新体制、商品戦略……、今後の日産は? メカニックの視点では?
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第409回)
新年度が始まりました。ホンダと日産自動車の経営統合協議が打ち切りになってから1カ月あまり。日産は内田誠氏が社長を退任し、4月からイヴァン・エスピノーサ社長による新たな体制となりました。3月11日の記者会見でエスピノーサ氏は「世界中の才能あふれるチームと緊密に協力しながらこの会社に安定性と成長を取り戻していきたい」と意気込みを語りました。

イヴァン・エスピノーサ社長(日産自動車提供)
新体制で役員をスリムに、市場戦略の見直しも……
その後、日産は新体制や今後の商品戦略を発表するなど、慌ただしい動きを見せました。新体制は執行役員を廃止し、役員には該当しない執行職を新たに設けることになりました。これまでの執行役員42人から、執行職は33人と約2割削減、役員の人数自体は55人から12人へと絞られます。
一方で、社外取締役8人の去就、これは気になるところです。権力の集中を招いたゴーン体制の反省から、取締役による経営の監督と執行を分離しましたが、“船頭”の多さは迅速な意思決定の障害とされました。ホンダとの経営統合検討が打ち切られた要因の一つと言えます。意思決定に向けた“風通し”の改善は急務です。

次期日産「リーフ」はSUVに衣替えするという
商品戦略では、何といっても新車の投入が肝心ですが、今後2年間で新型「リーフ」や新型「マイクラEV」を投入することなどが明らかにされました。ともにEV(電気自動車)です。リーフはSUVに衣替えして、2025年度、日本、北米、欧州の各市場に、マイクラEVは欧州市場に投入されます。さらに、日産独自のハイブリッド「e-POWER」は第3世代に進化、弱点とされる高速走行の燃費について、最大で15%の向上を目指しています。
日本市場では、2025年度に新型「リーフ」、新型軽自動車、2026年度には第3世代のe-POWERを搭載した新型大型ミニバンを投入するということです。一方、欧州市場に投入される「マイクラEV」、日本への導入は記されていません。マイクラは日本ではマーチと呼ばれ、かつては日産の屋台骨を支える存在でした。「マーチ復活」なるか、今後が注目されます。
37年間、生き長らえた日産車があった
商品戦略ではハイブリッド車の投入や競争力あるEVの展開などに目が行きがちですが、やや違う視点からも論じます。

青葉オートの松尾義明社長
以前もお伝えしましたが、日産にはかつて「サニートラック」という小型ピックアップトラックがありました。通称「サニトラ」、かつての大衆車「サニー」から派生したもので、1967年に初代が発売。特徴的なのは1971年からの2代目。乗用車のサニーがモデルチェンジで世代が変わっていく中、改良を重ねながら日本では1994年まで23年間、販売されました。
さらに、国内販売を終えてからも南アフリカでは「バッキ―」という車名で2008年まで販売されます。足掛け37年も新車として生き続けたわけです。その販売期間の長さから様々なパーツも豊富で、ドレスアップの素材として根強い支持があります。
そのサニートラックを扱う専門店が日本国内に存在します。それが横浜市にある青葉オート、松尾義明社長はサニートラックの魅力についてこのように語ります。

青葉オートの松尾義明社長
「ちょっと“スポーツ”が入っている。ゴーカートみたいだという人もいる。スニーカーとまではいかないが、自分と一体化した乗り味がある。大排気量でもない1200ccのエンジンを一生懸命回しながら、ダイレクト感を受けながら、カーブを曲がっていく、そういう楽しみはある」
「街を走っていると、ベビーカーに乗っている子どもの目が釘付けになっている。これがかっこいいと教えているわけではないのに、子どもたちがサニートラックに目を持っていかれている。それは乗っていてすごく感じる」
サニトラショップ社長が語る“愛される日産車像”
以前お伝えした「旧車のモーターショー」と呼ばれるイベント「ノスタルジック2デイズ」ではスカイライン、ブルーバード、サニー、フェアレディZ、ダットサントラックなど往年の日産車が元気、イベントの主役と言って過言ではありませんでした。
根強い日産車のファンが多い理由について、松尾社長はメカニックの立場から、パーツ=部品の重要性を説きます。
「パーツがまだ出ている、(国内販売終了から)30年経ったサニートラックのパーツを日産でつくってくれている、部品が何とかあるから新車みたいにまだ長く乗っていける。日産がそれをやれれば、客はずっと日産に通う」
そして、“愛される日産車像”についても率直に語ります。

サニートラックのウォッシャー液充填ポケット カンガルーの絵が「遊び心」をくすぐる
「憧れのクルマであってほしかった。いまのGT-Rは買いたいが、届かない所に行ってしまっている、もうちょっと手軽なシルビアクラスをもう一回、あれ乗りたいなというのをつくってほしい。自分たちの年代が惚れるのではなくて、本当に30代ぐらいの人が惚れるような、ちょっと仕事をがんばって稼いだらあれを買おうかなという夢をもたせるようなことをしてほしい。もう1回、いまの時代のサニートラックをつくるとか、軽トラックに負けないぐらいの考えでつくっていってほしい」
いまのGT-Rは2007年に投入されましたが、18年経った今日、最も安いピュアエディションで1400万円を超えています。確かに手が届かない所に行ってしまった感があります。
松尾社長は今の日産については「上から目線のにおいがする」とチクリ。その上で新体制、あるべき姿については次のように語ります。
「こういうクルマが売れるということを、売っている人、修理している人がわかっていると思う。その意見をもっと取り入れていけばいい」
販売店も1人1人の顧客を大切すべきと話します。それが次の商売につながることであると……。お客さんに10年経ったから、10万km乗ったから乗り換えを促す、お客さんが車検や修理を希望するとすごい見積もりを出して“逃げている人”がたまにいると言います。
「売ろう売ろうだけでは、モノは売れないと思う」
顧客の女性から「娘が免許を取ったからここで買いなさいよ、良くしてくれるから」と言ってもらえるような関係が大切だとも話していました。
松尾社長の話からは“愛される日産車像”がおぼろげながら見えてきます。それは高い技術を持ちながらも、少しがんばれば手に入れることのできる憧れのクルマ、部品供給などアフターサービスの充実したクルマ、メーカーだけでなく、ディーラーやユーザー、サプライヤーが一体となって育てていくクルマと言えるでしょう。

欧州市場に投入予定の日産「マイクラEV」
日産らしさ、原点を経営陣はどこまで理解できるか?
「恒産なくして恒心なし」、孟子の言葉です。「安定した財産や職業を持っていないと、安定した道徳心を保つことは難しい」という意味です。今週に入って、ルノーへの出資比率の15%から10%への引き下げ、ルノーとのEV新会社「アンペア」への出資見送りのニュースも飛び込んできました。資金確保の一環とみられます。事業再生で経営基盤を安定化させることは急務ですが、日産らしさ、原点、いわば根っこともいえる要素を経営陣が理解し、新型車やサービスに反映させることは何よりも大切です。
また、海外市場に投入される車種を見ますと、「マイクラEV」だけではでなく、SUVの「新型ジュークEV」、「マグナイト」、コンパクトセダンの「セントラ」……、日本市場にあったらいいなと思うものも少なくありません。巨大市場である北米や中国の立て直しが喫緊の課題ではありますが、ホームマーケットである日本にもより目を向けるべきでしょう。そのあたりはまだ心もとないと感じます。
数多の懸念を払しょくし、期待にどう応えていくのか……、今後も“いばらの道”であることに変わりはありません。日産新体制の動きに注目したいと思います。
(了)