“熱投347球”の広島・九里と“投げない”派のマエケン 「キャンプ中の投げ込み」に意味はある?

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、プロ野球の「キャンプにおける投げ込み」にまつわる話題を取り上げる。

【プロ野球広島沖縄キャンプ】ブルペンでピッチングする九里亜蓮=2021年2月2日 コザしんきんスタジアム 写真提供:産経新聞社

「佐々岡監督・黒田(博樹)さんも、先発完投するピッチャーは、キャンプで球数を投げるイメージがあったし、疲れても強い球を投げられるようにするには、球数を投げて体に覚えさせるしかないので」(4日の練習後、広島・九里のコメント)

2月1日からプロ野球はキャンプイン。今年(2021年)の春季キャンプは、新型コロナ対策のため、どの球団も取材に厳しい制限がかかっています。キャンプに行けないファンのために、何とか話題を見つけようという担当記者の苦労がしのばれます。

そんななか、4日のキャンプ速報で目を引いたのが、「広島・九里亜蓮がブルペンで347球投げ込み」という記事です。かつては、春季キャンプで投手がどんどん投げ込みを行うのは当たり前でしたが、近年は肩・ヒジの消耗を考え、過度の投げ込みはしないのが主流になっています。

記事をパッと見て、「いまどき、キャンプで1日300球以上も投げるピッチャーがいるんだ?」と驚きましたが、投げたのが九里と知って「ああ、なるほど」と納得しました。九里は入団時からキャンプで何球も投げ込むタイプで、体力にかけては球界でも一、二を争うタフなピッチャーです。

九里は2日にもブルペンで120球投げ込んでおり、その際「特別なマウンド(=開幕戦)に立てるようにレベルアップしないと。妥協せずにやりたい」と開幕投手への意欲を見せていました。昨年(2020年)の開幕投手はエース・大瀬良大地でしたが、シーズン途中で故障離脱。大瀬良に代わって、苦しい台所を支えたのが九里でした。

昨季の九里は、20試合すべて先発で登板し、8勝6敗。プロ7年目で初めて規定投球回に達し、防御率2.96と安定したピッチングを見せました。今季は背番号が「12」から「11」に変わり、自分が投手陣の柱になるんだ、という強い意欲を感じます。大瀬良と九里は、2013年ドラフト1位・2位の同期生。負けてなるか、という思いもあっての「347球」だったのでしょう。

現役時代、キャンプで何百球も投げ込んでいた佐々岡真司監督は、九里の投げ込みについてこうコメントしました。「僕らの時代といまでは考え方も違うなか、本人が投げ込みの重要性を(感じてやっている)。昭和の練習かも知れないけれど、いろいろなことを考えながら取り組む姿勢というのは評価したいし、無駄ではないと思う」

一方、「投手の肩、ヒジは消耗品」という考えから、キャンプでの投げ込みについて「意味を見出せない」と語るのが、広島の元エース・前田健太です。現在はミネソタ・ツインズでプレーする前田は、広島在籍時から「キャンプでは投げ込まない派」でした。いまの潮流をつくった1人でもあります。

なぜ投げ込みをしないのか?……前田が語る理由は、昔から一貫しています。過去のインタビューから、いくつか発言をご紹介しましょう。

「僕の場合は、投げない方がシーズンにうまく入れる。特に投げ込まなくても、肩のスタミナには自信あるし、フォームを固めるために投げ込みが必要だと言われますけど、オフで1、2カ月空いたくらいでフォームを忘れるとか、何百球を投げないと思いだせないような、やわなフォームはしていない。調整する方が大事だと思いますから、投げ込む必要はないと思っています」

~『Number Web』2011年1月22日配信記事 より

ある程度投げ込んで疲れてからの方が、力が抜けて投球が良くなるという考え方には疑問を持つ。

「じゃあなんでそのフォームで1球目から投げられないのって僕は思う。『200球目からいいフォームで投げられた』では、すでに試合は終わっているじゃないですか」

~『朝日新聞デジタル』2019年4月16日配信記事 より

ごもっともな意見です。ただし、前田がブルペンであまり投げなくても結果が出せるのは、前田のなかで揺るぎのない理想のフォームが完成しているからであり、それがまだ固まっていない若手投手は、ある程度の投げ込みも必要でしょう。それは前田も否定していません。

要は「調整法は、その投手の体力・体格・素質・状況によって変わって来るもので、一律に“量”を求めるのは違う」ということです。また、末長くプレーしたいのなら、「投げない勇気」も必要、と前田は言います。

「広島時代、僕は基本的には中5日で先発ローテーションを回りました。日本の他球団では通常、中6日。年間200イニング以上を投げ、1年間合計の球数が、プロ野球の投手の中で最も多かったシーズンもあります。そのデータを目にしたとき、危機感が芽生えました。将来の野球人生を考えたら故障のリスクを減らすべきだ、と」

~『サンケイスポーツ』不定期連載コラム『マエケンmind』2019年5月14日配信記事 より

とはいえ、試合展開によっては球数が100球を超えることもあり、自分の意思で減らすことはできない。ではどうするか……となったとき、前田は決断しました。

「ブルペンでの球数を減らすしか手段はない。そこで、登板間のブルペンでの球数を30球、減らす決断をしました。45球から15球へ。ルーティンの変更は、すごく勇気が必要でした。先発当日のブルペンでも45球から30球に。年間で30試合に先発すれば、合計1300球以上も肩の消耗を防ぐことにつながります。数年単位で換算すれば、何千球と節約できる」

~『サンケイスポーツ』不定期連載コラム『マエケンmind』2019年5月14日配信記事 より

現在前田は、中4日~5日の登板間に、ブルペンで投げる球数はわずか15球(!)。しかも力の入れ具合は6~7割の力で、全力投球はしないそうです。この調整方法は、広島時代の2014年からメジャー移籍後も一切変えていないとか。その効果もあってか、前田は大きな故障をせずに投げ続けています。

制限された少ない球数のなかで、1球ごとにボールの握りを変えてみたり、いろいろ工夫することが、新しい発見や成長にもつながる、と前田は言います。練習で投げる量を減らす代わりに、質の追求を怠らず、肩ヒジ以外の部分はしっかり鍛えている前田だからこそ、この調整法でOKなのであり、大事なことは「自分に合った調整法を、自分で考えて見つけ出す」、これに尽きます。

前田と真逆のスタイルになりますが、阿部慎之助・巨人2軍監督が春季キャンプで課したノルマ「野手は1日1000スイング、投手は20日で合計1000球」という方針も、どういう結果になるのか興味深いところです。これは捕手の視点からの発案で、「投げて覚えなきゃいけないこともある」と言う阿部2軍監督。若手たちの体力のなさも感じてのことでしょうし、そこで何かをつかんで欲しい、という“親心”はわかります。

ただ、いまの若い選手たちがどれだけ「強制的にやらされる練習」について来るのかな、とも思います。そこは阿部2軍監督の腕の見せどころ、練習法については一家言ある桑田真澄新コーチと、若手投手育成についてどうタッグを組んで行くのかにも注目です。


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