスリードしたという過去が民間放送にはない。これからもそういうことはないことを祈っている」
かつて放送された「ニュースステーション」の最終回でキャスターの久米宏さんが放った言葉です。民間放送に身を置く立場として、大変心に刺さったフレーズでした。また、名司会者として知られた高橋圭三さんは日本レコード大賞20周年に際し、「地球はいま、音楽の上に浮いていると言ってもいいほどに、豊かに音楽のあふれる時代」とスピーチしました。50年近く前の発言で、いまは音楽の嗜好も、取り巻く環境も異なりますが、人々の心に何かを伝える、“根っこ”となる部分は、いつの時代も共通です。
軍事利用と平和利用、表裏一体である文明の利器とどう折り合いをつけていくのか、人間の知恵のすばらしさを称え、愚かしさと“闘いながら”どう平和を守っていくのか……。いまもこの先も、人類に課せられた使命なのだと思います。
(了)