H3ロケット打ち上げ成功、「みちびき」で変わる生活
公開: 更新:
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第402回)
JAXA=宇宙航空研究開発機構の次世代主力ロケット「H3」の5号機が2月2日夕方、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。今回は衛星測位システム「みちびき6号機」を搭載、打ち上げから約29分後に無事、衛星は分離され、打ち上げは成功しました。H3ロケットの成功は4機連続になります。
思えば、H3の初号機が打ち上げに失敗したのが2023年3月、2号機でリベンジの歓喜に沸いたのが昨年2024年の2月19日でした。早いものです。
「バタバタすることが一切なく、非常にスムーズな打ち上げオペレーションができた。打ち上げ作業に習熟してきた」
初号機から約2年、打ち上げ成功後記者会見したH3ロケット開発責任者の有田誠プロジェクトマネージャのコメントからは、宇宙開発の世界がまさに日進月歩であることを感じさせます。有田氏はその上で、「全体として開発は道半ば、引き続き手も気も緩めることなく、しっかり磨いていきたい」と気を引き締めました。今後、エンジンとSRBと呼ばれる固体ロケットブースターの組み合わせを変えるなど、様々な用途に向けた技術の研鑽が続きます。
一方、無事分離された衛星測位システム「みちびき」はモノの場所、位置を測定する衛星です。スケジュールの関係では今回は6号機でしたが、打ち上げとしては5機目、今後は2025年度までに7機体制の整備を急ぎます。さらに万が一の機体故障に備えるため、将来は11機体制を目指します。
なぜ7機なのか……、準天頂衛星のみちびき初号機が打ち上げられたのは15年前の2010年9月のことでした。天頂に「準ずる」衛星……、ほぼ天頂、日本の真上に近いところにいつも見える状態になるのが準天頂衛星です。
常に上空のある一点に止まっているように見える衛星は「静止衛星」と呼ばれますが、静止衛星は衛星が地球を中心に回っている関係上、赤道上空に打ち上げる必要があります。赤道上空は衛星の超人気ゾーン、「過密地帯」と言われます。
これに対し、準天頂衛星は赤道上空ではなく、日本の上空を通る軌道の衛星を複数打ち上げることによって、あたかも日本のほぼ真上にずっと見えるようにする衛星です。1つの衛星で上空に見え続ける時間は8時間前後、つまりこの衛星を3つ打ち上げれば、ほぼ1日をカバーできる計算になります。
ただ、それだけでは正確な測位にはつながりません。いわゆる「三角測量」の方法を用いるには、最低でも3機が空のどこかに見えている必要があります。さらに時間的要素を加えると4機が必要です。つまり、常時運用をすべて準天頂衛星でまかなうには3×4=12機、機体故障によるバックアップも考慮すると、最大で24機必要になります。
12機あるいは24機を打ち上げるにはいずれも時間がかかります。実際にはみちびきの一部に静止衛星、あるいは静止衛星に近い、いわば「準静止衛星」を組み合わせます。これにより、7機で日本全土をカバーすることができるというわけです。これまで打ち上げられた初号機、2号機、4号機は準天頂衛星、3号機は静止衛星です。今回打ち上げられた6号機も静止軌道へと向かいます。7号機は準静止衛星の予定です。
衛星測位システムで恩恵を受けているもの、代表的なものはナビゲーションです。車のみならず、最近はスマホでもナビゲーション機能があり、生活になくてはならないものになりました(ちなみに、ナビゲーションは衛星情報だけでなく、車の加速度や傾き具合などを測るセンサーで位置を補正しています)。今後は自動運転のアシスト機能、ドローンの宅配で正しく物品を運ぶ機能、農業分野ではトラクターを無人化して生産性を上げることなどが期待されます。
「衛星測位によるデジタルな情報を電子地図の上に置くことが、今後の経済活動に必要。これからの日本をデジタルの面で支えていく、インフラのインフラである」(内閣府宇宙開発戦略推進事務局 三上建治参事官)
現在のみちびきは、31機あるアメリカのGPS衛星を補完する役割を担っています。GPSは本来、アメリカ用に作られた衛星ですから、ビルの陰や山間部では衛星が見えない所が出てきます。場所によってはカーナビの精度が落ちることもあり得ます。また、本来軍事用の情報を民間用に開放した経緯から、ひとたび有事が発生すれば、情報が制限される可能性もあります。自前で日本全土を測位できるシステムを構築することは、安全保障上も重要と言えます。みちびきが「日本版GPS」と呼ばれる所以です。
「(7機体制になれば)みちびきだけで測位ができるようになる。わが国の安全保障の観点からも重要。そのような体制が進んだことは意義のあること」内閣府宇宙開発戦略推進事務局の渡邉淳審議官は打ち上げ成功後の記者会見でこのように述べました。
悲願に向けて進んでいるという意味で、今回の打ち上げはH3ロケットとともに、みちびきにとっても大変意義深いものと言えます。
今回の記者会見には私もオンラインで参加しました。高い目標に向かって力を尽くす関係者にメディアは敬意を払い、「打ち上げ成功の心情」から、「専門性のある問い」まで、質疑応答は多岐にわたりました。「知りたい」と思う純粋な探求心……、宇宙開発の関連で思うのは、フリーランスの記者の造詣の深さです。私もまだまだ勉強だなと感じさせます。
最近、メディアのあり方が問われる記者会見が少なくありませんが、このような建設的な場面も数多くあります。記者の力量、資質に対し、少なくとも社員、フリーの分別はまったく関係ないと私は思います。
(了)