「記録とは破られる為にある」という言葉があります。
事実、リオ五輪の水泳競技でも、毎日のように、新たな世界記録が生まれていますよね。
考えてみればコレ、当たり前のことでして…スポーツ科学や栄養学、筋トレの方法というのは、まさに日進月歩の世界。
昔の記録が次々と塗り替えられていくのは、当然といえば当然の話です。
ところが…
この常識がまるで通用しない「脅威の世界記録」というものが存在するのをご存じでしょうか?
具体的にいうと、「円盤投げ」や「ハンマー投げ」「やり投げ」などなど、パワーが必要とされる、投擲種目の世界記録なのですが…
これらの記録には、ある共通点があります。
それは、どれもが1980年代…すなわち、なんと約30年前後も前に樹立された記録ということ!
そして、共通点が、もうひとつ。
どれもが、旧ソ連と、その衛星国だった「東側諸国」の選手が打ち立てた記録だということです!
ご存じのように、いま、スポーツ大国ロシアは、国家ぐるみとされるドーピング疑惑に揺れています。
テニスのシャラポワをはじめ、ドーピングの証拠が出た選手もいれば、出なかった選手もいる… 。
果たして、選手ごとの「ケースバイケース」とすべきなのか。
それとも、国家が主導した違反なのだから、国ごと、「まとめて除外」すべきなのか。
ここの部分の判断は、やはり非常に難しいようで…
国際オリンピック委員会(IOC)は、条件付きで、ロシア選手278人の参加を認めまして、ドーピングの証拠が出た111人の参加は認めず… という、やや温情的ともいえる判断を下しました。
かたや、国際パラリンピック委員会(IPC)は、ロシア選手団の「全面除外」という厳罰を下しました。
まさに異例中の異例。IOCとIPCで判断が真っ二つに分かれるということ自体が、この問題の根深さを象徴していると言えるかもしれません。
さて… 実は、問題は、ここで終わってはいないんです。
今回のロシアのドーピング問題が、かつての東側諸国の「驚異の大記録」に波及!
「あれもやっぱりドーピングの産物だったのではないか」と、モロに色眼鏡で見られ始めているんです!
もちろん「疑わしきは罰せず」であり、大記録の栄誉に、いささかの傷がつくものではありません。
でも… お気の毒ともいえる色眼鏡で見られ始めているというのは、紛れもない事実。
いったい、どんな「大記録」が、色眼鏡で見られ始めているのでしょうか?
具体的に紹介していきましょう。
まずは「男子円盤投げ」の世界記録「74m08」。
これは「東ドイツの怪物」と呼ばれたユルゲン・シュルトという選手が樹立した記録なのですが…
この記録が生まれたのは、今からちょうど30年前の1986年6月6日です。
でも、あれから30年…。
どんな怪物であろうと、このシュルトの記録を破る選手は、いまだ、ただのひとりも現れていないんです!
お次は、「男子ハンマー投げ」の世界記録。
ソビエト連邦のユーリ・セディフが叩きだした「86m74」は、1986年8月30日に飛び出しました。
これまた、ちょうど30年前です。
当時からすでに、ハンマー投げの投げ方は、「4回転ターン」が主流となりつつあったのですが、セディフは頑固にも、従来通りの「3回転ターン」でもって、この大記録を叩きだしました。
… え?「4回転じゃなくて、3回転で大記録なんて、なんとも怪しいなぁ… 」ですって?
いえいえ、そんなこと言っちゃいけません、ドーピングの証拠はありません。
実際、この「86m74」は、いまだに、正式な世界記録として、まかり通っているんです。
ちなみに、あの超人・室伏広治のベスト記録「84m86」を、なんと2メートル近くも上回っています。
極め付けの「大記録」は、「男子やり投げ」です。
やり投げの世界記録は、東ドイツのウベ・ホーンの「104m80」という快記録です。
このトンデモない記録は1984年7月20日に飛び出したものなのですが…
それまでアメリカのトム・ペトラノフが持っていた世界記録「99m72」を、
いきなり5m以上も上回ってしまい、大観衆を唖然とさせました。
あとにも先にも、やり投げで「100メートル以上」投げた選手は、このウベ・ホーンただひとりです。
そして、今後も、こんな選手が出てくる気配はありません。
というのも… ホーンが100メートル以上も投げたせいで、
「ほかのトラック走者に当たったら危ないじゃないか!」ということになりまして、
「やり」の素材が、ホーン以後、「飛ばない素材」に変更されたからなんです!
もちろん、男子だけじゃありません。
公平を期すために“色眼鏡”でみられている女子選手の「大記録」にも触れておきましょう。
■「女子砲丸投げ」ナタリア・ロソフスカヤ(ソ連)の「22.63m」(1987年6月7日)
■「女子円盤投げ」ガブリエレ・ラインシュ(東ドイツ)の「76.80m」(1988年7月9日)
■「女子やり投げ(旧規格)」ペトラ・フェルケ(東ドイツ)の「80.00m」(1988年9月9日)
… このように、男女の別なく、「脅威の大記録」には、やはり、さまざまな共通点があるようです。
繰り返しますが、その大半が、ドーピングの効果が特に顕著にあらわれるとされるパワー種目であり…
記録が作られたのは、東西冷戦たけなわ、ドーピング技術が発達したとされる「80年代」であり…
しかも、「旧ソ連を始めとする、かつての東側諸国の選手たち」によって樹立されたものだということです。
そして、実は、これらの「大記録」。
その多くが、東側諸国の競技会で樹立されたものでした。
となると、果たして厳正なドーピング検査がなされていたのかどうか… との疑問も浮上してきます。
実際、当時から、ドーピングの噂が囁かれてはいたのですが、西側諸国としては、立証する手段もなかった… というのが本当のところなんです。
もちろん、ドーピングの証拠がない以上、これらの大記録が、いまも立派にそびえ立つ「壁」であることは間違いありません。
ただし、その「壁」の正体とは… ことによると、「ベルリンの壁」だったのではないか。
そんなことさえ、考えさせられてしまいます。
政治性を帯びた、根深いドーピング問題… 果たしてどうなりましょうや?
色眼鏡で見られ始めている、お気の毒な「脅威の世界記録」をご紹介しました!
8月10日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より