この夏、日本の宇宙開発の歩みを振り返る(2)

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「報道部畑中デスクの独り言」(第382回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回も前回に続き、日本の宇宙開発の歩みについて。

カイロスロケットが軌道上を飛行するCG(画像提供-スペースワン株式会社)

カイロスロケットが軌道上を飛行するCG(画像提供-スペースワン株式会社)

この夏の日本の宇宙開発、今回はロケットの動きです。以前小欄でもお伝えしましたが、7月1日、JAXA=宇宙航空研究開発機構の次世代主力ロケット、H3ロケット3号機が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。昨年は1号機が失敗、今年2月に2号機の打ち上げ成功でリベンジを果たしました。そして、3号機は地球観測衛星「だいち4号」を搭載し、無事、所定の軌道に送り届けました。

3号機の成功で、H3ロケットはいよいよ本格運用に乗り出します。来月10月20日には4号機の打ち上げが予定されています。X バンド防衛通信衛星「きらめき3号」が搭載されます。

そして、民間企業もこの冬、リベンジに臨みます。宇宙ベンチャー企業、スペースワンが開発している「カイロスロケット」の2号機が今年12月中の打ち上げを目指すことが明らかになりました。今回は5基の衛星を搭載するということです。

カイロスロケットは今年3月、初号機が和歌山県にある民間の射場「スペースポート紀伊」で打ち上げられましたが、およそ5秒後に飛行が中断し、搭載した衛星とともに破壊措置が取られました。

5カ月あまりが経った8月25日、オンラインで行われた記者説明会では、飛行中断の理由が明らかにされました。ロケットが飛行のための推進力を本来の数値よりも高く予測してしまったために、安全な飛行のために設定した範囲を外れ、自律破壊に至ったというものです。

カイロスロケットは固体燃料を使用します。液体燃料と違い、事前に燃料の燃焼速度を計測し、推進力などを予測することが必要ですが、計測のプロセスに問題があったということです。そのプロセスを修正し、打ち上げ可能の段階にこぎつけました。

「カイロスロケットのリターン・トゥ・フライト(飛行再開)に向けて、信頼を得るに足る対策を講じることができたと信じている。全身全霊を尽くして、2号機のミッション達成に向けて対応したい」

豊田正和社長は記者説明会で意気込みを語りました。カイロスロケット2号機は、高さは18m 直径1.35m フェアリング直径1.5m、総重量が約23トンで初号機とサイズはほぼ同じ、H3ロケットと比べるとサイズは3分の1以下、同じ固体燃料式のイプシロンSロケットと比べても3分の2程度で一回り小さいサイズです。H3ロケットと同様に自動車用部品などの民生品を活用して小型軽量、低コストを実現。世界最高水準の軌道投入精度をアピールしています。スペースワンでは2020年代中に、年間20機の打ち上げを目指しています。

H3ロケット3号機打ち上げの瞬間(JAXA YouTubeから)

H3ロケット3号機打ち上げの瞬間(JAXA YouTubeから)

これらの動きを見てみますと、今後の日本の宇宙開発はやはり「民間」の関わりがカギを握ると痛感します。H3ロケットはこれから本格運用に乗り出しますが、信頼性や技術の進歩を培うには、やはり“場数”がモノを言います。場数を増やすには、将来的に新たな発射場を建設するか、民間を活用するといった方法が考えられます。いずれも現状はなかなか厳しいものがありますが、そんな中でのカイロスロケットの挑戦は、官民含めた打ち上げ機会を拡大するものとして、意義あるものだと思います。

春に策定された「宇宙技術戦略」では、今後10年間で総額1兆円規模の支援を目指す「宇宙戦略基金」も創設され、国内の宇宙ビジネスの活性化を目指しています。アメリカの昨年のロケット打ち上げ回数は民間企業の「スペースX」を含めて108回、アメリカのようなダイナミズムある世界にはまだまだですが、民間のパワーを加えて、日本の宇宙開発を一段上のステージに押し上げてほしいと思います。

(了)

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