【大人のMusic Calendar】
50年前の1967年、ニッポン放送が午前1時から5時までの若者向きの番組を作ることになった。
今では考えられないことだが、当時の深夜放送というのは、お風呂の水の音と”うーん、だめよ~”といった、悩まし気な女性の声が入る、ピンクっぽい、大人向けの番組が中心だった。こうした若者向きの番組を深夜にスタートさせたニッポン放送の石田達郎さん羽佐間重彰さんの英断についてもどこかで語られるべき事柄だろう。
高崎一郎さんのアシスタントから66年にニッポン放送が設立した音楽出版社、パシフィック音楽出版(PMP)に社員第一号として入社した私に、高崎さんから番組のテーマソングを探すように命じられた。
音楽出版社の社員としては、もし毎日番組で掛かるオープニングテーマが、自社で管理する楽曲で決まれば、レコード会社に頼んでシングル盤で発売して貰い、大きなヒットを狙える素晴らしいチャンスをつかむことになるので、なんとかPMPで契約している楽曲の中からテーマになる曲を選びたかった。
しかし出来てからまだ1年少ししか経っていないPMPがそれまでに契約出来ていた外国曲は、シャルル・アズナブールの「イザベル」、フランク・プールセル楽団やクロード・チアリなどが演奏していた「哀愁のコルドバ」といったヨーロッパの楽曲が中心で、アメリカの楽曲は「All The Way」や「Love and Marriage」といったフランク・シナトラの1950年代のヒット曲を持ったバートン・ミュージックというカタログくらいしかなかった。
契約している楽曲を考えて、まず最初に思いついたのが、その少し前にマッコイズがリヴァイヴァルヒットさせた、リッチー・ヴァレンスの1958年のヒット「Come On Let’s Go」だった。”この勢いのある曲だったら、若者向けのオープニングテーマにはぴったりだろう!“と、マッコイズのレコードを高崎さんに聴いていてもらったが、”ヴォーカル物はダメだ。演奏ものでなければ・・“ と、一発で却下された。
そこで、PMPで契約しているすべての楽曲の演奏ものをニッポン放送のレコード室の資料をあさり、全部聴いてみたが、どれもピタッとはまる物がなく、ようやっと、ジャック・ジョーンズのヴォーカルでヒットした「あめんぼうとバラ(Lollipop and Roses)」をハーブ・アルパートとティファナ・ブラスが「ホイップト・クリーム・アンド・アザー・デライツ」という、食べ物のタイトルがついた曲ばかりを演奏したLPの中で取り上げているヴァージョンに出会い、“これなら高崎さんも気に入ってくれるだろう”と、また高崎さんに聴いてもらった。
今回は“うーん、悪くないけど、いまいちだな。もっと他の曲はないのか”と高崎さんがティファナ・ブラスのLPの他の曲を、1曲ずつ聴き出した。そして「Bitter Sweet Samba」まで来ると“これだよ、これだ!”と言って、オールナイトニッポンのテーマ曲が決まったのだ。残念ながらPMPの管理楽曲ではなかったが・・・。
『高崎さんが渡したレコードのA面とB面を間違ってディレクターが掛けた、とかLPの他の曲を間違って掛けた』といった都市伝説は、高崎さんが話を面白くするために、わざと語ったことで、紛れもなく「Bitter Sweet Samba」を選んだのは高崎一郎さんだ。
すぐにキング・レコードでA&Mレーベルを担当していた寒梅賢さんにお願いし、B面にPMPの管理楽曲「Lollipop and Roses」をカップリングした「Bitter Sweet Samba」のシングル盤を発売して貰った。このレコードはかなりのヒットとなり、私も音楽出版社の社員としてA面の楽曲と同じ額の売り上げを上げることが出来たのだ。
※ハーブ・アルバートとティファナ・ブラスの「ビタースィート・サンバ」撮影協力:鈴木啓之
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【著者】朝妻一郎(あさつま・いちろう):(株)フジパシフィックミュージック代表取締役会長、日本音楽出版社協会顧問(元会長)。音楽評論家、音楽プロデューサー。高校時代にポール・アンカのファンクラブ会長に就任。高崎一郎の知遇を得、アシスタントとしてニッポン放送で選曲や台本書きのアルバイトを務める。1963年より会社員生活の傍ら、レコード解説の執筆を始める。1966年パシフィック音楽出版(PMP、現フジパシフィックミュージック)に入社。契約を担当する一方、ディレクターとしてザ・フォーク・クルセダーズやジャックスのレコード制作を手掛ける。以来、大瀧詠一、山下達郎、サザンオールスターズ、オフコース等、数多くのアーティストに関わる。