ヤクルト・奥川を支える高津監督の“父親目線”

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、日本シリーズ進出を決めた東京ヤクルトスワローズの若き右腕・奥川恭伸投手と高津臣吾監督にまつわるエピソードを紹介する。

ヤクルト・奥川を支える高津監督の“父親目線”

【プロ野球CS2ヤクルト対巨人】1回 ヤクルト・奥川恭伸 20歳6カ月、98球、無四球でCS史上最年少でプロ初完封勝利=2021年11月10日 神宮球場 写真提供:産経新聞社

6年ぶりに日本シリーズ進出を果たした東京ヤクルトスワローズ。その立役者の1人が弱冠20歳の奥川恭伸です。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ初戦での快投劇は、それほど見事な内容でした。

『チームを勢いづける投球ができればと思っていたので、これで勢いがついて日本シリーズに出場できれば』

~『サンケイスポーツ』2021年11月10日配信記事 より(完封直後の奥川コメント)

「CSファイナル初戦」というプレッシャーのかかる登板にも関わらず、安定感抜群のピッチングを披露。巨人打線を相手にわずか98球で“プロ初完封”を決めた奥川は、チームを勢いづけたと同時に相手の出鼻をくじき、日本シリーズ進出に大きく貢献しました。

この活躍が評価され、奥川はCSファイナルステージのMVPに選ばれます。2001年4月16日生まれの奥川は20歳。日本ハム時代にダルビッシュ有(現パドレス)が記録した21歳を抜き、史上最年少記録となりました。

『すべてを考えた中で、初戦に先発させることを決めた。この一年かけてすごく大きく成長して、これからもっともっと大きなところ、高いところを僕自身も目指したい。今すぐ答えが出なくても今後に意味のあったゲームになってくれればそれでいい』

~『東京中日スポーツ』2021年11月9日配信記事 より(高津監督のコメント)

大事なCSファイナルの開幕投手に、若き右腕を指名した高津臣吾監督。「今すぐ答えが出なくてもいい」というコメントから、将来を見据えた決断であり、結果はどうあれ大舞台を経験させることで、さらなる成長を促す狙いが垣間見えます。

思えば、この2人が紡いで来たストーリーは、2019年のドラフト会議から始まっていました。当時18歳の奥川を1巡目で指名したのはヤクルト、巨人、阪神の3球団。偶然にも今年(2021年)のセ・リーグCSに出場した3球団で、もしもヤクルト以外の2球団が交渉権を獲得していたら、今年のCSの結果も変わっていたかも知れません。

抽選に臨んだのは当時、指揮官に就任したばかりの高津監督。交渉権を獲得すると同時に、ヤクルトの1位抽選の連敗を9でストップさせ、幸先のいい“監督初仕事”となりました。

『奥川には「体は大丈夫か、飯食ってるか、寝てるか」と声をかけたという指揮官。そんな「親心」に「お父さんだね。(奥川の)お父さんに怒られちゃうね」と笑った』

~『東京中日スポーツ』2020年3月19日配信記事 より

2020年3月、奥川のプロ入り直後に、ブルペンを初めて視察したときの高津監督は、完全に“父親目線”で奥川に声を掛けていました。心配するあまり、つい出てしまった自分の言葉に「お父さんだね」と笑った指揮官は、1968年11月25日生まれ。30歳以上も年の差のある2人は、まさに親子のような関係性を紡いでいます。

高津監督にとっては就任1年目。奥川にとってもプロ1年目の2020年、チームは41勝69敗10分でセ・リーグ最下位。奥川自身も、シーズン最終戦にプロ初先発を果たしましたが、3回途中でノックアウトとほろ苦いものになりました。そんな試合後のセレモニーで「監督として責任を感じております」と挨拶した高津監督は急遽、奥川投手をマイクの前に立たせて、球場に集まったファンに挨拶させたのです。

『ただ、来年に向かって非常に若手で有望な選手がきょう先発しました。奥川!』

~『スポニチアネックス』2020年11月10日配信記事 より

思えばこのサプライズ指名こそ、2021年に飛躍するヤクルトと奥川の第一歩でした。高津監督の期待に応えるように、この初登板からちょうど1年後の2021年11月10日、CSファイナルでのプロ初完封を成し遂げた奥川。劇的な大仕事をやってのけた“孝行息子”について語る指揮官の言葉も、ますます饒舌になりました。

『目を見て話しているうちはよく分からないのですが、相当のメンタルの強さとか、野球脳というか、野球の頭というか、そういうところもしっかりできているのかなと思います』

~『スポニチアネックス』2021年11月10日配信記事 より

ところで、日本シリーズに話を戻すと、大阪を本拠地とするパ・リーグ球団がシリーズに出場するのは、2001年の近鉄バファローズ以来20年ぶりのこと。このとき近鉄が対戦したのは、くしくも今年と同じヤクルトであり、胴上げ投手になったのは、現役時代の高津監督でした。さらに言うと、2001年は奥川が生まれた年でもあります。

立派に成長した20歳の右腕は、日本シリーズでも開幕投手を務めるのか? その場合、オリックスのエース・山本由伸との対決が予想され、名勝負が期待されます。また、第5戦が行われる25日、高津監督は53歳の誕生日を迎えます。第6戦以降に奥川が2度目の登板をするのであれば、ずっと見守ってくれた指揮官に「日本一」という最高のバースデープレゼントを贈りたいところ。日本シリーズ開幕がいまから楽しみです。

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