奨学金制度の導入は障がい者アスリートにとってセカンドキャリアという点でもとても有意義なことです【水野洋子(パラアスリートブロック監督)インタビュー】

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【ニッポンチャレンジドアスリート】
毎回一人の障がい者アスリート、チャレンジドアスリート、および障がい者アスリートを支える方にスポットをあて、スポーツに対する取り組み、苦労、喜びなどを伺います。

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水野洋子(パラアスリートブロック監督)
1969年生まれ。東京都出身。日本体育大学、陸上競技部で夫・水野増彦監督のもとアシスタントコーチを担当。去年12月、部内に新設された障がい者アスリート部門「パラアスリートブロック」の監督に就任。リオパラリンピック女子400メートルで銅メダルに輝いた辻沙絵選手の指導をはじめ、未来のメダリスト育成に向けてさまざまなサポートを行っている。

―障がいを持つトップアスリート育成のために作られたパラアスリートブロック。その初代監督である水野はどのように指導者の道を歩んだのだろうか。

水野)2013年に女子短距離のアシスタントコーチとして日体大で指導を始めました。ジュニアの指導は5年前からやっていましたが、それまで障がい者スポーツにはまったく接点がありませんでした。

―現在指導を行う辻沙絵は大学2年生の時、ハンドボールから陸上へ転校した。どんな経緯があったのだろう。

水野)辻選手が2年生の終わり頃に適正を調べたところ、走る種目がいいのではないかということになり、そこで走りをみてもらえないかとバイオメカニクスの先生と一緒に競技場に来たのが辻選手との初めての出会いです。

―大学2年までハンドボール部で陸上はまったくの初心者だった辻紗絵。だが、協議を始めてわずか2か月で100メートル、200メートルの日本記録を更新。目覚ましい飛躍を遂げた。水野は監督として辻にどんな指導を行ったのか?

水野)12秒後半まではちゃんと練習すれば行くと思いました。きちんと説明すると、習得する力はものすごくありました。ハンドボールでは高校でも大学でも一線でやってきていてフィジカルを含め、ベースは出来上がっていたので短期間で成果が出てきたのだと思います。

―順調に才能を伸ばしていった辻。初めての国際大会は去年10月、カタールで行われた世界選手権だった。この大舞台で辻は13秒34の好タイムをマーク、6位に入賞した。

水野)この時はランキングが12番だったので、まずは決勝に残ろうということを目標にしていました。ベスト8を目指してやりました。

―水野が初代監督に就任したパラアスリートブロック。去年12月日本体育大学の陸上競技部内に新たに立ち上げられた。

水野)日体大の陸上部内にパラアスリートブロックが誕生したのは、単純に世界選手権では一人60万円くらいの経費がかかる。私も含めると120万円。辻は強化指定Bということで協会から20万円の補助が出るという状況でした。その他にも国内の大会は地方が多いので、出場するたびに経費がかさむ。そうなると個人の強化費では追いつかないのでブロックを立ち上げてそのブロックに経費をつけようと。お金を心配しなくてもきちっと協議に専念できる環境を構築するために部長とスポーツ協会の課長の働きかけでこのようなブロックの誕生となりました。

―パラアスリート専門のブロックが出来たことで大きく変わった点は?

水野)安心して活動が出来るようになりました。競技用の義手とかも作ったのですが、義手を作るのにもやはり辻が作ったもので35~6万円するので、そういうこともパフォーマンスを上げることに集中できることになります。

―リオには水野も帯同、をサポートした。

水野)今回、試合帯同をしましたが、私はサブトラックに入れませんでした。選手村は毎日入れたのですが、リオに入ってからの試合の練習は競技場の2階からサブトラックが見えるので、そこで見るか選手村でやるしかないという状況でした。今回離れている分、お互いの結束力は強まったと思います。

―そしてすべてを賭けた400メートルがスタート。掲示板を見て初めて辻が3着だと知った水野。銅メダル獲得、その時の心境は?

水野)今でも思い出すと涙が出ます。感動しました。縁石があってスパイクで入れないのですが、そこに入って来たので手を伸ばして握手しました。

―リオパラリンピックが終わり、日体大は日本財団と共に新たな奨学金制度を導入すると発表した。世界レベルで活躍するパラアスリートの育成を目的に、返済不要の奨学金を一選手あたり年間およそ500万円給付するというものだ。学生や大学にはどんなメリットがあるのか?

水野)まずは返済しなくていいということ。義足を作るだけで200万くらいしますが、学費や生活費、医療費、海外の遠征費を含めても十分カバーできます。これは画期的だと思います。現在は障がい者スポーツを経験してない指導者がほとんどですが、今後、この制度によって実際パラで活躍されている人が、学位も取って指導していくという道が広がり、とてもいことだと思います。

―この奨学金制度の対象は、日体大だけでなく、大学院や付属高校なども含まれる。

水野)高校から目指していけるというのは強みだと思います。受験も心配することないですし。けがで切断の方は、今そのままの状況が継続できますが、病気で切断されている方は、将来、再発するのではないかなど、さまざまな不安を抱えていると思います。大学で学位を取っていれば競技をやめても、その後、指導者としてやっていくこともできます。セカンドキャリアということからもとても興味深いです。

―パラ陸上の指導者として、水野のこれからの目標は?

水野)もちろん2020年の東京パラリンピックで皆に活躍してもらうということがありますけれども、アスリートの皆さんが、その経験を生かして社会にそれを落とし込んでいけるような環境を作っていくのも私の役目だと思います。2020年のパラリンピックが終わってそれで終わりということではなく、それを資産として残して、社会に貢献していけるようなアスリートになり、包括的な成長をしていってもらいたいです。それをサポートしてくのが私の役目であり、目標でもあると思っています。

(2016/10/24~10/28放送分より)

ニッポンチャレンジドアスリート
ニッポン放送 (月)~(金) 13:42~放送中
(月)~(木)は「土屋礼央 レオなるど」内、(金)は「金曜ブラボー。」内)
番組ホームページでは、今回のインタビューの模様を音声でお聴き頂けます。

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