『夏の砂の上』オダギリジョー主演、夏の長崎を舞台にした極上の人間ドラマ

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Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1259回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

今回は、映画館にて上映中の『夏の砂の上』と『生きがい / 能登の声』をご紹介します。

(C)2025映画『夏の砂の上』製作委員会

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『夏の砂の上』乾き切った心に、一筋の希望が沁みていく

『美しい夏キリシマ』の脚本、映画『紙屋悦子の青春』の原作を手掛けた長崎出身の劇作家・松田正隆による傑作戯曲を映像化した『夏の砂の上』。

監督・脚本を務めたのは、日本の映画界や演劇界が注目する気鋭の演出家・玉田真也。玉田監督が主宰する劇団「玉田企画」で2022年に上演された思い入れの深い作品を、自らの手で映画にしました。

(C)2025映画『夏の砂の上』製作委員会

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『夏の砂の上』のあらすじ

雨が降らない夏の長崎。幼い息子を亡くした喪失感から、妻・恵子と別居している小浦治。失職しても働き口をみつけることもなくブラブラしているところへ、妹の川上阿佐子が訪ねてくる。

彼女が17歳の娘・優子をしばらく預かってほしいと言ったことから、治は優子と共同生活を始めることに。父親の愛を知らずに育った優子と、不器用ながらも父親代わりになろうとする治。2人での生活は平穏なものだった。

ところがある時、優子は恵子と治が言い争う姿を見てしまい……。

(C)2025映画『夏の砂の上』製作委員会

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『夏の砂の上』のみどころ

主人公・小浦治を演じたのは、共同プロデューサーとしても名を連ねているオダギリジョー。消失感に苛まれて抜け殻のようになってしまった男を情感たっぷりに体現しています。

また、治と同居する姪・川上優子役にNHK連続テレビ小説のヒロインに抜擢された髙石あかりが、そして治の妻・小浦恵⼦役に『ファーストキス 1ST KISS』のヒットが記憶に新しい松たか子が扮し、作品世界に深い余韻を与える演技をみせています。

共演には満島ひかり、高橋文哉、森山直太朗、光石研といった豪華俳優陣が集結。夏の乾ききった砂に水がしみ込んでいくような細やかな心情描写が光る、極上の人間ドラマが完成しました。

(C)2025映画『夏の砂の上』製作委員会

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本作では、全編オール長崎ロケを敢行。長崎市内を走行する路面電車に、優子がアルバイトをする地元密着型のスーパーマーケット。登場人物たちの日常に街並みが見事に溶け込んでいることに感銘を覚えます。

とりわけ坂道や階段のある風景は、長崎ならではの格別の美しさがあり、魅了される人も多いことでしょう。私個人的には、坂道が印象的な映画には名作が多いと感じているのですが、本作もそのうちの一作。

「第27回上海国際映画祭」のコンペティション部門で審査員特別賞に輝いた、アジアも注目する話題作。是非、スクリーンで堪能して。

(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ

(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ

『生きがい IKIGAI』『ドキュメンタリー 能登の声 The Voice of NOTO』フィクションとノンフィクションで伝える“能登半島の今”

2024年1月1日に起こった能登半島地震。そして、その8ヶ月後に発生した奥能登豪雨。立て続けに2度の災害に見舞われた能登半島を舞台に、そこに生きる人々の姿を映し出したヒューマンドラマ『生きがい IKIGAI』。

石川県能登半島、山奥にある土砂災害現場。崩壊した家の下から男が救出された。男の名は、山本信三。元教師で「黒鬼」と呼ばれる彼は避難所になじむことができず、崩壊した自宅の一角で暮らし始める。

そんな時、被災地ボランティアが黒鬼宅の片付けの手伝いにやって来る。しかし、ある物を処分しようとしたボランティアに黒鬼は激怒する。それは、亡き妻の形見の品で……。

企画・監督を務めたのは、演出家として国内外で幅広い作品を手がける宮本亞門。能登でのボランティア活動に参加した際、想像を絶する被害の大きさと復興の遅れを実感。地元の人々の声を届けたいと復興への想いを込めた劇映画とドキュメンタリーが完成しました。

『生きがい IKIGAI』と同時上映される『ドキュメンタリー 能登の声 The Voice of NOTO』と併せて観ることで、フィクションとノンフィクション、それぞれの視点から“能登のいま”を体感することが出来る意欲作です。

(C)2025映画『夏の砂の上』製作委員会

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<作品情報>
夏の砂の上
全国公開中

出演:
オダギリジョー
髙石あかり 松たか子
森山直太朗 高橋文哉 篠原ゆき子 / 満島ひかり
斉藤陽一郎 浅井浩介 花瀬琴音
光石研

監督・脚本:玉田真也
原作:松田正隆(戯曲『夏の砂の上』)
音楽:原摩利彦
配給:アスミック・エース
(C)2025映画『夏の砂の上』製作委員会
公式サイト https://natsunosunanoue-movie.asmik-ace.co.jp/

 

(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ

(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ

<作品情報>
北陸能登復興支援映画「生きがい / 能登の声」

生きがい IKIGAI
2025年7月11日(金)から全国公開

出演:
鹿賀丈史
根岸季衣 小林虎之介
杉浦文紀 美緑トモハル 宗村春菜 御陣乗太鼓保存会
津田寛治 / 常盤貴子

企画・監督・脚本:宮本亞門
音楽:山下康介

制作プロダクション:ザフール
宣伝:満塁
企画協力・配給:スールキートス
配給協力:フリック
特別協力:輪島市

同時上映
『ドキュメンタリー 能登の声 The Voice of NOTO』
監督・編集:手塚旬子
ナレーション:蒼あんな
音楽:溝口肇
撮影:谷茂岡稔

企画協力・制作プロダクション:ザフール
宣伝:満塁
企画協力・配給:スールキートス
配給協力:フリック
特別協力:輪島市
協力:映画「生きがいIKIGAI」出演者・スタッフの皆様、宮本亞門監督

(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ
公式サイト https://ikigai-movie.com/
(この映画の収益の一部は北陸能登の被災地の復興支援に充てられます。)

 

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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