今後のEV市場を展望 スズキ初のEVに乗ってみた
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第459回)
今年1月末、千葉市・幕張メッセ近くでスズキ初のEV=電気自動車「eビターラ」を試乗する機会がありました。クルマそのものは昨年9月に発表されましたが、発売を開始したのは今年から。自動車専門誌のようなきめ細かな論評はできませんが、私が素直に感じたことをお伝えしていきます。

スズキ初のEV「eビターラ」
■失礼ながら……、スズキらしからぬ高級感
eビターラは世界的に主流のSUVタイプ。厳寒の朝、車両に乗り込むと、スズキというクルマのイメージからはひと味違う雰囲気が漂ってきました。黒を基調にしながら随所に茶色のソフトバッドがあしらわれ、フル液晶のディスプレイ、ピアノブラック塗装のシフト周り……、スズキには大変失礼ですが、一段上質なクルマに仕上がっていました。名誉のため申し上げておきますが、一般的なスズキ車は質実剛健で機能美があり、私は嫌いではありません。ただ、柔らかなパッドに覆われた感触は、「フラッグシップ」(関係者)として、「力が入っているな」と感じた次第です。開発担当者に率直な感想を申し上げると「よく言われます」と苦笑していました。シートヒーターのほか、ステアリングにもヒーターが仕込まれ、厳寒の環境では誠にありがたい装備です。

質感にこだわったインテリア
■EVらしさを求めるか、普通のクルマを目指すのか……、その乗り味は?
いざ、車両を動かすと、段差がなくヒューンと加速し進んでいきます。がさついたところもなく、低速ではエアコンの音が気になるぐらい、このあたりは「EVならでは」ですが、機械感を感じない所は好みが別れるところでしょう。一方、「地に足が着いていながら、軽やかな感じ」がするところは、軽自動車、小型車がメインのスズキらしいところです。
以前試乗した日産自動車のリーフとは同じSUVタイプながらキャラクターの違いを感じます。小欄でもお伝えしましたが、リーフは時速100kmでアクセルを踏んでも滑らかで静か。優しい乗り味です。また、センターコンソール部分がシンプルで、ダッシュボードの下には空間が広がります。シフトスイッチをボタン式にしてインパネに組み込んだこと、「3-in-1」と呼ばれるEVユニットの小型化に加えて、ユニットと室内を仕切る隔壁=バルクヘッドをくり抜き、エアコン関連機器を前に突き出したことで、室内スペースは広々としていました。

目につくところにソフトバッド 柔らかな感触
一方、eビターラのシフトスイッチは従来のフロアシフトの位置にあります。ただし、スイッチが動力源と機械的につながっていない「シフト・バイ・ワイヤ」のため、薄型となりました。そのため、スイッチは床から生えておらず、「ブリッジ」のように浮かせたプレートに“鎮座”しています。これは、日産・ノートでも採用されているレイアウトで、プレートの下には小物入れが設置されています。
新型リーフは初代から数えて三代目、日産の開発担当者は「メインストリームのEV」と位置付ける一方、「EVの枠を飛び出していい」「普通に乗って普通に良かったと言ってもらえるのが一番うれしい」と話していました。日産復活に向けた“熱量”は感じるものの、クルマ自体はEVを10数年つくり続けてきた経験から、力みのなさと熟成感があります。
これに対し、eビターラはエンジン車からも乗り換えやすいクルマを目指しながら、「EVっぽい所は出していきたい」とスズキの開発担当者は話します。大型の液晶ディスプレイ、形状を変えたステアリング、存在感のあるシフトスイッチもその一環でしょう。

EVシステムはトヨタ、スズキ、ダイハツ3社の共同開発
スズキ初のEVということで“教科書”に沿った堅実さも感じます。大きなバッテリーを床下に配置するために、クルマの土台となるプラットフォームをEV専用に開発。また、後輪サスペンションではスズキには珍しくマルチリンク式を採用しています。「重量が重いことから、マルチリンクでアームをたくさんつけて剛性を上げた」と開発担当者は話しますが、ベースとなったのはかつて販売されていたセダン「キザシ」。過去の遺産がここで活きました。「地に足ついた感覚」はこのサスペンションの賜物でしょう。マルチリンク式はリーフにも採用されていますが、リーフにはない4輪駆動車があります。「雪国でEVに乗りたいけれど4WDがあれば乗ってもらえる。まんべんなくいろんな人に乗ってもらいたい」と、開発担当者は選択肢の広さをアピールしていました。4輪駆動車にも試乗し、都心では後ろから押されるような感覚がありましたが、本来は雪道や悪路で真価を発揮するもの。そうした地域に対しては大きな武器になるでしょう。
航続距離はeビターラが約430~520km、リーフは469~702km(いずれもWLTCモード)、価格帯はeビターラ399.3万~492.8万円、リーフは438.9万~651.31万円。ライバルというには微妙ですが、一部は重なるところがあります。同じSUVでも力みのない都会的なリーフ、スズキ初のEVで力の入ったeビターラ、リーフの乗り味については以前「甘さ抑えた上品な和菓子」と表現しましたが、eビターラをスイーツでたとえれば「街のケーキ屋さんの新作ショート」といったところでしょうか。

底面にバッテリーを敷き詰めるため、床はやや高い。
■EVは「選択肢の一つ」に成長するか?
EV市場は世界的に見ると、大変微妙な景色になっています。欧米では政策転換もあり、戦略の見直しを迫られるメーカーがある一方、中国では価格競争が激化しているという二極化の状況にあります。そんな中で、日本国内のEV市場は…ここへきてSUVの分野でにぎやかになってきました。また、軽自動車の分野でも商用車を含めて投入が相次ぎ、スズキや中国・BYDの参入も控えています。街乗りメインの軽自動車、4WD化を含めた電子制御が緻密なSUV……、このあたりにEVの“鉱脈”があるような気がします。今後、充電器などのインフラがさらに充実すれば、主流とは言えなくても、「選択肢の一つ」と位置付けられるところまで活性化する可能性があります。
とは言え、昨年の日本市場でのEVの販売比率は全体の2%あまり。当面はエンジン車、ハイブリッド、EVなど、多様な商品構成が求められることになります。これをトヨタ自動車は「マルチパスウェイ」と呼んでいますが、このような体制を単独で維持できるメーカーは世界的にも限られると思います。これに自動運転や知能化の技術開発も加わります。今後、各社の協業がさらに進むことが予想されます。特に経営再建途上の日産、四輪分野で営業赤字のホンダ、経営統合は破談に終わりましたが、両社の動きは今後も注目したいと思います。

eビターラのシフトスイッチはダイヤル式。駆動系のスイッチがここに集中する
■電池の重さ、様々な操作系……、EV今後の課題
独断ではありますが、EVに潜む根本的な課題について指摘しておきます。一つはリーフ試乗の際にも申し上げましたが、バッテリーの重量です。リーフの上級車種の重量は1.9トンを超え、eビターラも4輪駆動車は1.9トンに迫ります。
「重たいのが電池。それを支えるために板金部品を補強する(さらに重くなる)。全固体電池などになって軽くなればクルマも軽くできる」
スズキの開発担当者の弁です。重い車両は航続距離のみならず、タイヤの寿命短縮や道路への負担も大きいと言います。
国土交通省などによると、自動車の道路への負担は軸重(車軸にかかる重量)の4乗に比例すると言われています。つまり、同じ四輪車の場合、重量が2倍になると道路への負担は2の4乗=16倍に及びます。この計算は主にトラックの例として引き合いに出されますが、乗用車でも2トンのクルマは1トンのクルマの16倍の負担に相当します。バッテリーに関しては一段のブレイクスルーを期待したいところです。

日産リーフのシフトスイッチはボタン式
もう一つ、指摘したいのは操作系。特にシフトスイッチです。これはEVに限らず、電動車全般に言えることですが、動力源と機械的につなぐ必要のない「シフト・バイ・ワイヤ」により、シフトスイッチは場所を選ばなくなりました。
操作方法もレバー式のほか、ボタン式、ダイヤル式、パドル式と様々です。軽い操作感のほか、先進性や未来感をアピールする狙いがあると思われます。今後、自動運転技術が進化すれば、タッチパネルによるシフト操作も出てくるかもしれません。
ただ、動力に関わる操作系がクルマにとってまちまちという現状は、決して好ましいものではないと思います。要は「慣れ」なのでしょうが、近年、レンタカーやカーシェアリングなど、所有の概念が変化しつつある中、いつまでも慣れきれないケースも多くなるのではないでしょうか。
まさに「100年に一度の大変革」の過渡期なのかもしれません。動力に関わる部分は国際規格である程度統一的な操作方法を決めることができないものか。警告灯の絵表示については国際規格が定着しており、決して不可能な話ではないと思います。
(了)





