1975年10月31日、クイーンの名曲「ボヘミアン・ラプソディ」が英国でリリース

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ジョン・レノンの「イマジン」やビートルズの「ヘイ・ジュード」「イエスタディ」を抑え、英国史上最も人気のあるシングルとして2002年にギネスにも認定された「ボヘミアン・ラプソディ」がクイーンの5枚目のシングルとして英国でリリースされたのは、1975年の10月31日のこと。

6分を超える長尺のためヒットすることはないだろうという周囲の予想を覆し、この曲は発売1ヶ月後に1位をマークしてから9週にわたり全英チャートを独走、収録アルバム『オペラ座の夜』も英国と米国で初の1位を獲得して彼らは一躍人気バンドの仲間入りを果たす。

そして、エルトン・ジョン&アクセル・ローズ、フランク・ザッパ、フー・ファイターズ、デーモン閣下から、映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)での車中シーン、グッチ祐三によるパロディまで、今なお世界中で数多くのカヴァーが生み出されている。

『ユージュアル・サスペクツ』『X-メン』などを手がけたブライアン・シンガー監督によるクイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』も、来年に公開予定だ。

なぜ、「ボヘミアン・ラプソディ」はこれほどまでに人々の心をとらえて離さないのだろうか。

60年代末から70年代始めにかけての英国ロック・シーンでは「ボヘミアン・ラプソディ」に限らず、キング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」(1969年)、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」(1971年)など、新しさを求めて実験精神が爆発したような曲がたくさん生まれ、ヒット・チャートを席巻した。

だが、「ボヘミアン・ラプソディ」だけが今なお、現在進行形で一人勝ち状態なのである。

理由のひとつとして考えられるのは、その斬新さだ。

1曲の中でアカペラ、バラード、オペラ、ハードロックへと急転直下に展開するスリリングなサウンドに、いきなり「ガリレオ、ガリレオ」と訳のわからないフレーズも飛び出す、ある意味荒唐無稽ともいえる構成は何度聴いても強烈なインパクトをもたらす。

それに比べれば、「21世紀のスキッツォイド・マン」はフリージャズ的だし、「天国への階段」はフォークやトラッドからハードロックに変化と、英国ロックの伝統に則ったサウンドである。

フレディ・マーキュリーはどうして、ここまでドラマティックな曲を作ることができたのだろう?

英語に「ドラマ・クイーン」という言葉がある。

文字通り、自分が悲劇のヒロインのごとく何ごとにつけ大げさに騒ぎ立てる女性のことを指す。

実はこの言葉、ゲイの間でもよく使われる。

勝手にストーリーを作って、日常生活の中でもやたらエモーショナルになっちゃう演技過剰なゲイを揶揄するときだ。

そういうときはたいがい「あの女、ドラマ・クイーンだから!」と言う。

「ドラマ・クイーン」とはまるで語呂合わせのようだが、それを知って「ボヘミアン・ラプソディ」を聴くといちいち腑に落ちるのだ。

ロジャー・テイラーやブライアン・メイは否定しているが〝人を殺してしまった〟と母親に告白する歌詞は、フレディがそれまでの自分と決別してゲイとして生きることを示しているとまことしやかに囁かれ続けている。

だが私は歌詞そのものよりもデコラティヴなサウンド・プロダクションの部分にこそ、フレディのドラマ・クイーン性を感じる。

一度聴いたら忘れられない印象的なメロディをオペラ歌手さながらエモーショナルに歌いあげるヴォーカル、録音テープが透けるほどオーバーダビングを繰り返したコーラス、フレディが左手でピアノを弾きながら考え出して、ブライアンに指示したというヘヴィなギターフレーズなどなど、あらゆる要素がこれでもかと詰め込まれたサウドは空前絶後で、もはや好き嫌いを超越して凄いとしか言いようがない。

80年からは短髪+ヒゲ+ソフトマッチョ+胸毛というスタイルであからさまにゲイ・テイストを全開にしながらも、結局はカミング・アウトしなかったフレディ。
 
そんな彼が初めて自らの資質を存分にサウンドに昇華したことで「ボヘミアン・ラプソディ」という大傑作が生まれ、その後のバンドの快進撃をもたらしたことは間違いない。

かように様々な解釈を生む「ボヘミアン・ラプソディ」を超える名曲は、きっとこれからも出てこないだろう。

【著者】藤野ともね(ふじの・ともね):大学時代に音楽ライターを始め、フリーランスとして『宝島』『キューティ』『VOW』(以上、宝島社)、日本初LGBTマガジン『yes』(NMNL)などの編集に関わる。父の介護ブログをまとめた『カイゴッチ 38の心得』(シンコー・ミュージック)が発売中。
1975年10月31日、クイーンの名曲「ボヘミアン・ラプソディ」が英国でリリース

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