数量政策学者の高橋洋一と、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が8月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。新たに就任した露木警察庁長官について解説した。
警察庁の露木長官が就任会見
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露木長官は安倍元首相銃撃事件の検証チームでトップを務め、「痛恨の極みで重く受けとめている」とした上で、再発防止策について「不断の見直しが重要だ」とも指摘している。
飯田)先週発表された報告書をつくっているトップですが、報告書を具体化することが任務になると、会見のなかでもおっしゃっていたようです。報告書などもお読みになってみて、いかがですか?
高橋)情けなくなりましたね。
飯田)情けなくなったと言うと?
高橋)警備に関して、日本では安全神話があるけれど、海外は違います。例えばお隣の韓国も以前、朴槿恵さんが群衆から焼酎瓶を投げつけられましたが、すぐに十数人の警護員が取り囲んだではないですか。
飯田)朴槿恵さんが私邸前であいさつしたとき。
高橋)日本だとああいうことはありませんよね。安倍元総理の警護者はSP1人でした。1人なのは驚きですし、1人では苦しいですよね。特にあのときは後ろが普通の通りでしょう。いろいろな人が通っていて、そこに気を取られてしまったということが報告書に書いてあるのですが、まず気を取られていてはダメです。そもそも、後ろを人に通られてはいけません。後ろを通った台車に気を取られてしまったという話でしょう。
飯田)事件の経緯を見るとそのようですね。計画がどうして通ったのかということも。
高橋)現場に行ったとき、「ここはないだろう」と思いました。360度、どこからでも狙えるのです。
ボディーガード専門の庁があるロシア ~ロシアの要人のための警護体制は人数も尋常ではない
飯田)小泉さんはどうご覧になりましたか?
小泉)北方領土に行ったとき、当時の山本一太沖北大臣とご一緒しましたが、あのときもSPは1人だけだったのです。一方シロアで暮らしてみると、ロシアの要人警護は日本とはまったく違います。昔のKGBのなかには第9局という、ボディーガード専門局があったのです。それが独立して連邦警護庁という、ボディーガードのための庁がある。
飯田)1個の組織が。
小泉)クレムリンを守っている警護連隊のようなものもあるし、要人の通信回線を運用している部隊もあり、ものすごい数のボディーガードを養成しています。ロシアの要人のための警護体制は、我々では想像がつかない感じです。人数も尋常ではないですし、マスコミが入る際のカメラ位置も彼らが決めるそうなのです。
パーティーで出された食事や飲み物にはいっさい手を付けないプーチン大統領
小泉)プーチン大統領は、パーティーで出された食事や飲み物にも手を付けません。
飯田)そうなのですね。
小泉)大阪で開催されたG20のときもそうでしたが、自分でロシア連邦の国章が付いたタンブラーを持ってくるのです。中身はわかりませんが、それしか飲まない。昔はパーティーでカクテルくらいなら飲んでいた気がしますが、20年やっているうちに「俺も気を付けないと危ないぞ」という気持ちがあるのでしょうね。人前ではほとんど飲食しません。
プーチン大統領の排泄物もすべて警護が持ち帰る ~健康状態が知られないよう
小泉)G20のときに日本でも報道されましたけれど、プーチンさんは排泄物も全部持ち帰っているのです。
飯田)排泄物も。
小泉)連邦警護庁の方々が持ち帰って、プーチン大統領の健康状態なども知られないようにしている。そういう猜疑心の塊のような国もあるし、日本のように緩い国もあります。
国民との距離は遠いロシア ~強まった猜疑心で世界観がおかしくなったプーチン大統領が今回の戦争を始めた可能性も
小泉)私はどっちもどっちだと思うのです。ロシアのようにガチガチに固めてしまうと、要人は安全かも知れないけれど、国民との距離はすごく遠い感じもします。多分、新型コロナの問題や長年の独裁で猜疑心が強くなり、世界観がおかしくなってしまったプーチンさんが、今回の戦争を始めたのではないかという気がします。
首相に近付いて握手することもでき、市民との距離が近い日本 ~民主主義のコストか
小泉)一方、日本のように距離が近すぎて元首相が殺されてしまう国というのも、それはそれで問題です。他方で、市民との距離は近いわけです。安倍さんのところに行って握手したい、ひとこと言いたいという人が近付けるということでもあります。それはある種、民主主義のコストなのかも知れません。やはり今後の警備体制は考えた方がいいと思います。
山口県で安倍元総理と対談した際、温泉に入らなかったプーチン大統領
飯田)ロシアの警護はものすごいですね。
高橋)安倍さんに聞いた話ですが、プーチンさんが山口県に来たでしょう。
飯田)長門に来ましたね。温泉で対談しました。
高橋)いろいろと大変だったらしいですよ。
飯田)ロジを整えてくれとか。
高橋)日本的な感覚でロジを整えるのだけれど、まったく違うらしいです。全然違う感覚なのでしょうね。当時、プーチンさんがお風呂に入らなかったということが報道されました。
小泉)私もそう聞きました。
飯田)当時は「せっかく温泉に行ったのに、お風呂に入らないのか」と思ったけれど。
高橋)とんでもないですよ。「素っ裸になって拉致でもされたら大変だ」という感じではないでしょうか。
疑いや性悪説に基づいて人を見るプーチン大統領
小泉)日本人は浪花節の世界で生きているのだと思いますが、ロシア人は基本的にドストエフスキーの世界に生きているわけです。ましてプーチン大統領は、ドストエフスキーの小説の舞台になったサンクトペテルブルク出身でもあります。KGB出身ですし、疑いや性悪説に基づいて人を見ているのでしょうね。
飯田)疑いや性悪説に基づいて。
小泉)プーチンさんを警備しているのも、旧KGB機関の人たちですから。「おいでませプーチンさん」というように迎えられても、「本当に大丈夫なのか、ここで裸になってもいいのか」ということを考えるのでしょうね。
飯田)ドイツのライプツィヒにあるKGBの博物館に行きましたが、「こういう盗聴をしていたのか」と思いました。
高橋)盗聴ならまだいいですけれどもね。
飯田)仕込み杖やいろいろなものが出てきて。
高橋)我々と感覚が違うでしょう。見ている世界が違うわけだから。
東ドイツとソ連の国家崩壊を2回見ているプーチン氏
飯田)冷戦が崩壊していくとき、プーチンさんは東ドイツにいたのですものね。
小泉)そうですね。プーチンさんはゴルバチョフさんのペレストロイカを生で見ていないのです。
飯田)本国にいなかったから。
小泉)ロシア人が自分たちでソ連体制を変えようとした状況を、同時代的にプーチンさんは見ていないのだと、よく指摘されます。
飯田)いなかったから。
小泉)東ドイツ崩壊のときに立ち会っていて、自分がいたドレスデンのKGB庁舎が市民に囲まれ、怖い思いをした。そのときソ連軍に何とかしてくれと言ったけれど、ソ連軍は何もしてくれないし、モスクワのKGB本部も何もしてくれなくて怒ったということです。
飯田)東ドイツ崩壊のとき。
小泉)国に帰ってみたら、今度はゴルバチョフ氏に対して自分の親玉であるKGBのクリュチコフ議長がクーデターを起こしたわけですから。また大混乱になってしまい、嫌気がさしてKGBに辞表を出したとプーチンさんは言っているのです。
「国家や新社会は上から押さえつけておかないと、いつバラバラになってしまうかわからない」という恐怖心を常に持ってきたリーダー
小泉)その4ヵ月後には、ソ連そのものがなくなってしまった。ですから、若いときに改革というものは見ていないけれど、国家の崩壊は2回連続で見ているのです。
飯田)東ドイツとソ連の崩壊。
小泉)世の中をよくしていこうという方向へリベラルに考える、という部分はプーチンさんのなかになくはないのですが、同時に「国家や新社会は上から押さえつけておかないと、いつバラバラになってしまうかわからない」という恐怖心をずっと持ってきたリーダーだと思うのです。
飯田)自由や改革という熱い思いには触れず、その後に崩壊した大混乱の部分しか見ていない。
市民という概念がないプーチン大統領
小泉)プーチンさんは演説のなかで、よく「市民が自発的意思を持ってデモに出てくることはないのだ」と言います。「誰かが裏で操らなければ市民はそういうことをしない」と。
飯田)誰かに操られているのだと。
小泉)そもそも市民という概念が彼のなかにはないのです。操作対象の大衆はいるけれど、「自発的意思を持って政治に物申す市民など、本当にいるのか?」という意識をプーチンさんは強く持っている。「そういうものらしい」と思って民主主義国のリーダーをやろうとした時期もあるのですが、やはり20年やっているうちに、彼の世界のなかでは「やはりそんなものはなかった。全部アメリカに操られていた」という方向に向かってしまったのではないでしょうか。
高橋)典型的な全体主義の人ですね。ソ連もロシアも民主主義ではありません。違う国なのです。
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