『ミッドナイトスワン』草なぎ剛 アカデミー最優秀主演男優賞! その俳優としての魅力

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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第983回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

※写真は、第44回日本アカデミー賞授賞式より (C)日本アカデミー賞協会

画像を見る(全7枚) ※写真は、第44回日本アカデミー賞授賞式より (C)日本アカデミー賞協会

先日、3月19日に東京・グランドプリンスホテル新高輪国際館パミールで授賞式が行われた「第44回日本アカデミー賞」。

最優秀作品賞に選ばれたのは、内田英治監督の『ミッドナイトスワン』。そして本作で主演を務めた草なぎ剛が、最優秀主演男優賞に初めて輝きました。

2020年9月25日に公開されて以来、現在まで6ヵ月にわたり上映され、ロングランヒットを続けている本作。“追いスワン”といった現象が続き、何十回と映画館に足を運ぶ人があとを絶たないほど、この作品が愛される所以はどこにあるのでしょうか。

そこで今回は、最優秀作品賞受賞作『ミッドナイトスワン』の見どころとともに、最優秀主演男優賞を受賞した草なぎ剛の俳優としての魅力を掘り下げて行きます。

『ミッドナイトスワン』

『ミッドナイトスワン』

『ミッドナイトスワン』のあらすじ

故郷の広島を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙。今夜もメイクして華やかな衣装に身を包み、仲間とともに賑やかなステージに立っていた。

ある日、凪沙は養育費目当てで、実の親から育児放棄に遭っていた少女・一果を預かることになる。

常に社会の片隅に追いやられて来た凪沙と、孤独のなかで生きて来た一果。理解し合えるはずのない2人だったが、かつてなかった感情が芽生え始める。そして次第に、2人はお互いにとって唯一無二の存在となって行き……。

『ミッドナイトスワン』

『ミッドナイトスワン』

『ミッドナイトスワン』主演・草なぎ剛が体現した“無償の愛”

擬似母子による切なくも美しい“愛の形”を描いたラブストーリーで主人公・凪沙を演じたのが、最優秀主演男優賞を獲得した草なぎ剛。

トランスジェンダーとして身体と心の葛藤を抱えながら生き、一果との出会いで母性が芽生え、バレリーナになるという彼女の夢を応援する。とても難しい役どころに気負うことなく向き合い、誰もが抱えているであろう“変えられない運命”や“逃れられない宿命“の悲しみを見事に体現しています。

凪沙に扮した草なぎ剛は、話し方や歩き方にとどまらず、髪の毛をさわる仕草や慈愛に満ちた表情など、どこをどう切り取っても女性そのもの。その自然すぎる立ち居振る舞いには、ただただ驚かされるばかりです。

もともと、色気がある俳優として定評がある彼ですが、女性に扮すると持ち前の艶やかさが一層引き立ち、刹那も目が離せません。

“演じる”というよりも“役と同化している”と言った方がしっくり来る、その演技を超えた名演技は、俳優・草なぎ剛の集大成といっても過言ではないでしょう。

※写真は『まく子』より

※写真は『まく子』より

『まく子』『台風家族』~草なぎ剛が体現して来た“家族のカタチ”

草なぎ剛の近年の出演作を振り返ってみると、“家族”というのがテーマのひとつとなっているように見受けられます。

小さな温泉街を舞台に少年の成長と初恋を描いた『まく子』では、主人公の少年サトシの父親・光一を熱演。

家族を大切に思いながらも、浮気を繰り返してしまう。ダメ男ながらも息子に向ける眼差しは温かく、ちょっした言動からは深い愛情が伝わって来る。そんな父親像を、どこかつかみどころがない危うさと色気をまとった妙演で具現化し、自身の新境地を開拓しました。

また、両親の財産分与を行うために久しぶりに集まった兄弟が騒動を繰り広げるブラックコメディ『台風家族』で演じたのは、鈴木家の長男・小鉄。

長男らしく振る舞ってその場を仕切ろうとはしているけれど、その実は遺産を誰よりも多く受け取ろうと企んでいる。何とも卑劣な男をどこまでも人間臭く演じ、観客を魅了。

本作で描かれている世界一“クズ”な一家だけれど、何故か憎めない普遍的な家族像からは、怒りや愛情、嫉妬、後悔といった、きっと誰もが共感しうる感情が紡ぎ出されています。

たとえ演じるキャラクターが悪人やダメ人間であっても、それだけではない人間としての魅力を見つけ出し、“どこか愛おしいキャラクター”にまで昇華させてしまう。しかもそれを軽やかにサラリとやってのける(あくまでも、そのように見える)のは、草なぎ剛の俳優としての魅力のひとつと言えるでしょう。

※写真は、第44回日本アカデミー賞授賞式より(左から内田英治監督、草なぎ剛、服部樹咲、森谷雄プロデューサー)(C)日本アカデミー賞協会

※写真は、第44回日本アカデミー賞授賞式より(左から内田英治監督、草なぎ剛、服部樹咲、森谷雄プロデューサー)(C)日本アカデミー賞協会

『ミッドナイトスワン』~国境や性別を超えた“無償の愛”の物語

さて、今年度アカデミー賞では、一果役の服部樹咲が新人俳優賞を受賞。バレエを通じて一果の心の変化を情感豊かに表現し、これが初めてとは思えない演技を披露しています。

さらに本作は、第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得。最優秀主演男優賞受賞時の「マジっすか!?」というコメントに続き、「いいんすかっ!?」と驚きの表情を浮かべた草なぎ剛。

「あきらめずに⼀歩ずつ進んで行けば、奇跡は起こるんだ……」としみじみと語る姿に、これまでの彼の道程を思い返し、受賞の喜びをともにした人も多かったのではないでしょうか。

『ミッドナイトスワン』は、国境や性別を超えた“無償の愛”をテーマにした物語。凪沙(=草なぎ剛)がスクリーンを通じて投げかけた“無償の愛”は、このコロナ禍に映画館に足を運んで下さった観客の心にしっかりと届き、その思いがひとつになって最優秀作品賞の栄誉へと導かれたようにも思われます。

上映はまだ続きます。2020年度いちばんの感動作を、お見逃しなく。

 

『ミッドナイトスワン』

『ミッドナイトスワン』

■『ミッドナイトスワン』

大ヒット公開中
Blu-ray&DVD 2021年3月17日から予約開始

出演:草なぎ剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖

監督・脚本:内田英治
音楽:渋谷慶一郎

エグゼクティブプロデューサー:飯島三智
プロデューサー:森谷雄、森本友里恵
ラインプロデューサー:尾関玄
撮影:伊藤麻樹
照明:井上真吾
録音:伊藤裕規
美術:我妻弘之
装飾:湯澤幸夫
編集:岩切裕一
衣装:川本誠子
コスチュームデザイン:細見佳代
ヘアメイク:板垣美和、永嶋麻子
バレエ監修:千歳美香子
助監督:松倉大夏
制作担当:三浦義信、中村元
製作:CULEN
製作プロダクション:アットムービー
配給:キノフィルムズ
(C)2020Midnight Swan Film Partners
公式サイト https://midnightswan-movie.com/

■『まく子』(2019年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
出演:山﨑光、新音、須藤理彩、草なぎ剛、つみきみほ、村上純(しずる)、橋本淳、内川蓮生、根岸季衣、小倉久寛
監督・脚本:鶴岡慧子
原作:西加奈子「まく子」(福音館書店 刊)
主題歌:高橋優「若気の至り」(ワーナーミュージックジャパン/unBORDE)
配給:日活
(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)

■『台風家族』(2019年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
出演:草なぎ剛、MEGUMI、中村倫也、尾野真千子、若葉竜也、甲田まひる、長内映里香、相島一之、斉藤暁、榊原るみ、藤竜也

監督・脚本:市井昌秀
主題歌:フラワーカンパニーズ「西陽」(チキン・スキン・レコード)
音楽:スパム春日井

製作総指揮:木下直哉
プロデューサー:武部由実子、中林千賀子
ラインプロデューサー:傅野貴之
撮影:灰原隆裕
照明:谷本幸治
録音:田中博信
美術装飾:大藤邦康
編集:森下博昭
衣装:渡部祥子
ヘアメイク:永嶋麻子
スクリプター:川野恵美
助監督:吉田和弘
制作担当:高橋輝光
小説:「台風家族」市井点線(キノブックス刊)
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
制作プロダクション:キノフィルムズ、ブースタープロジェクト
(C)2019「台風家族」フィルムパートナーズ

公式サイト http://taifu-kazoku.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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