プロ初勝利の広島・山口翔 「生んでくれてありがとう」
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月30日のヤクルト戦で好投、プロ初勝利を挙げた広島カープ・山口翔投手のエピソードを取り上げる。
「自分の武器の真っ直ぐで押すことができてよかった。全力でやった結果が勝ちに結びついたので、本当にとてもうれしいです!」
カープ投手陣にまたしても、頼もしい新星が登場です。30日、神宮球場で行われたヤクルト-広島戦で、緒方監督は高卒2年目・弱冠20歳の山口翔を、今季初めて先発で起用しました。
山口は期待に応え、ヤクルト打線を7回二死まで無安打に抑える快投を披露。これはノーヒットノーラン達成か?……というところで、同学年・同郷(熊本)の村上に、レフト前にポトリと落ちるヒットを打たれ、惜しくも大記録はならず。しかし、続くバレンティンを空振り三振に斬ってとり、7回を1安打無失点・8奪三振、二塁を踏ませないみごとなピッチングで、プロ初勝利を飾ったのです。
試合後のヒーローインタビューで、手にしたウイニングボールをどうするか聞かれた山口は、
「もちろん、自分を生んでくれたお母さんと、お父さんにあげたいです。『生んでくれてありがとう。俺やったよ!』って言います」
と、笑顔で語った山口。今季最多、16安打13得点を挙げ、好投を後押ししてくれたカープ打線にも感謝を忘れませんでした。
「野手の皆さんが、たくさん打ってくれた。自分は本当に投げやすかったので、カープに来てよかったな、と思いました」
山口のプロ初勝利で、チームも「月間19勝」という球団新記録を達成。毎年、鯉のぼりが舞う5月は調子が上がるカープですが、貯金は12に増え、4連覇に向けて今年も独走態勢に入りそうな勢いです。
一時は借金8を抱えた4月の不振から一転、ここまでV字回復を果たせたのは、打線が調子を取り戻したこともありますが,投手陣が安定したことも大きな理由です。
昨季(2018年)は3連覇を果たしたものの、先発陣が打ち込まれるケースが増え、チーム防御率は2017年の3.39から、4.12に悪化。失点が増えた分を打線がカバーしていたわけですが、このままでは4連覇は危うい、と考えたのが、今季から1軍担当となった佐々岡投手コーチです。そこで先発強化策としてキャンプから掲げたのが「先発10人構想」でした。
先発の適性がありそうな若手ピッチャーには、オープン戦から登板機会を与えて試し、開幕までに先発候補を10人作っておこう、というもの。ローテからあぶれた投手はリリーフに回し、先発の誰かが不振、もしくは故障した場合はすぐに入れ替えます。
開幕直後、ローテーションの柱として期待されていた九里と岡田が1勝も挙げられず、チームも4月16日の時点で4勝12敗。借金8を抱え、最下位に低迷しましたが、この危機を救ったのが、「10人構想」で先発に抜擢された3年目の2人、床田(24歳)とアドゥワ(20歳)です。
床田は4月に4連勝。4月下旬からローテ入りしたアドゥワも、5月12日のDeNA戦で完投勝利を挙げると、19日の阪神戦では7回を無失点に抑え2連勝。しっかり穴を埋めています。
5月はこの2人に、大瀬良・野村・ジョンソンの5人でローテーションを回していましたが、最終週は6連戦があるため、6番手として新たに抜擢されたのが、2年目の山口でした。
昨年は1軍登板がありませんでしたが、今季は中継ぎで3試合に登板。合計4イニングを投げ無失点に抑えたことが評価され、4戦目で初先発、いきなり結果を出したのです。
マウンドに上がる前、佐々岡コーチに「一人一人に集中して、全力で投げてこい!」と激励されたという山口。そのアドバイスを守り、7回途中まで無安打ピッチングを続けました。
「(ノーヒットノーランを)意識したらまた崩れるかなと思ったので、絶対に意識しないように心掛けて投げました」
佐々岡コーチも、新たな“孝行息子”の出現にご満悦。
「素晴らしい投球。ここまでやるとは思っていなかった。変化球でストライクを取れて、緩急をうまく使っていた」
と絶賛。次回も先発で投げるのは確実ですが、このように、いつでも先発のスペアがいる状況を作っておけば、自ずと競争意識が高まり、投手陣の底上げにもつながります。カープの強さは、こういった先を見据えたプランにもあるのです。