大相撲・小結 貴景勝 元貴乃花親方がシコ名に込めた思い
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、大相撲九州場所でただいま優勝争いのトップを走る、小結・貴景勝のエピソードを取り上げる。
場所前に休場した白鵬・鶴竜に続き、稀勢の里も5日目から休場して、横綱不在場所となった大相撲九州場所。大関陣も豪栄道が3敗、栃ノ心が4敗と精彩を欠くなか、場所を盛り上げているのが、小結・貴景勝・22歳です。
今場所の貴景勝は、初日に稀勢の里を破ってから6連勝。7日目に関脇・御嶽海にはたき込みで敗れましたが、8日目は妙義龍を引き落としで破り、1敗をキープ。同じく1敗で並んでいた平幕の阿武咲、大栄翔が敗れたため、中日を終えてトップに立ちました。
小結の力士が単独トップで場所を折り返すのは、93年春場所の若花田(後の横綱・3代目若乃花)以来25年ぶり。もしこのまま逃げ切って優勝すれば、2000年夏場所の魁皇(現・浅香山親方)以来、18年ぶりの小結優勝となります。
しかし8日目の相撲は、貴景勝自身、納得がいっていないようです。取組前、最初の仕切りの際に、向正面の審判員・時津風親方が、「まわしの結び目が緩く、土俵上で外れるおそれがある」と判断。呼び込みが2人がかりで締め直す珍しいハプニングがあり、1分以上も相手と観客を待たせる、という失態を演じてしまったのです。
取組自体は、妙義龍の強烈な張り手を食らいながら、とっさの引き落としでかろうじて勝ちましたが、取組後、貴景勝はこう語りました。
「0点。最悪。今場所でいちばんダメ。でも精神はぶれなかった。何も影響はない。15日間あればこういうこともある」
相撲内容は反省しながらも、メンタル面で平静が保てたことを自己評価。優勝争いをリードして行く意欲を示したのです。
貴景勝は、「貴」の字が付いたシコ名でもお分かりのように、先日、相撲協会を退職した元貴乃花親方の弟子です。元貴乃花親方との縁は深く、小学生のとき、元貴乃花親方が主催する「キッズクラブ」に兵庫県芦屋市から3年連続で参加。入門が待ちきれず、高校在学中に貴乃花部屋の門を叩き、3年生の9月、在学中に本名の「佐藤」で初土俵。高校に通いながら土俵に上がりました。
20歳で新入幕を果たした際、シコ名を「貴景勝」に改めましたが、これは元貴乃花親方が考えたもので、戦国武将・上杉謙信の後継者・上杉景勝から取っています。元貴乃花親方は、当時こうコメントしました。
「私が好きな上杉謙信公。その後を継いだのが景勝です。日本の心意気や、誇りの精神を抱いて土俵に上がってほしい」
つまり、貴景勝というシコ名には「自分の相撲道を継承してほしい」という、元師匠の願いも込められているのです。元貴乃花親方の退職に伴い、貴景勝は今場所から千賀ノ浦部屋へ移籍することになりましたが、
「小さい頃から、貴乃花親方についていくと思ってこの世界に入った。新しい部屋になるからには、向こうの部屋の方針に対応していかないといけない。でも心の中では、貴乃花親方の根本的な教えを忘れず、しっかり自分の幹として叩き込んでいかないと」
部屋が変わっても、あくまで心の師匠は元貴乃花親方。稽古熱心で、常に相撲のことを優先して考えるところは、まさに元師匠譲りです。
「土俵で一生懸命活躍することが、師匠への何よりの恩返しになる」
と言う貴景勝。9日目は結びで大関・栃ノ心と対戦しますが、初優勝目指して残り7日間、どんな相撲を見せてくれるのか、注目です。