黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」（ニッポン放送）に作詞家の松井五郎が出演。変化する時代のなかで、これからの音楽の可能性について語った。

松井五郎

黒木）今週のゲストは作詞家の松井五郎さんです。音楽業界はデジタル化が進んで、ネット配信からヒット曲が生まれるというのが当たり前の時代になりましたが、このような音楽業界の変化をどのようにご覧になっていますか？

松井）デジタルになり、さらにインターネットという環境のなかで起こっていることではあると思うのですが、根本的には人間がつくっているものです。詞を書き、曲をつくり、声を出して歌う。そこは未だにAIにとって変わられていない部分だと思います。今後もそこの部分の変化は起こって来るでしょうけれど、「基本的に人間ありき」という部分だけは変わらないのだとすれば、やることは、本当は変わっていない。そこの本質は、人間の体温や生きている鼓動などに根付いているのだと思います。そこを忘れてはいけない。ただ単に伝える方法が変わっているというだけのことです。もちろん数字というのは目安にはなりますが、何百万、何千万、何億配信というような数字を上げても、本当に人が1年後にその曲を覚えているか、どのくらい大切にしてくれているか、ということも考えると、短いスパンのなかで、数字に振り回されないようにしたいと思います。

黒木）「売れる曲と残る曲は違う」とおっしゃっていますけれども。

松井）そこはあると思います。できれば売れて残るのがいちばんいいでしょうけれども。

黒木）でもおつくりになっているのは、売れて残る曲ばかりではないですか。私もときどき、歌番組の司会をやらせてもらいますけれども、歌の力というのは本当に凄いものがあるなと思います。お芝居と違って歌の尺は短いではないですか。歌の力というものをどのように考えていらっしゃいますか？

松井）私は、1曲の歌が突然世界を変えるとは思っていません。実は、「音楽を過信しない方がいいな」と思っています。ただ、歌にあるのは未来を変える可能性だと思っていて、3分の曲があって、ワンコーラスを聴くとします。そのときに「面白くないな」と思って切ってしまえば、その先の1分半というのは、その人の人生においてまた別のことが起こるわけではないですか。ところが、1コーラス聴いて、「ああ、いい歌だな」と思って、2コーラスも聴こうと思って3分聴いてくださると、その1分半、いわゆる全部で3分のその人の人生が変わると思うのです。朝出かけるときに、忘れものをして取りに帰ってという時間や、電車が1本違ったりしたら、もしかするとそこで出会う人がいたかも知れなかったり、いなかったり。人生は、そういうわずかな変化の繰り返しだと思います。そう考えると、歌がライフラインのように、水や空気のように突然命に関わることはないけれど、もしかすると、きょう聴いたその歌が、1年後、10年後、20年後の世界を変えている可能性があるということは信じています。

黒木）今後、松井さんがチャレンジしてみたいことは何ですか？

松井）書くことだけは、できる限り長く続けて行きたいなと思います。何年もやっていると当然、新しい世代の人たちとも出会いますし、まだ先輩方もたくさんいます。そういう世代を超えていろいろなことをコラボレーションするのは面白いことなので、そういう機会がつくれたらいいなと思います。

松井五郎

松井五郎（まつい・ごろう）／作詞家

■1957年、岐阜県生まれ、横浜育ち。
■1981年、CHAGE＆ASKAのアルバム『熱風』で作詞家としてデビュー。
■安全地帯、工藤静香、BOOWY、氷室京介、郷ひろみ、MAX、V6など幅広いアーティストに作品を提供。現在までの総作品数は3200曲以上。
■2009年、坂本冬美の「また君に恋してる」で日本レコード大賞優秀作品賞を受賞。「勇気100%」はジャニーズで歌い継がれ、2020年にはジャニーズが歌った手洗いソング「Wash Your Hands」の作詞も話題となった。
■作詞活動の他、多数のアーティストのプロデュースを手がけるなど、さまざまなプロジェクトを展開。

■2021年からは、言葉を中心に表現の解放区をつくって行くオンラインプログラム「東京Ø区（とうきょうぜろく）」を開催。
※松井五郎さんの詩を主体に、ゲストを毎回入れ替えて展開する朗読コラボレーション。さまざまなアーティストが登場し、唯一無二の物語をオンラインで全国に配信する。
※2021年2月24日の第1回目には、声優の野島健児氏とイラストレーターのキン・シオタニ氏が出演。朗読とライブペインティングが配信された。
■2回目以降も開催予定。