歌謡曲 ここがポイント! チャッピー加藤(ヤンヤンハイスクール講師)
最近、ますます注目されている昭和歌謡。
この講座では、日本人として最低限覚えておきたい歌謡曲の基礎知識を、わかりやすく解説していきます。
いよいよ8月6日(日本時間)からリオデジャネイロオリンピックが開幕します。2020年の東京オリンピック開幕(7月24日開幕)まで残り4年を切りましたが、テーマソングが作られたり、何かと歌謡界も賑やかになるのがオリンピックイヤー。では、前回の東京オリンピックの際、巷ではいったいどんな曲が流行っていたのでしょうか?いい機会なので、52年前、1964年に発表された、記憶しておきたいヒット曲を押さえておきましょう。
前回も登場しましたが、この頃の歌謡界を代表するスターといえばやはり坂本九です。前年の63年に『SUKIYAKI(=上を向いて歩こう)』が米国のチャート誌・ビルボードで1位を獲得し、「日本の顔」として、東京オリンピックのウェルカムパーティーでも歌いました。
そんな人気絶頂期の九ちゃんが64年に発表したのが、今やスタンダードナンバーとなった『幸せなら手をたたこう』です。この曲、私が所有している当時のレコードジャケットには「作詞・作曲者不詳/有田怜編曲」とありますが、発表の経緯はこうです。九ちゃんがある日偶然耳にした曲を気に入り、「こんな曲を聴いたんだけど…」と作曲家・いずみたくにウロ覚えのまま歌って聴かせ、それをいずみが採譜。ペンネームで編曲し、レコード化したところ大ヒットしました。
後に作者が名乗り出て、木村利人・早稲田大学名誉教授と判明しますが、木村教授によると原曲があり、学生時代、ボランティア先のフィリピンで聴いた、古いスペイン民謡だそうです。これに日本語詞を付けたところ、早大の学生たちの間で広まり、やがて九ちゃんの耳に入ったのですが、中世から伝わるスペイン民謡が日本で甦ったのですから、何ともワールドワイドな話です。さらに背景を探っていくと、もっと興味深い話があるのですが、長くなりますので、それは木村教授の名前で各自ググってみてください。
ところで、いずみたくといえば、ぜひ記憶しておいてほしい名曲が作詞家・岩谷時子とのコンビで64年に発表、シャンソン歌手・岸洋子が歌った『夜明けのうた』です。「明けない夜はない」という言葉がありますが、昨日の悲しみを忘れ、心に若い力を…と歌うこの曲は、逆境にある人たちを励ましてくれる、永遠の傑作です。
もともとは坂本九主演のドラマ主題歌で、九ちゃん版は勤労少年を励ます歌でしたが、コンサートで歌える日本語曲を探していた岸洋子が、「僕」を「あたし」に置き換えて歌ったところ大ヒットとなりました。岸洋子はこの年のレコード大賞歌唱賞に輝き、紅白歌合戦にも初出場。彼女の代表作に。
5年前の東日本大震災の直後、椎名林檎が「幼い頃、歌本でよく眺めていたこの曲を、大勢のかたにいまいちど口ずさんで戴きたい」とこの曲をカバーし、YouTubeで無料配信したところ、原曲を知らない若い世代にも大きな反響を呼びましたが、今もアップされていますので(再生回数138万回超)機会があればぜひ聴いてみてください。もちろん、オリジナルの岸洋子版も。
ところで、この頃のスターといえば、忘れてはいけないのが小林旭です。64年はマイトガイ・アキラにとって激動の一年で、美空ひばりと離婚、そしてレコード会社も、老舗のコロムビアから新興のクラウンへと移籍。最初に発表したシングルが、珍曲として名高い『自動車ショー歌』です。大御所・星野哲郎が作詞したこの曲は、同年にコロムビアから出た『恋の山手線』の流れを汲むダジャレ連発ソングで、タイトル自体も『鉄道唱歌』に『モーターショー』を引っ掛けたダジャレです。
歌詞に和洋の車名がポンポン出てきますが、ダジャレが強引すぎて途中からまったく意味不明に。しかしそれをすべてOKにしているのが、アキラの素っ頓狂な歌声です。冒頭の「♪あの娘をペットにしたくって〜」は今だったら絶対NGでしょうが、当時の社会がそれだけ大らかだったということでしょう。ある意味、1964年の日本を象徴する歌かもしれません。
“東京オリンピックイヤー・1964年”ここがポイント!
<こんな曲も流行っていた!>
・西郷輝彦『君だけを』
…デビュー曲。新興クラウンレコードを支える看板歌手に。
・都はるみ『アンコ椿は恋の花』
…都はるみの出世作にしてミリオンセラーに。これも星野哲郎作詞。
・松尾和子&和田弘とマヒナスターズ『お座敷小唄』
…広島のキャバレーでホステスが歌っていた曲をアレンジし大ヒット!
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。