「ロシアは仕方なくウクライナを侵攻した」と言う日本の言論者がいるのはなぜか

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ジャーナリストの佐々木俊尚が7月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢について解説した。

2022年4月27日、議会関係者との会合で演説するプーチン大統領=ロシア・サンクトペテルブルク(タス=共同) 写真提供:共同通信社

NATO全加盟国がフィンランドとスウェーデンの加盟議定書に署名

北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は7月5日、北欧のフィンランドとスウェーデンの加盟を承認する議定書に署名した。北欧2国の加盟が実現すれば、NATOの新規加盟は2020年の北マケドニア以来となる。NATOは32ヵ国体制となり、第二次大戦後のヨーロッパの安全保障体制は一変する。

飯田)各国批准手続きがあるため、ロイターによれば1年はかかるのではないかということです。まだまだ先は長いわけですね。

佐々木)いずれにしても、ロシアが手を出したことによってヨーロッパが再結束することになった。それまでは、EUもうまくいかないし、「崩壊寸前のヨーロッパ」などと言われていたのが、このような事態になって、逆に結束力が強まったというのが何とも皮肉な話です。

「緩衝地帯であるウクライナをNATO側に引き込もうとしたので、仕方なくロシアがウクライナに侵攻した」と言う言論人がいる ~日中戦争の際の日本を肯定することと同じ

佐々木)NATOとロシアの関係について、日本の言論人の見方が真っ二つに分かれているのが不思議です。「ロシアの侵略戦争を誰も肯定してはいけない。ウクライナが一生懸命抵抗して戦っているのを西側諸国が支えるべき」というのが良識的な意見だと思います。

飯田)良識的な意見。

佐々木)一方で、ウクライナはいままでNATOとロシアの緩衝地帯だったけれど、その緩衝地帯をNATO側に引き込もうとした。「だからロシアは仕方なくウクライナに手を出したのだ」と言っている人が、日本の言論人と言われる方々のなかにもかなりいるのです。しかし、それを肯定してしまうと、日中戦争のときの日本を肯定することになってしまいます。なぜ肯定しているのかわかりません。

飯田)開戦当初は、「国際法に照らして考えると、力による現状変更は許されない」という認識だったものが、4ヵ月くらい経ち、「そろそろウクライナは手を引くべきだ」と意見が変わってきた人もいますね。

一国の独立と自由を守るために、力による侵略に対して抵抗するのは当然のこと

佐々木)「ウクライナは人を死なせないために降伏するべきだ」と、降伏論を唱える人もいます。力による侵略に対して抵抗しなければいけないというのは、一国の独立と自由を守るためには、当たり前のリベラリズムの考え方だと思うのです。

飯田)一国の独立と自由を守るためには。

佐々木)しかし、「戦争はすべていけないのだ」というスタート地点から入ってしまうと、「抵抗して人が死ぬのもいけない」という発想になってしまうのではないでしょうか。何をスタートにするかによって、だいぶ変わると思います。

日本が戦争に巻き込まれた場合、日本人の戦死者を出さないために降伏するべきなのか

佐々木)反戦平和は大切な考え方だし、もちろん戦争をしてはいけないのだけれど、仮に侵略戦争を起こされてしまったら、我々はどうすればいいのかということです。

飯田)いきなり攻められたら。

佐々木)仮に東アジアの危険な状況のなかで日本が戦争に巻き込まれてしまった場合、「日本政府は日本人の戦死者を出さないように降伏するべきだ」と言うのかどうか……言いそうですけれどね。

ウクライナに対して「個別的自衛権を放棄しろ」と言っているのは不思議な現象

飯田)そもそも論として、いまの国際法の理解のなかでは、戦争そのものが違法な行為である。そして違法な行為を仕掛けられたときには、自衛する権利が各国にはあるし、当座は仲間の国々と手を取り合って守るということも含めて、ある意味の集団的、個別的、双方の自衛が国連憲章によって認められている。

佐々木)日本での議論で言うと、第2次安倍政権時に安全保障関連法案をつくったとき、「個別的自衛権は認めるけれど、集団的自衛権は認められない」というような議論がありました。

飯田)ありましたね。

佐々木)そこで個別的自衛権を否定している人は誰もいなかったはずなのに、ウクライナに対して「個別的自衛権を放棄しろ」と言っているのは、不思議な現象だなと思います。

28日、覚書の署名後に記念撮影に応じる首脳ら。左からストルテンベルグNATO事務総長、トルコのエルドアン大統領、フィンランドのニーニスト大統領、スウェーデンのアンデション首相(ロイター=共同) 2022年6月28日 写真提供:共同通信社

「ロシアが怖いと思っている国がNATOに入ることを望んでいる」のが現状

佐々木)地政学者のミアシャイマー氏が言っていますが……。

飯田)「リアリズム」の理論の。

佐々木)ウクライナは緩衝地帯で、アメリカなどのNATO西側諸国が、ウクライナを緩衝地帯からNATO側に寄せたということは、地政学的に言うとバランスを逸していると。それはロシアにしてみれば、緩衝地帯がなくなるということになると言っています。

飯田)ロシアにとっての緩衝地帯がなくなる。

佐々木)その議論を引っ張ってきて、「ミアシャイマーも『ロシアが戦うのは仕方がなかった』と言っている」と主張する人もいるけれど、それは違います。大国と大国、アメリカとロシア、NATOとロシアという関係で言うと緩衝地帯ではなくなり、ロシアにとって問題だという話は確かにそうです。しかし、ミアシャイマー氏の地政学の理論は、完全にパワーバランスというようなことであり、「ウクライナの国民がそれについてどう考えているか」という一国の自立と自決の問題に関しては、あまり議論していないのです。

飯田)ミアシャイマー氏は。

佐々木)逆にウクライナ国民から見れば、NATOが拡大しているのではなく、「ウクライナ人がNATOに入りたい」と思っているのです。NATOが拡大しようとしているのではなく、「ロシアが怖いと思っている国が次々にNATOへ入ることを望んでいる」という状況です。そこは各国における一国の自立、自由の視点が欠落しているのではないでしょうか。

ロシアの起こした侵略戦争に関して、1ミリも認めるべきところはない ~ロシアの言い分との両論併記は間違っている

飯田)情報の取り方に関しても、ロシアは西側のプロパガンダだと報じているではないかと。両方見なければバランスが悪いと言う人もいますが、一方で、ロシア側の情報はすべてロシアのフェイクニュースも混ざっているかも知れないと指摘する人もいます。

佐々木)両論併記しなければいけないという議論があります。確かに両論併記は重要なのだけれど、新型コロナのときにも、原発事故のときも言われましたが、ニセ科学と科学を両論併記する必要はないだろうということです。

飯田)ニセ科学と科学を。

佐々木)今回もまったく同じだと思います。ロシアがどういうマインドでこの戦争を起こしたのか、地政学的な視点から見ると、ロシアの置かれている立場はどうなのかということを理解するのは重要です。しかし、ロシアの起こした侵略戦争に関しては、1ミリも認めるべきところはないわけです。「ロシア側の気持ちも慮って」という姿勢で両論併記することは間違っています。その原則を崩してはいけないと思います。

安全保障の専門家の発言とワイドショーのコメンテーターの発言との「違う世界」 ~認識の分断

飯田)防衛研究所の山添博史さんがツイートしていましたけれど、「ロシアにはロシアなりのバイアスが掛かった情報の出し方がある」と。ウクライナ・西側にも、当然、情報のバイアスは掛かっているのですが、独立系メディアによって個別に検証ができる状況にあるので、「どちらがより信用できるか」ということになると、西側を中心にした方が信用できるのではないかという指摘がありました。

佐々木)日本に住んでいて、どういう情報を取るのかということです。私は「ウクライナ情勢ウォッチ」というツイッターのリストをつくっていて、軍事・安全保障の専門家の方を30~40人フォローし、その人たちの情報を見ています。

飯田)30~40人の方の。

佐々木)見ていくと、共有認識のようなものが安全保障の人たちにはあるのです。そこで語られている議論と、テレビのワイドショーでコメンテーターが「ウクライナは降伏するべきだ」というようなことを言っているのとは、まったく違う世界なのです。

飯田)違う世界である。

佐々木)以前も、左派言論人の人たちがウクライナ侵攻に対する声明のようなものを出していて、それを見ると「ゼレンスキー大統領は戦争に突き進んでいる」というような文言が書いてある。「ゼレンスキー大統領が戦争に突き進んでいるのではなく、プーチン大統領が突き進んでいるのだろう」とみんな思っているのに、なぜかそこにまったく違う世界が広がっている。新型コロナ感染症に関して、反ワクチンの人たちとそうでない普通の人たちの間で別世界になってしまっているのと同じくらい、認識の分断があるのは不思議だなと思います。

ウクライナ情勢に関しては慶応SFCや防衛研究所の安全保障の専門家の意見をチェックする

飯田)佐々木さんは『読む力 最新スキル大全』という本を出されていらっしゃいますけれども、ここで書かれていることの応用というか、ジャンルは違えど同じ作業であると。

佐々木)専門家をたくさんフォローして、その専門家がそれぞれ何を言っているのかをきちんと見るということです。面白いのは、専門家同士の仲がいいのですよ。安全保障の人たちでは、地政学の奥山真司さんや防衛研究所の山添博史さん、高橋(杉雄)さんなど、みんな仲がいいのです。ツイッターでやりとりなどもしています。あとは慶応大学の人ですね。

飯田)慶応SFCの人たち。

佐々木)あそこには安全保障の専門家が集中しています。

飯田)細谷雄一さんなど。

佐々木)ウクライナ情勢に関しては、慶応SFCと防衛研究所がハブになっている感じです。その人たちがどのくらい認識を共有しているかということをチェックすることが大切だと思います。

(C) Sarsenov Daniiar/Ukraine Preside/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy talks by phone with U.S. President Joe Biden, from his office at the Mariyinsky Palace, June 15, 2022 in Kyiv, Ukraine.

きちんとした肩書の「専門家」の言っていることは正しい

佐々木)コロナ感染症が拡大してきた初期もそうでした。忽那賢志先生などの感染症専門医の方がいて、その先生が言っていることと、当時テレビにいろいろな専門家の先生が何人か出ていましたが、両者では言っていることが180度違う。「どちらを信じたらいいんだ」という方も多かったと思います。結局、「感染症専門医」というきちんとした肩書の人たちが言っていることの方が、「やはり正しい」という認識を持つべきだと思います。

飯田)きちんとした肩書。

佐々木)今回に関して言うと、慶応SFCと防衛研究所には権威があるわけです。権威という言葉が嫌いな人もいるかも知れませんが、「何を信じるか」となったときに、オフィシャルかどうかということです。

飯田)積み重ねられた何かというのは、集合知のようなものが既にあるということですよね。

陰謀論クラスタにハマってはいけない

佐々木)「何をスタート地点にするか」ということを間違えてしまうと、「陰謀論クラスタ」にハマってしまうという問題があります。陰謀論を最初に信じてしまうと、陰謀論から陰謀論、陰謀論から陰謀論……というように、陰謀論の人ばかりフォローするようになってしまう。そこにハマらないようにすることは大切です。

飯田)同じ事象でも、少しずつ見方が違い、それをすり合わせていく作業がツイッターで可視化されると、「この人たちはそれぞれの見方で言っているのだな」ということがわかってくる。

佐々木)ちなみに新型コロナのときは、テレビのワイドショーで言っていることと、ツイッターで専門家が言っていることが食い違っていて大変だったのですけれど、今回のウクライナ侵攻に関しては、テレビのニュース番組に出ているコメンテーターが安全保障の専門家の方々で、完全に食い違っているということはほとんどありません。そこはよかったと思います。

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