現在、シリーズ第二期『昭和元禄落語心中-助六再び篇-』がオンエア中のアニメ『昭和元禄落語心中』をきっかけに、アニメファンに“本物の落語”を体感してもらいながら、声優が落語にも挑戦してしまう人気イベント「声優落語天狗連 Supported by 昭和元禄落語心中」。その八回目公演が、去る2017年1月28日(土)、都内唯一の“いろもの寄席”としておなじみの「浅草東洋館」で開催された。
開演時間の19時、おなじみニッポン放送アナウンサー・吉田尚記と、学者と漫才コンビ「米粒写経」の二足のわらじで活躍するサンキュータツオさんのMCコンビが登場。まずは「落語×アニメ」についてクロストークし、現在放映中の『昭和元禄落語心中-助六再び篇-』の感想を交えながら、サンキュータツオさんがMCを務め、与太郎役の声優・関智一さんとアマケン役の山口勝平さんが出演するWeb配信番組『智一&勝平の落語放浪記』の収録エピソードが話された。
さらにサンキュータツオさんは、「昨日、『昭和元禄落語心中』のアフレコ見学に行ってきたんですよ!」と言い、有楽亭八雲役の石田彰さんの落語シーンが、実際どう演じられているかの目撃談を熱く語った。それによれば、落語家役の役者陣は、長尺の落語をぶつ切りではなく、アニメの画に合わせながらまるごと1本演じきるのだとか! 一部でもニュアンスを変える指示が出れば、頭からすべてやり直し。しかも石田さんは、回想シーンと歳を取ってからの八雲の年代なども、リアルタイムで細かく演じ分けていくという。「僕の横では、原作者の雲田(はるこ)先生が泣きながら聞いていた。あのままCDにして売って欲しいくらいです!」と、現場の興奮を伝えてくれた。
そしてイベントは、目玉コーナーの「声優落語チャレンジ」へ。今回挑戦する声優は、『アイドルマスターSideM』でも知られる高塚智人さん。高塚さんは、中島ヨシキさんが出演した回を観に来て、自分もやってみたいと志願したのだとか。稽古番の立川志ら乃師匠との1ヵ月間におよぶ練習風景のムービーを上映し、いよいよ高塚さんの高座がスタートした。
「あんだがたどこさ」の出囃子で登場した高塚さんは、満員の客席を前に緊張のおももちだ。この日、『THE IDOLM@STER』のライブが東京体育館で開催されていたことをうけて、「本当だったら今頃は“光る棒”を振ってたはずなのに」と軽いマクラを入れながら、前座噺としても有名な「たらちね」を話し出す。長屋の大家の紹介で嫁をもらった独り身の八五郎と、言葉が馬鹿丁寧すぎる嫁とのトンチンカンな会話が笑いを呼ぶこの噺は、「言い立て」と呼ばれる、嫁の小難しい長台詞が笑いのキモだ。顔に汗を光らせながら、嫁と八五郎という対照的な人物を演じ分け、よどみなく「言い立て」を披露する約10分間の「たらちね」を熱演し、惜しみない拍手を浴びた。
再び舞台に登場した高塚さんは噺を終えてホッとしたのか、脱力した表情で「やりきりました! 口の中がカラカラですが、笑っていただけた!」と頬を紅潮させる。最初はまったく覚えられなかったが、「とにかくずっと練習して、友達の役者にも聞かせてました」と高塚さん。彼の「言い立て」が成功して、舞台の袖で思わずガッツポーズを取っていたという志ら乃師匠は、「〈たらちね〉は大きな笑いが取れない噺なので、前座噺の中でも難しい部類。高塚くんははっちゃけるのには向いていないから、あえてこの噺を選んだ」といい、通常は数十分かかる噺を途中で切り上げ、今までにないサゲに改良して終わったのも、この日のために考えたものだと解説してくれた。
そして、舞台はいよいよ本家本元、プロの落語家による高座へ。本日のゲストは、アニメが大好きだという、将来をますます期待されている二ツ目、柳家わさびさんだ。演目は「死神」。これは、先ほども話に出てきた圓朝の自作噺で、『昭和元禄落語心中』では八雲の十八番として、第二期にも登場予定の重要な噺だ。やる人によって演じ方も内容も変わる「死神」だが、サンキュータツオさんは「現役のなかで柳家わさびさんの〈死神〉が一番好き」で、出演を依頼し続け、今回やっと実現したそうだ。
その柳家わさびさんの「死神」は、独特の味わいと奥深さに満ちていた。「死神」は、貧乏な男が死神と出会い、病人に憑いた死神を追い払う呪文を教えられ、医者になって大儲け。だが、散財して貧乏に戻り、最後は金に目がくらんで禁を犯し、恩を仇で返された死神が激怒。男は自らの寿命のロウソクを……という、ブラックユーモアあふれる噺。わさびさんの静かな語り口から生まれる死神はじつに不気味で、強欲な男の醜さも徹底的にあぶり出し、幽玄の世界へと観客を誘った。
高座が終わると、「死神感、すげえ!」と吉田アナは大興奮。サンキュータツオさんと二人で、わさびさんの演じた死神は不気味すぎて、真の目的や正体を様々に解釈できると自説を披露した。そのわさびさん本人は、「死神」を「〈たぬき〉と同じようにファンタジックで、やりようによって人間のえげつなさを浮き彫りにできる噺」と紹介。今回は医者になった男がゼニがない人を見殺しにする場面や死神の台詞に「飽きた」という言葉を入れていたが、毎回、噺の中に違う工夫を加えているそうだ。
そして最後は、吉田アナから「次回は3月に開催しますが、アニメはそこで終わってしまう。でもこのイベントはそれ以降もやりたいので、〈Supported by 昭和元禄落語心中〉ではなくなっても、みなさんついて来てくれますか?」との重大発表があり、ゲストも客席も拍手喝采。次回以降の「声優落語天狗連」では、どの声優が落語に挑戦するのか? 続報をお楽しみに!
TEXT BY 阿部美香