3/27は高中正義の誕生日・今年で64歳【大人のMusic Calendar】

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3月27日は高中正義の誕生日である。今年で64歳になる。

The-Rainbow-Goblins

虹伝説──THE RAINBOW GOBLINS──それは虹を食べる7匹の小鬼の物語。イタリアの絵本作家、ウル・デ・リコが78年に発表したファンタジーである。81年、高中正義はこの絵本に完全マッチしたいわばサウンドトラックとも言えるアルバム『虹伝説』を発表した。“夏男”の異名をとっていた高中の壮大なるチャレンジだった。当時の高中人気は凄まじく、発売前からこのアルバムのことは大きな話題になっていた。当然のごとく大ヒットを記録、それにともなう日本武道館公演、そして日本語版の出版など、今で言うメディア・ミックスの先駆けと言えるようなプロジェクトにふくれあがり、大成功を収めた。高中正義の中で特別な意味を持つと思われるこの作品の舞台裏を検証してみよう。

虹伝説,高中正義

“虹”への架け橋
昔々、誰も知らないところ、花や鳥や動物たちの楽園。虹を食べる七匹の小鬼たち。
小鬼たちはいつも、おいしい虹を求めて谷をさまよい、高い山を越え…。
(『虹伝説』内ジャケットより引用)

ストーリーはこのように始まる。決して愛らしいとは言えないルックスの小鬼(ゴブリン)たち、おどろおどろしいタッチと仏教美術に影響を受けたような鮮やかな色使い。この『THE RAINBOW GOBLINS』なる絵本に魅せられた高中正義は、ひとつひとつの場面ごとに音楽を付けることを思い立った。日本語版も出ていない一冊のハードカバーを前に、高中はやっと長年の夢を実現する時が来たと思った。

JOLLY-JIVE,高中正義

79年、「ブルー・ラグーン」が収録されたアルバム『JOLLY JIVE』が発売されると高中は大ブレイクを果たした。当然のことながら、人気と多忙は正比例する。当時、あまりの忙しさに高中は少々辟易していたようだ。ある日、発作的にグアムへと逃亡する。そこで出会ったのが『THE RAINBOW GOBLINS』だった。
「これはすごいなと思った。これに音楽を付けたらイエスやピンク・フロイドのようなことができるんじゃないかと」。

意外かもしれないが、高校時代、高中は熱心なプログレ・フリークだった。キング・クリムゾンを一生懸命コピーし、同じようなオリジナルも作った。
「みんなコンセプト・アルバムというのを作ってたでしょ。ピンク・フロイドで言えば『原子心母』とか。みんな一枚のLPが物語になってたじゃないですか。あれにあこがれてね。でも、自分にはそれは作れなかった。自分ではストーリーなんて書けないし。だから、長年題材を探していたところへ偶然その絵本に当たって、これだと思ったわけ」。

こうして一冊の絵本を手に高中は帰国した。絵本には16枚の絵が収められている。それぞれに魅力的な場面が描かれ、見ているだけで想像力をかき立てられる。これに音楽をつけるのはやりがいがあっただろう。テーマがはっきりしているだけに、音楽は作りやすかったのではないだろうか。ところが作曲作業は難航した。
「曲を作るというのは、僕にとっては現実的なこととはあまり関係ないんですよ。例えば、海が好きだからバハマに住んでたけど、海の見える部屋で曲を書こうとしても、海の曲はできなかった(笑)。かえって東京の真っ暗な部屋で、ああ、海に行きたいなと思うと、海っぽいのを思いついたりする。絵本もいざ見ちゃうと、できない。見ないで頭の中で想像して何か浮かんでくることはあっても、まじまじと見てもできないという」。

この言葉は、芸術の本質を突いている気がする。創造意欲をかき立てられることと、想像力でものを作ることはまったく別なのだ。高中はデビュー・アルバム『セイシェルズ』で南の島へのあこがれをメロディにしたが、実はセイシェル諸島には行ったことがないというのは有名な話である。想像力でものを作る人のことを芸術家と呼ぶならば、高中はまさしくそれにあたるだろう。実際、できあがったアルバム『虹伝説』には、見事に場面場面にマッチした曲がそろい、カラフルな高中ワールドが展開されている。チャイニーズ風味のコミカルな「THE SUNSET VALLEY」、スウィートな美メロが際立つ「MOON ROSE」、キメキメのファンク・チューン「PLUMED BIRD」、そしてエピローグの壮大なバラード・ナンバー「YOU CAN NEVER COME TO THIS PLACE」……。

産みの苦しみを味わったこの作品が完成した時の気持ちは?
“終わった時はホッとした。達成感はありましたね”。

のちにウル・デ・リコが続篇の『THE WHITE GOBLIN』を出したのにともない、97年、高中はアルバム『虹伝説II』を作り、武道館コンサートも行なう。高中にとって、虹と小鬼の伝説はコンセプト・アルバムへのチャレンジ意欲をかき立ててくれる唯一の素材なのである。

The-White-Goblin

虹伝説2~ザ・ホワイト・ゴブリン

【執筆者】野口広之(のぐち・ひろゆき):1963年、山梨県出身。1998〜2014年までギター・マガジン編集長。現在は編集人。また、音楽関係の単行本,ムック等を手がける。趣味はトレイルランニング。

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