マリナーズ・イチロー ラストゲームにあった様々なギフト

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、21日のアスレチックス戦を最後に現役引退を表明した、シアトル・マリナーズ、イチロー選手のエピソードを取り上げる。

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引退の記者会見を行うマリナーズのイチロー外野手=2018年3月22日未明、東京都内のホテル 写真提供:共同通信社

「(引退試合の)球場での出来事、あんなものを見せられたら、後悔などあろうはずがありません」(イチロー)

21日、東京ドームで行われた、メジャーリーグ開幕シリーズ第2戦、アスレチックス対マリナーズ戦。この試合は、マリナーズ・菊池雄星の記念すべきメジャーデビュー戦でしたが、同時にイチローの「現役ラストゲーム」となってしまいました。

「イチローが引退を表明」という第一報が流れたのが試合の真っ最中だったため、スタンドに詰めかけたファンは、イチローの打席が回るたびに「これが最後かもしれない」と大声援を送り、場内は異様な雰囲気に包まれました。

試合は同点のまま、延長戦に。イチローが退いた後も、12回に試合が終わるまでほとんどの観客が帰らず、試合終了後も、再びイチローが現れるのを待ち続けたファン。イチローも場内一周で応えました。

電撃的な引退表明でしたが、試合後に急きょ設定された会見でイチローは、「キャンプ終盤に結果を出せなかった時点で、引退を決断しました」とコメント。うすうすそんな雰囲気はありましたが、マリナーズのディポトGMも「これは、日本に行く前から決まっていたこと」と認めました。日本での開幕2連戦が終われば、特別に増員されていたベンチ入りの枠が元に戻るため、「若手の出場機会を奪いたくない」という思いもあったようです。

残念ながら、前日の開幕戦に続いて、イチローはこの日もノーヒット。8回の第4打席は、センターに抜けそうな当たりをショートが好捕。イチローも全力疾走しましたが、一塁手のミットにボールが収まるのが一瞬早く、有終の美を飾ることはできませんでした。

8回裏、いったん守備位置についた際に交代を告げられ、万雷の拍手を浴びながらベンチへ戻って来たイチロー。マリナーズベンチでは、この日の先発・菊池が号泣していました。憧れの人と抱き合い「頑張れよ」と告げられた菊池。

「幸せな時間でした。イチローさんは、日本で(開幕戦を)やることを“ギフト”と言っていましたが、僕にとってはイチローさんとプレーできた時間が最高の“ギフト”でした」

さらに元チームメイトで、マリナーズの永久欠番保持者でもあるケン・グリフィーJr.氏もイチローを待ち構え、熱い抱擁を交わしました。

「野球に涙は似合わないけど、素晴らしい選手が引退するときは、泣いたっていいんだ。イチローには『キミの成し遂げてきたこと、そしてこれからの人生をエンジョイしてくれ』と伝えたよ」

マリナーズ・イチロー ラストゲームにあった様々なギフト

【野球MLBプレシーズンゲーム巨人対マリナーズ】2回 打席に入るマリナーズ・イチロー=2019年3月17日東京ドーム 写真提供:産経新聞社

そしてもう1人、反対側のベンチから、感慨深げにこの光景を見守っている人物がいました。アスレチックスの指揮官・メルビン監督です。実はメルビン監督は、2003〜04年にマリナーズの指揮を執ったことがあり、イチローと共に戦った“戦友”だったのです。

2004年、イチローが、メジャーのシーズン安打記録を84年ぶりに塗り替える258本目のヒットを打った際、真っ先にベンチから飛び出して、塁上にいるイチローのもとに駆け寄ったのがメルビン監督でした。

その心遣いを、イチローは深く感謝。いまでもメルビン監督を尊敬する監督の1人に挙げ、マリナーズがオークランドに遠征した際には、一緒に食事をする仲です。“戦友”の最後を敵将として見届けることになったメルビン監督。試合後、こんなコメントを残しました。

「野球人として尊敬の念に値する。彼はスタンディングオベーションに値する選手」

くしくも昨年5月、イチローが出場した最後の試合(=本拠地セーフコ・フィールドでのラストゲーム)はアスレチックス戦で、指揮官はやはりメルビン監督でしたが、深い縁があるからと言って、緩めるなんてことは絶対にありません。

今回の2連戦も「感情は切り離して、勝ちに行く」と宣言。イチローの引退試合となった第2戦でも、7回に粘って同点に追い付き、延長12回まで戦ったのは、真剣に戦ってこそ、最高のはなむけになると思ったからこそでしょう。マリナーズの連勝で終わったこの2連戦ですが、いずれも接戦で、日本のファンもメジャーの真剣勝負を堪能できました。

盟友たちが見守るなか、日米通算で28年に及んだプロ野球人生にいったんピリオドを打ったイチロー。今度はどんな形で、第2の野球人生をスタートさせるのか、注目です。

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