チャールズ・ブロンソンが「うーん…」と言えば「男の世界」 【大人のMusic Calendar】

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マンダム~男の世界,ジェリー・ウォレス

10月19日は、1970年にジェリー・ウォレスの「男の世界」(後に「マンダム〜男の世界」に改題)がオリコン1位を獲得した日。その話をするには、まずこの方のことから。

俳優、チャールズ・ブロンソン(1921年11月3日 生-2003年8月30日没)。『荒野の七人』(1960)や『大脱走』(1963)の個性溢れる脇役として、そして『さらば友よ』(1968)や『雨の訪問者』(1970)などへの出演で、まさにスター街道を歩んでいた彼ですが、こと日本のお茶の間に関しては、1本のCMがその印象を決定づけました。

それが1970年にオンエアされた丹頂(現・株式会社マンダム)」の男性化粧品「マンダム」のCM(演出は大林宣彦監督)。「いま、開かれる男の世界。マンダム。」のナレーション、ジェリー・ウォレスが濃い目に歌う「マンダム〜男の世界」にのって、カウボーイのチャールズ・ブロンソンが登場。荒野を行く彼が水辺にたどり着いてテンガロンハットで水をかぶり、そしてあごをなでながらつぶやくラストの決め台詞。
「うーん、マンダム」。

いやあ、流行りました。当時、小学校5年生だった筆者もこの台詞を言いながらヒゲを剃ってもいない、というか生えてもいないアゴをどれだけさすったことか。誰かのアゴを指さして「あれ、アゴに何か付いてるよ!?」と言って相手がアゴを触ったところで「うーん。マンダム」っていうイタズラとかね(笑)。……と、その記憶はあるもののCMの詳細となるとおぼつかないのでネット上で再見してみると、「うーん、マンダム」以外のナレーションが凄い。
「男らしさとは、男臭さとは。男のドラマを演出する新しい男性化粧品。マンダムは男の体臭。」
もの凄い「男押し」です。

もう一作の都会の豪華マンションで暮らすリッチなブロンソンと、カウボーイ姿のブロンソンが交互にフラッシュするCMでは、こう語られます。
「愛とは、勇気とは、優しさとは。男の体臭が漂う男の所在(ありか)、それはマンダム。」

もの凄い「男押し」。時代と言えばそれまでですが、男子が「草食」とか「ゆとり」とか呼ばれるようになるなんて想像もしていない男の世界。余談ですがCMで「体臭」って言い切っているのも強烈。そうか、体臭がウリだった時代もあるのか。

この「男臭いマンダム・ワールド」は、もちろんチャールズ・ブロンソンの野性的な顔立ち、雰囲気によるところが大きいわけですが、それを120%引き出す役割を果たしたのがパンチの効いた音楽。

ジェリー・ウォレス,男の世界

「マンダム〜男の世界」を歌ったジェリー・ウォレスは、カントリー&ポップス・シンガー。この時点では特に売れていたというわけではない彼に白羽の矢を立てて、CM曲を依頼したのは日本側だった模様(大人のミュージック・カレンダー/2015年8月30日参照 http://music-calendar.jp/2015083001)。結果的に約120万枚とも言われる売上を記録したわけですから、CMタイアップ→大ヒットの嚆矢とも言えるプロジェクト。当然、カヴァーも誕生。尾崎紀世彦によるカヴァー・ヴァージョンは、彼の代表作のひとつと言っていいのではないかという傑出した仕上がりであります。

そして、CMの大ヒットから24年後、その影響力がカタチとなってあらわれたのが、みうらじゅんと田口トモロヲのお二人による「ブロンソンズ」。1994年から雑誌「STUDIO VOICE」誌で「ブロンソンに聞け」という連載を開始(後に『ブロンソンならこう言うね〜マニア・カルト一生相談〜』として出版)。これは「(オレたちが思う)チャールズ・ブロンソン像」から人生相談を展開するという内容。共に文化系(&映画通)のお二人だからこそ「ぶれない気骨」「頑なな男気」への憧憬を込めてのアイデアでありました。

そして、このブロンソンズが音楽を制作。シングル「マンダム 男の世界」(日本語詞)と、アルバム『スーパーマグナム』(1997)をリリース。スチャダラパーや真心ブラザーズ、東京スカパラダイスオーケストラなどが参加したアルバムでは、筆者もコーラス隊の一員として集められて参加。今はなき溜池山王の東芝EMIの大スタジオでプロ&シロート集団が意味もなく大声で合唱するという頓知のきいたエピソードを残しております。

さらに、2003年にはシンガー・ソングライターのKEISONが「男の世界」をオリジナルの日本語詞に替えてシングル・リリース。この作品では日本語詞を筆者が担当いたしました。お恥ずかしい。

と、個人的にも縁の深い「マンダム〜男の世界」。その男臭い世界観をストレートに受け止める時代は過ぎ去りましたが、ブロンソンズのお二人同様に「ぶれない気骨」への憧憬はいまなお心に残る2016年。

【執筆者】渡辺祐

ミュージックカレンダー,ニッポン放送,しゃベル

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