a flood of circleと金属バットが11月20日にツーマンライブ『KINZOKU Bat NIGHT at京都磔磔』を開催した。これまでにも2021年に京都は磔磔、2022年に大阪はなんばHatch、2024年に東京キネマ倶楽部、今年9月に渋谷はSpotify O-EASTと今や恒例になっているが、今回も2024年と今年9月同様にニッポン放送プロデュース公演として開催された。

佐々木亮介（a flood of circle）Photo by Lyu Sakai

立錐の余地もないとは、まさしくこの事で、平日夜だというのに完売の満員。18時30分定刻通り、佐々木亮介（Vo, Gt）・渡邊一丘（Dr）・HISAYO（Ba）・アオキテツ（Gt）が2階の楽屋から階段で降りてきて、客をかき分けながら舞台へと上がる。舞台袖が無い磔磔ならではの登場。演者と観客の距離の近さが独特の緊張感と高揚感を生む。

1曲目は11月12日にリリースされたばかりのニューアルバム『夜空に架かる虹』から『KILLER KILLER』。まずは佐々木の歌のみが響き渡るが、それだけで掴まれる。ギターの歪み、リズム隊の重厚感、そこに佐々木の鋭い言葉が乗っかり、磔磔ならではの音として響いた。タイトルから聴き取れる言葉では無いが、キラキラしていて、その上にギラギラしている。佐々木には貫禄すら感じる。観ているだけで嬉しくなるライブ。白いギターを片手で持ち上げて、問いかけるかの様に歌い終わる。続く『Human License』。これまたタイトな演奏に、佐々木のしゃがれた声。これでもかと戦う姿勢が伝わってくる。AFOCも金属バットも何故やり続けるか、そんな事に理由は無いとわからせてくれる『理由なき反抗(The Rebel Age)』。「Oh Yeah！」、「Baby！」といったロックスターのキラーフレーズが本当に似合う。ロックスターの風格が漂っている。観客に歌わせたりとポップでキャッチ―な佇まいもあるが、どこか危険な匂いがしてふてぶてしさも備え合わせている。そして、『ASHMAN』と吐き捨て、速射砲の様に言葉を浴びせていく。うつむきながらギターを弾いて歌うが、何をしても絵になる。相変わらずギターは歪んでいるが、メロディアスでもある。缶の緑茶ハイを呑み、1ブロック目ラストナンバー『KINZOKU Bat』へ。金属バットでぶちのめされたみたいな衝撃。重たいのに清々しさすらある。メンバー3人は舞台を去り、佐々木だけが残り、「紹介します！ 金属バット！」。

画像を見る（全12枚） 渡邊一丘（a flood of circle）Photo by Lyu Sakai

佐々木と金属バットの小林圭輔・友保隼平が階段ですれ違う。転換が無く進んでいくので、観ている側も緊張と興奮がずっと保たれる。ふたりが舞台に上がっただけで、凄い歓声が起きた。「えっーっと…」と笑うしかないふたりだが、「平日でっせ！」という言葉に全てが表現されていた。本当に平日夜とは想えない尋常じゃない空気感。配信もされているが、4年前の磔磔では配信を知らず、「ほぼピーピーと鳴っていた」と笑う。AFOCと金属の6人が描かれたイベントグッズTシャツを着る友保は、HISAYOのイラストを自分だと言い、自分のイラストをHISAYOだと言って笑う。小林はベースを壊してる自分のイラストをイジり、テツはこの世の生き物で一番細いなどと喋られていくが、いわゆるつかみだけでこれだけで喋り、それもずっとウケている素晴らしき異常空間。ようやく漫才に入り、友保は「次の曲いきますね！」と2本目のネタへと入っていく。充分に笑わされた15分。またもや階段ですれ違う2組。

Hisayo（a flood of circle）Photo by Lyu Sakai

缶の緑茶ハイを呑み、ギターを爪弾き、そして叫び、『ギター(羽あり)』へ。ライブ特有のグッシャグッシャガッシャガッシャな感覚…。音源プラスアルファの臨場感という凄み。まさにライブバンドならではの音。全ての音がうなっている。テツは体を揺らしながら弾いている、佐々木とHISAYOは向き合っている、渡邊は叩き込む。2ブロック目も変わらず凄まじい。続く、『Lucky Lucky』の後はセットリストには記されていない『The Beautiful Monkeys』がぶち込まれた。ブッ飛ばすとしか書けないスピーディーなメロディー。聴いてるだけで熱狂してしまう…。とんでもない充足感あるが、本来すぐ歌われるはずだった『伝説の夜を君と』では、熱狂して荒ぶった心をグッドメロディーが浄化させてくれる。この緩急の付け方がニクい。「良かったね、生きてて」と佐々木は言い、「金属バットが観れて」、「俺が生きてる時代に間に合ったじゃん」と続けて、『マイ・モーターサイクル・ダイアリーズ』へ。疾走感が気持ち良すぎる。2ブロック目ラストナンバー『Drive All Night』終わり、金属バット紹介へ。何度観ても格好良い2組の階段でのすれ違い。

金属バット Photo by Lyu Sakai

2度目の登場となる金属バットだが、凄い歓声が起きる。ふたりが喋っているだけで笑ってしまうが、これぞ、しゃべくり漫才の真骨頂だなと笑いながらふと想う。ボケやツッコミに観客から「フー！」という歓声が飛ぶのは、ライブハウスならではであろう。2本目の漫才も個人的には観た事がある漫才なのだが、何度観ても面白いし、彼ら的な言葉を使わしてもらうならば、バッチェリオ！AFOCは金属とすれ違い、最後となる3ブロック目の舞台へ。

アオキテツ（a flood of circle）Photo by Lyu Sakai

佐々木は缶の緑茶ハイ片手に乾杯して、金属バットがMVに出演した『如何様師のバラード』から3ブロック目が始まる。1曲目とはいえ、3ブロック目だが、1ブロック目1曲目以上に狂ってブッ飛ばしてくれる。観客フロアのサイドにあるお立ち台で観る観客のもとへと行き、そのまま観客の中へと雪崩れ込んだ佐々木。しまいには観客の上を歩きダイブしている。観ているだけでも最狂の熱狂。そして、ギターカッティングから『虫けらの詩』へ。歌い訴えるという言葉が存在するとしたら、今しかないだろうという歌い訴えかけ…。「俺たちとあんたたちの明日へ捧げます！」と歌われたのは『シーガル』。初めて聴いたのは17年くらい前になる初期曲だが、完全に2025年の現在版として更新されて新たな力を帯びていた。バンドと観客が一心同体になった感情すら覚えた。曲終わり、来年のツアーについて話して、大阪でのライブについても話したのだが、あくまで、その延長線上で普通に自然に「後、5月に九段下でやりますんで」という一言は感動した。5月6日(水)日本武道館…、一世一代の初大舞台。しかし、ライブバンドにとっては、ひとつのライブでしかない。舞台に大きいも小さいもないライブバンドだからこその信念に痺れるしかない。そこから、歌詞に5月6日や武道館という言葉が入れ込まれた『夜空に架かる虹』へ。ニューアルバムタイトルナンバーでもある真っ直ぐな歌。三ブロック目ラストナンバーは『月夜の道を俺が行く』。最後の最後まで声を張り上げて、歌い訴えかけるロックンロール…。歌い訴えかけたいことで溢れ返っている。だから、言葉が真っ直ぐ僕らの胸に飛び込んでくる。佐々木亮介という人間が全てさらけだしている。最後までグッシャグッシャに突き進む姿は強靭な重戦車そのものだった。

「ありがとう、来てくれて。金属バット大好き」

後はAFOCのアンコールナンバー残すのみのはずだった、セットリスト通りならば。しかし、ここで出てきたのは、まさかの金属バット。友保いわく「何この文化？」。小林いわく「担ぎ出された」。で、「残業ですね」と小林は言いながらも、この日3本目となる漫才へ。友保はリハーサルで佐々木がスナフキンの如くピアノを弾いていた事も明かす。拍手鳴りやみ待ちが起きるほどの熱狂が最後まで続いた金属バットの漫才。この日最後となる2組の階段でのすれ違い。アンコールナンバー『本気で生きているのなら』。佐々木が弾き語り歌う。友保の言葉を借りるならばスナフキンであり、吟遊詩人であり、正真正銘のブルースマン。聴いているだけで涙が出てくる。何故ならば本気で歌っているから。ロックンロールとは、間違いなくロックで転がる生き様。胸に突き刺さるバラッド…。これぞ決意表明の歌…。

「またやろう。元気でな。武道館で待ってるから」

これで終りのはずが終わらない。佐々木は一輪の花を持っている。「今日、花をくれた人がいるんだけど、捨てるの勿体ないから、みんな持って帰って」。そして、舞台端にあるピアノに座り、「治んないものを持っている人に全治という曲を」とニューアルバムラストナンバー『全治』を。1分弱の歌をマイク通さずに歌う。

金属バット Photo by Lyu Sakai

花の送り主は金属バットの盟友であり、AFOCの『月夜の道を俺が行く』をSNSで「ロックが突然突き刺さる瞬間がある」と偉大なる先人のロックンロールバンドの名前と共に綴った東京ダイナマイトのハチミツ二郎。佐々木は名前を一切出さなかったが、闘病中のハチミツ二郎を思い浮かべないわけはなく、ただただ泣くしかなかった…。歌い終わり、「なんちゃって」と笑う佐々木。そんな粋な終わらせ方に、涙が止まらない。ひとり階段を上がり、「バイバイ」と楽屋へと消えていった。

当たり前だが、単なる音楽とお笑いの融合なんていう使い古された言葉なんかでは収まりきらない。常に本気のぶつかり合いを軽やかに魅せてくれる2組。5月6日の日本武道館を越えたAFOCと金属バットの夜をまた必ず見たい。

（取材・文／鈴木淳史）