1978年の今日、山下達郎の名盤『ゴー・アヘッド』がリリース

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アルバムの帯には、「山下達郎 TATSU YAMASHITA GO AHEAD!」と大きく記され、他には、合計10個の曲名が並んでいるだけだ。発売元のRVC、値段の¥2,500などの表記はあるが、それ以外に大袈裟な惹句の類は一切ない。それが、山下達郎のスタジオ録音としては3作目にあたる『ゴー・アヘッド』で、1978年12月20日の発売だった。

当時を振り返って、彼は、これが最後のアルバムになるかもしれない、そういう覚悟で作ったと語っている。というのも、ライヴではある程度の人数も集まり、音楽的な成果でも評価を得ていたが、それらがなかなかレコードのセールスに結びつかなかったからだ。そのために、レコード会社を含めて周囲から徐々に追い詰められていった。

アルバムを作るための充分な時間や費用をかけることができず、前作『IT'S A POPPIN TIME』がライヴ録音だったのも、製作費を抑える策の一つだったとも言われている。そのために、これを最後に裏方としての仕事、例えば、ソングライターやアレンジャーとして、CM関係の仕事で生計を立てていこう、ならば、最後に好きなことをやってやろうと。その結果、音楽的にはバラエティに富んだ内容になった。

それが、思いもかけない形で、明日を照らし出すのだから世の中わからないものだ。まず、アイズリー・ブラザーズが好きだからと作ったファンク・ナンバー、「ボンバー」が、大阪の、それもディスコで話題になる。それで、このアルバムからのシングルとして用意した「レッツ・ダンス・ベイビー」とのカップリングでB面に収録してあったのを、大阪に限ってA面B面とを入れ替えて発売することになる。

そもそも、その「レッツ・ダンス・ベイビー」と「ボンバー」のカップリングは、彼にとって初めてのシングルだった。その後、演奏の途中で客席でクラッカーが炸裂し、彼のコンサートでは欠かせない名物となる「レッツ・ダンス・ベイビー」もまた、偶然と言えば偶然の産物だった。キングトーンズのために作曲したもので、作詞家吉岡治との共作だった。吉岡は、石川さゆりの「天城越え」、大川栄作の「さざんかの宿」、瀬川瑛子の「命くれない」等々の演歌の作品を数多く手がけるいっぽうで、野坂昭如との「おもちゃのチャチャチャ」などを世に送り出した作詞家だ。

吉田美奈子が、「ボンバー」や「潮騒」などで歌詞を提供し、ボーカルでも参加した。「ペイパー・ドール」は、前作『IT'S A POPPIN' TIME』で披露されていた曲で、それをスタジオ録音し直したものだ。ハリー・ニルソンが、フィル・スペクターのもとで書いて、モダン・フォーク・カルテットがレコーディングした「ディス・クッド・ビー・ザ・ナイト」のカヴァーもあった。後に、これは、ブライアン・ウィルソンが、ニルソンのトリビュート盤で歌った。

「ラブ・セレブレイション」は、笠井紀美子が、安井かずみの歌詞でタイトルを変え、一足先に発表した。もともとは、リンダ・キャリエールという女性の歌で世に出るはずだった。というのも、契約プロデューサーとして、アルファの村井邦彦に迎えられた細野晴臣が、その第1作目として手掛けたのが彼女のアルバムで、吉田美奈子や矢野顕子らと一緒に山下達郎も曲を提供する。その一つが、「ラブ・セレブレイション」だった。アルバムは完成したものの日の目を見ることがなく、結局、それに続くアルバムとして、細野がとりかかったのが、細野晴臣&イエロー・マジック・バンド名義による『はらいそ』だった。つまり、YMOへと繋がっていくアルバムだ。そう言えば、当時、山下ともライヴでも頻繁に一緒だった坂本龍一が、この『ゴー・アヘッド』でもピアノやシンセサイザーを担当している。

そうやって、いろんな人の運命がここでもつれた糸のように交錯しながら潜んでいて、いま振り返ってみると、なんだか、胸がわくわくしてくるアルバムでもある。もちろん、その中心にいたのは、山下達郎で、肉感的というか、身体から発せられる弾力のようなものが、ここでの音楽をとてもみずみずしいものにしている。音の一つ一つが、華やかな輝きを放っているのだ。しかもそこには、切なさを覗かせる瞬間もあって、例えば、その一つが、「潮騒」だ。彼の青春というか、若者らしい息遣いが感じられ、ぼくは、この歌が大好きだった。いまだに、コンサートで演奏されたりすると、ついしんみりしたりもする。

【著者】天辰保文(あまたつ・やすふみ):音楽評論家。音楽雑誌の編集を経て、ロックを中心に評論活動を行っている。北海道新聞、毎日新聞他、雑誌、webマガジン等々に寄稿、著書に『ゴールド・ラッシュのあとで』、『音が聞こえる』、『スーパースターの時代』等がある。
1978年の今日、山下達郎の名盤『ゴー・アヘッド』がリリース

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