1959年12月27日、第1回日本レコード大賞が開催。受賞曲は水原弘「黒い花びら」

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2017年で59回を迎える日本レコード大賞。第1回の開催が行われたのは1959年の12月27日のことである。

2006年以降は大晦日の前日に開催される、日本レコード大賞の授賞式だが、1969年から2005年までは毎年、大晦日に行われていた。本選まで進んだ歌手たちが、NHK『紅白歌合戦』と掛け持ち出演のため、大晦日の夜に大移動が行われることも、歌謡界黄金時代の風物詩であった。レコ大といえば大晦日、と記憶されている方も多いだろう。だが、初期は随分と半端な時期に行われていたのだった。

というのも、元々レコード大賞は当時の音楽界の風潮に一石を投じるつもりで掲げられた賞だったのである。同賞が発足した1959年頃は、日本の音楽シーンは戦前から続くレコード会社の専属作家制度が強固であり、大手のレコード会社が専属作家に売れ線の曲を書かせ、所属歌手に歌わせるという旧態依然の楽曲制作が行われていた。いっぽうで海外のシーンからはジャズ、ラテン、ロカビリーなど新たな音楽ジャンルが次々に輸入されてきた。こういった新しい西洋音楽に飛びついたのは若者たちであり、従来の歌謡曲を聴く層は大人世代であった。こういった世代間のギャップを埋め、新たな時代の日本の歌を生み出すべく、ジャンルを問わずその年の日本を代表する歌を選出する賞を開催しようと試みたのが日本レコード大賞であった。前年のアメリカ・グラミー賞の設立が念頭にあったことはもちろんである。

レコード大賞の設立を提唱したのは、レコード会社所属の作曲家による親睦団体、日本作曲家協会である。同協会も古賀政男や服部良一らによって同じ59年に設立された団体だが、レコード会社の団体である日本蓄音機レコード文化協会(現・日本レコード協会)は共催を拒否、ビクター以外の協力が得られず、大手新聞社、テレビメディアも積極的に賛意を示すことはなく、TBSのみが賛同したため、現在でも同賞の放送がTBSで行われている。その後、音楽界の最高権威となっていく日本レコード大賞の船出は、何とも小規模なものであった。

当然のことながら現在と違って同賞の知名度はまったくなく、第1回のレコード大賞を「黒い花びら」で受賞した水原弘は、受賞の報せを受けて「レコード大賞? なんだい、そりゃあ」と言ったという逸話が残っている。実際、この「黒い花びら」も作詞の永六輔は本業が放送作家、作曲の中村八大はジャズ・ピアニストから作曲家に転身しており、レコード会社の専属作曲家ではなかった。水原もまだ新進メーカーだった東芝レコードの所属で、しかも若者に大人気だったロカビリー出身のシンガーでもあった。「黒い花びら」は今聴くと、歌謡曲ど真ん中の楽曲に思えるが、この曲は東芝の邦楽第1号レコードでもあり、若者向けの、新しい時代のポップスであったのだ。

「黒い花びら」は、東宝と渡辺プロが製作していたロカビリー映画『青春を賭けろ』に使用するためのオリジナル曲として、中村八大に依頼していたものの1曲であった。翌日までに10曲仕上げて欲しいという要求に困り果てた中村は、面識のあった永六輔に共同作業を依頼、永は作詞経験がなかったにも関わらず快諾し、徹夜で10曲を作り上げたという。その後名コンビと謳われる六・八コンビの最初期の楽曲の1つで、この徹夜10曲の中にはやはり水原弘が歌い、その後ちあきなおみのカヴァーで再び脚光を浴びた「黄昏のビギン」もあったという。

同賞の発表会は12月27日の午後3時から、文京公会堂で開催され、TBSで生中継されたが、放送時間にして30分。2000人の会場には200人ほどしか集まらなかったという。
しかし、この「黒い花びら」という当時としては異色のナンバーを第1回の大賞に選んだことで、同賞の方向性が決まったともいえる。服部良一はのちに、「『黒い花びら』のような曲に大賞をとってもらいたかった」と漏らしていたそうで、単にその年のヒット曲、王道の流行歌ではなく、日本の音楽シーンの将来性を見据えた上で賞を選出していたのだ。

「黒い花びら」は現在でも、日本の歌謡曲のスタンダードとして語り継がれ、歌い継がれているが、後世にまで残る楽曲を選出した日本レコード大賞のあり方は、その後の歌謡界の発展に大きく寄与するものだったといえるだろう。

「黒い花びら」撮影協力:鈴木啓之

【著者】馬飼野元宏(まかいの・もとひろ):音楽ライター。月刊誌「映画秘宝」編集部に所属。主な守備範囲は歌謡曲と70~80年代邦楽全般。監修書に『日本のフォーク完全読本』、『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド1959-1979』ほか共著多数。
1959年12月27日、第1回日本レコード大賞が開催。受賞曲は水原弘「黒い花びら」

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