ドーピングに揺れる陸上界に大激震!全種目の世界記録が白紙に?【ひでたけのやじうま好奇心】

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President of the European Athletic Association,Svein Arne Hansen

President of the European Athletic Association, Svein-Arne Hansen delivers a keynote speech during a Sport Integrity Global Alliance (SIGA) conference in the city of London on January 30, 2017.   写真提供:時事通信

いま、世界の陸上界に、かつてない“激震”が走っている… という話をご存じでしょうか?

先ごろ(※5月1日)、ヨーロッパ陸上競技連盟の理事会で、前代未聞の提言がなされました。
「2004年以前に達成されて、今も残っている世界記録は…すべて、白紙にすべし!」

ちょっと聞くと、ムチャクチャな提言だと思うでしょう。
ところが、この乱暴とも思える提言が、なんと、「満場一致」で承認されたんです。
そして、この提言、きたる8月の国際陸上競技連盟の理事会に提出されることになったのですが…この理事会で採用されますと、「2004年以前に達成されて今も破られていない不滅の世界記録」は、あわれ、全て消滅することになるんです!

世界記録の公認基準を抜本的に見直そうじゃないか…という、この提言。
もう少し具体的に、その内容をご紹介しますと、「世界記録を公認する条件を3つ設けるべし」というものなんです。

条件、その一!
「記録が、最高水準の審判や技術装置が備えられている公認の国際大会で記録されたものであること。」
条件、その二!
「選手は大会前の1年間に一定数以上のドーピング検査を受けること。」
条件、その三!
「記録達成時の“検体”(※血液と尿)を再検査用に10年間保存すること。」

この3つの条件を全て満たさない限り、世界記録を認めることはあいならん!… というわけなんです。
で、この3つめの条件… 「検体の保存」というのは、今から12年前、2005年に始まったもの。
ですから、検体の保存もされていない2004年以前の記録は、どうにもこうにも、信用がおけない…もっとハッキリいえば、「ドーピングの疑いがある」ということで、すべて抹消すべし!だというんです。

ちなみに、国際陸上競技連盟のセバスチャン・コー会長も、「正しい方向だ」として、この提言を支持していますので、この提言が正式に採用される可能性は、おおいにありえるんです!
去年のリオ五輪では、ロシア選手団のドーピングが大問題となりました。
そこで、遅まきながら、陸上記録の信頼性を取り戻そう… との思惑が働いているというわけなんですね。

実際、 陸上における「不滅の世界記録」の中には、首をかしげざるを得ないものが多いんです。
「その記録、どう考えても怪しいだろう!」「人類の限界値を超えてるぞ!」「限りなく黒に近い灰色だ!」と言いたくなるような「トンデモ記録」が、けして少なくないんですね。
具体的に言いますと、現在、「疑惑の記録」として遡上に上げられている世界記録は、まだドーピング検査の技術が未熟だった80年代に集中しています。たとえば…

■陸上女子400メートル マリタ・コッホ(東ドイツ)

ドーピングに揺れる陸上界に大激震!全種目の世界記録が白紙に?【ひでたけのやじうま好奇心】

1985年、女子400メートルで、東ドイツのマリタ・コッホという女子選手が、「47秒60」という、脅威の世界新記録をただき出しました。
以来、30年以上経った今も、それに迫る記録すら、出てこない!
コレ、「永遠に破られない記録のひとつ」だと言われているのですが…いったい、どういうタイミングで、この大記録が生まれたのか?
このあたりを振り返ると、ドーピングの恐ろしい闇のようなものが浮かび上がってくるんです。

この記録は、1985年当時、オーストラリアの首都、キャンベラで行われた陸上ワールドカップで誕生したもの。
この前の年の1984年には、ロス五輪が行なわれましたが、東欧諸国は、モスクワ五輪(1980)の報復ボイコットに打って出ました。
で、共産圏の国々の多くの選手が出場できずに涙を呑んだ…

当時、東ドイツのスポーツ科学は世界一と言われていました。言い換えれば、ドーピングの技術なのですが…この成果をみせる舞台として、ワールドカップが選ばれた、と言われているんです。

実は、このキャンベラでのワールドカップの100mに、カナダのベン・ジョンソンが出場していまして、「10秒00」という記録で、1位になっているんですが…現役引退後、ベン・ジョンソンは、朝日新聞のインタビューで、このときの想い出を振り返っています。

「(1984年)陸上ワールドカップの女子400メートルで、東ドイツのマリタ・コッホが、47秒60というとてつもないタイムで走った。30年経った今も破られていない世界記録だ。私は、コーチのチャーリーと一緒に、そのレースを見ていた。ゴールしたあと、チャーリーは、私に向かって、こう言ったんだ。『今まで、陸上の世界では、誰もドーピングなんかしていないと思っていたけど…今のレースを見て、東ドイツでいったい何が起きているか、よくわかったよ。』」

ご存じのように、ベン・ジョンソンは、この4年後のソウル五輪の男子100メートルにおいて、「9秒79」という当時の世界記録で1位となるのですが、ドーピングで失格となりました。
つまり、ベン・ジョンソンは、マリタ・コッホの大記録をみて、「あれは絶対にドーピングだ!」「ひとつオレも、インチキしてやろう!」と思い立った… ということなんです!

マリタ・コッホ、ベン・ジョンソンと続いた疑惑の系譜は、人知れず、陸上界きっての女子スター選手に引き継がれていきます…。

■陸上女子100メートル フローレンス・グリフィス・ジョイナー(アメリカ)

ドーピングに揺れる陸上界に大激震!全種目の世界記録が白紙に?【ひでたけのやじうま好奇心】

「限りなく黒に近い灰色の世界記録保持者」といえば、フローレンス・グリフィス・ジョイナーの存在を抜きに語ることはできません。
奇抜なネイルとド派手なファッションでスター選手となった彼女の口癖は、こうでした。
「ランナーである以前に、私はレディーでありたい」。
そして… 1988年の全米選手権で彼女が樹立した「女子100メートル10秒49」という世界記録は、29年間、誰にも破られておらず、近づいた選手さえひとりもいません。

同じ年、ベン・ジョンソン(カナダ)の薬物使用が発覚したことで、当然ジョイナーも疑われたんですが、検査結果は「陰性」でした。(※当時の薬物検出システムの精度が低かったせいだとも言われています。)
その後もジョイナーの周辺では薬物疑惑が絶えなかったのですが… あくる89年、突然現役を引退!
そして、1998年、38歳の若さで急逝してしまいましたので、真相は永遠に闇の中です。

ちなみに、現役当時のジョイナーの口には、ビッシリとヒゲが生えていたというのは有名な話ですが…
女性らしさを、ことさら強調した、あの奇抜なファッション。
実は、ドーピングによる男性化から目をそらさせるためだったのではないか… とも言われているんです。

■女子円盤投げ ガブリエレ・ラインシュ(東ドイツ)

ドーピングに揺れる陸上界に大激震!全種目の世界記録が白紙に?【ひでたけのやじうま好奇心】

最後に、女子の記録ということで意外と知られていない、「ウソのような大記録」を御紹介しましょう。
それは、女子の円盤投げの世界記録です。
ちなみに日本記録は、2007年に室伏由佳選手(※室伏広治さんの妹)が樹立した、「58m62」。

では、世界記録は?といいますと…
1988年、東ドイツのガブリエレ・ラインシュがマークした、「76メートル80」!
なんと、室伏由佳選手の記録を、20m近くも上回っています。
それだけじゃありません。
ラインシュのこの記録は… なんと、男子の円盤投げの世界記録を上まわっているんです!

※男子円盤投げ世界記録
→「74メートル08」 ユルゲン・シュルト 東ドイツ 1986年
※女子円盤投げ世界記録
→「76メートル80」 ガブリエレ・ラインシュ東ドイツ 1988年

あらゆる陸上競技の中で、女子の記録のほうが男子を上回っているのは、この「円盤投げ」だけ!
女子の円盤のほうが幾分軽いという点を差し引いたとしても、常識的には考えられない記録です。

一説には、女子選手のほうが、男子の選手よりも、ドーピングの恩恵(?)を受けやすい…と言われているのですが、ラインシュのこの怪記録を見ると、頷けるような気もしますね。

もちろん今も世界記録のまま。今世紀に入ってからは、70メートルを超えた選手さえひとりもいません。

もしも、今般の欧州陸連による提言が採用されることになりますと、これらの「脅威の世界記録」が、すべて抹消されることになるのですが…

「疑わしきは罰する」べきなのか?
それとも、記録は記録として、「疑わしきは罰せず」とするべきなのか?
アナタは、どう思いますか?

5月31日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00

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