税制改正、自動車関係諸税改革への期待
公開: 更新:
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第450回)
■税制改正「年収の壁」引き上げの一方で、注目したいこと
臨時国会は会期を延長することなく12月17日に閉幕しました。そして、ほどなく2026年度の与党税制改正大綱も取りまとめられました。所得税が生じる「年収の壁」の178万円への引き上げが盛り込まれたほか、住宅ローン減税は中古住宅を対象に拡充されます。特に「年収の壁」については国民民主党の「悲願」が取り入れられた形です。

与党税制改正大綱
これとは別に、半世紀以上続いてきたガソリンの暫定税率が年末の12月31日から廃止されます。クルマを日常の足として活用している人々にとっては、ありがたいことだと思います。
一方、大綱で注目したいのは自動車関連税制の項。今年度の37行から、新年度は116行の長きにわたって言及しています。注目の一つは「環境性能割」の廃止。EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)など、環境性能(主に燃費、電費の面で)の高い車両には税率が低く、車種によって0~3%課税されるものでした。
2019年までは自動車取得税という税がありました。これは車両価格に登録車3%、軽自動車2%が課税される地方税でしたが、消費税が導入されて以降、「二重課税」という指摘が付きまとっていました。そこで、2019年10月、消費税の10%への引き上げに合わせて廃止されましたが、地方の税収入を賄うために、自動車取得税に置き換わる形で導入されたのが環境性能割でした。
環境性能への配慮という名目はあるものの、これまた「二重課税」の批判は免れず、今回の大綱で廃止となったわけです。これについては業界団体の日本自動車工業会(以下 自工会)も二重課税の解消、自動車関係諸税の簡素化、国内市場の活性化などが進むとして、歓迎の意向を示しています。

与党税制改正大綱 自民党と日本維新の会の連名になった
■自動車関税諸税、簡素化への期待もまたぞろ……
ただ、暫定税率、環境性能割の廃止などで減少する財源穴埋めのため、クルマに関する様々な「課税案」が浮上してきています。その一つはEV=電気自動車に対する新税、俗に「EV新税」と呼ばれるものです。具体的な税率については、2027年度税制改正で結論を得るとしていますが、共同通信などが伝えるところでは、重量に応じて課す税額を1年に最大2万4000円とする方向で検討しているということです。自動車重量税に上乗せする形で、2028年からの実施を目指しています。
EV新税が検討される理由は、エンジン車に課されている燃料に関する税(ガソリン税など)に相当する税が必要ということ、EVは一般に同クラスのエンジン車より重く、道路への負担が大きいことが挙げられています。
エンジン車に相当する税がないから、EVにも同様の課税をするというのはいささか理解に苦しみます。燃料を使わず(製造過程で使用することはあるにしても)走らせるEVそのものはカーボンニュートラルに寄与しますし、それを実現するために膨大な技術が詰まっているはずです。そうした技術者の思いを蔑ろにする考えと言わざるを得ません。

自動車関係諸税の項は、前年度の37行から116行に大幅に拡充された
一方で、以前小欄でもお伝えしましたが、EVには重量が2トンを超えるものも少なくありません。航続距離を延ばすため高性能のバッテリーを搭載したり、セルを増やせば車重は増加します。さらに重いバッテリーを支えるために車両を補強する必要があります。重さが重さを呼ぶ格好です。道路への負担のみならず、タイヤの寿命短縮にもつながり、果たして地球に優しいと言えるのか……。こうしたロジックは理解できます。
それでも気になるのは、EV新税を自動車重量税に上乗せする形で徴収するという部分。これまた「二重課税」の指摘がついて回ります。重いクルマが道路の負担になるのはエンジン車も同じ。ならば、自動車重量税の課税額を見直すことで、EV、エンジン車ともに“公平”に組み直す方が理に適っていると思います。
排出ガス規制への対応に苦慮していた1970年代後半、例えば、日産自動車のスカイラインの車両重量は約1.2トン、フェアレディZが約1.3トンで自動車雑誌に「重量級ボディ」と記されていたのを思い出します。しかるに、現在のスカイラインは1.7トン超、フェアレディZの上級車種は1.6トン後半です。衝突安全対策という事情はあるにせよ、時代の流れを感じます。

日本自動車工業会 左:片山正則・現会長(いすゞ自動車会長)、右:佐藤恒治・次期会長(トヨタ自動車社長)
■複雑怪奇な自動車税制から解放されるのはいつの日か
古くから言われていることですが、クルマには網の目のように税金が張りめぐらされています。取得時・購入時には消費税(車体課税)が、保有時には自動車税、軽自動車税、自動車重量税が、そして、走行時には揮発油税、地方揮発油税、軽油引取税、石油ガス税が課されます。さらにこれら燃料としての消費税もかかります。自工会によると、2025年当初予算ベースで、自動車ユーザーが負担する税金の総額は9兆円あまり。国の租税総収入128兆円の7.1%にあたります。
自動車取得税が廃止されたと思ったら、環境性能割ができ、それが廃止されれば、今度は「EV新税」と……、「手を変え、品を変え」わき出してくる新税に、経済産業省や自動車業界からの反発の声が挙がっています。特にクルマを日常の足としているユーザーからみれば、こうした流れにうんざりしているのではないでしょうか。
なお、補助金やエコカー減税でEVを優遇する一方で、新たな課税は今後の普及にブレーキとなるのではないかという指摘もありますが、これについてはEVの普及が進めば、補助金などの措置は縮小・廃止の方向に向かうのが自然の姿で、現在は過渡期にあると考えます。重要なのは、税の三原則である「公平」「中立」「簡素」のために何が必要かということです。

一新された自民党のポスター 税制改革の本気度が問われる
■技術の研鑽を促すような税制を!
他方、大綱にはこうも書かれています。
「平均的な重量を下回る電気自動車等については、電気自動車等の普及との両立や、軽量化に向けた技術開発や自動車ユーザーによる選択を後押しする観点から、過度な負担にならないよう配慮する」
この考え方は大変重要だと思います。EVのある技術担当者は、今後は構造部品や材料の進化によってバッテリーの軽量化が進むと話します。次世代バッテリーの全固体電池で飛躍的な軽量化も進むことでしょう。「重いクルマには文字通り“重税”を課す」という姿勢が、より軽いバッテリーや車両の開発につながるよう、技術陣の奮起を期待します。
おりしも、自工会の会長が来年1月1日付で片山正則氏(いすゞ自動車会長)から佐藤恒治氏(トヨタ自動車社長)に交代します。来年以降の重要テーマとして「新7つの課題」を掲げましたが、その一つに「自動車関連税制 抜本改革」が入っています。税制の改革は税金をただ安くするだけでありません。税の簡素化に加え、クルマの技術向上に資する一歩になることを切に願っています。
(了)





