マリナーズ・サービス監督がイチローをスタメン起用する理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、17日に行われた巨人とのプレシーズンマッチで、東京ドームへ久々に“凱旋”した、シアトルマリナーズ・イチロー選手のエピソードを取り上げる。
「いい雰囲気。感激しました。東京のファン、最高!」(イチロー)
17日、東京ドームで行われた、巨人−マリナーズ。20日・21日に行われるメジャーリーグ開幕戦に先立つプレシーズンマッチでしたが、スタンドは超満員。当日券を求めて前日から並ぶ人も出たそうで、4万6,315人のファンで埋まりました。
観客の興味はもちろん、イチロー。東京ドームでの試合に出場するのは、2012年のメジャー開幕戦(vsアスレチックス)に出場して以来7年ぶりのこと。2日後の本番に備えた調整試合にもかかわらずこれだけの人が集まったのですから、さすが人気は衰えずです。
試合前の練習から、イチローが打球をスタンドインさせるたびに大歓声。この日は「9番・ライト」での出場でしたが、場内アナウンスでスタメンが発表されると、また大歓声。
イチローも、ファンの思いはよくわかっています。3塁側のファールゾーンに設置されたエキサイトシートから身を乗り出してサインをねだるファンに、プレイボール直前まで応じていたのは、もちろんファンサービスなのですが、ギリギリまでグラウンドにいることで、ファンに自分の姿をできるだけ長く見てもらいたい……おそらくそんな意図もあったに違いありません。
2回に回って来た第1打席。スタンドの観客のほとんどがスマホを手にして、イチローの「凱旋初打席」をカメラに収めました。いや、ファンだけではありません。マリナーズベンチでも、自分のスマホで偉大な先輩の打席を写すチームメイトも。
マリナーズの来日公式会見で、ある選手がこんなコメントを残しました。
「イチローの残したすべての業績が偉大だ。いまでも輝いている」
そんなレジェンドと、同じ試合に出られることの喜び。この経験は、とくに若い選手たちにとっては、何ものにも代えがたい財産になります。マリナーズのサービス監督が、オープン戦打率.080、18打席連続ノーヒットのイチローをスタメン起用した理由も、まさにそれ。イチローを使うのは、日本のファンのためだけでなく、チームのためでもあるのです。
今村と対戦した注目の第1打席ですが、ここでも「イチロー流」が発揮されました。何と、初球から5球目まですべての球を見逃し、バットを一切振らなかったのです。イチローは本来、ファーストストライクを積極的に打って行くバッターであり、振りながらタイミングを合わせて行くタイプなので、こんなにバットを振らないことは、非常に珍しいのです。
結果はセンターフライに打ち取られましたが、この待機策もおそらく、イチロー流のファンサービスなのでしょう。初球をいきなり打って凡退しては、ファンが自分を見る時間が減ってしまう。ならば、カウントが埋まるまで待とう……。
結局この日は、第2打席→セカンドゴロ、第3打席→ショートゴロで途中交代。3打数ノーヒットに終わりましたが、印象的だったのは、スタンドのファンが全員、固唾を呑んでイチローの打席を見守っていたことです。ジャイアンツ応援団が、巨人の攻撃時以外は鳴り物入りの応援を控えたこともありますが、その静寂こそ、イチローが特別な選手であることの証しでもありました。
「きょうしか来られない人がたくさんいたと思う。結果を出したかったね」
そんなコメントを残し、ドームを後にしたイチロー。調整試合でもファンを意識して振る舞うのが、イチロー流なのです。これで21打席連続ノーヒットになりましたが、サービス監督は試合後、こう断言しました。
「イチローは、プレッシャーなんか感じていない。彼には、このシリーズへの参加権利がある。ちょっとスローかもしれないがね。きょうもいい当たりがファウルになった。まったく心配していない」
18日にも巨人との試合がもう1試合行われ、中1日おいて20日から、いよいよアスレチックスとの開幕戦。サービス監督は、2試合ともイチローを起用する方針です。本番では果たしてどんなバッティングを見せてくれるのか? 45歳になっても、イチローからは目が離せません。