日本ハム・新庄新監督と元中日・落合監督との「共通点」

By -  公開:  更新:

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は11月4日に就任会見を開いた、北海道日本ハムファイターズ・新庄剛志新監督にまつわるエピソードを取り上げる。

日本ハム・新庄新監督と元中日・落合監督との「共通点」

【日本ハム新監督就任会見】質問に大笑いする日本ハム・新庄剛志新監督=2021年11月4日 札幌市 プレミアホテル-TSUBAKI-札幌 写真提供:産経新聞社

-----

『正直自分が一番ビックリしてます。僕で良いのかなという思いの反面、僕しかいないなと。日本ハムも変えていきますし、僕がプロ野球を変えていきたいなという気持ちで帰ってきました』

~『BASEBALL KING』2021年11月4日配信記事 より(新庄監督・就任会見でのコメント)

-----

「試合中にインスタライブをやりたい」「天井から選手と一緒に登場したい」「トライアウトにもう1度出て、選手として自分を獲得したい」「監督ではなくBIG BOSSと呼んで欲しい」……こんなに面白く、聞いているだけでワクワクする監督就任会見がかつてあったでしょうか?

11月4日、これからのチームづくりについて所信表明を行った日本ハム・新庄新監督。この日のためにあつらえた深紅のスリーピーススーツと、巨大な襟のシャツを身にまとい、思う存分、“新庄節”を炸裂させました。どこまで本気なんだろうと思いつつも「本当にやってくれるかも?」と期待せずにはいられない。新庄剛志という人には、そんな不思議な魅力があります。

思えば2003年のシーズンオフ、「これからはメジャーでもない。セ・リーグでもない。パ・リーグです!」の名文句とともに、北海道に移転したばかりの日本ハム入り。入団時に宣言した「札幌ドームを満員にする」「チームを日本一にする」を両方実現させ、2006年の日本シリーズを最後に引退……カッコ良すぎでしょう。

そんなマンガのようなストーリーを現実にした人物が、今度は監督として古巣を率いるというのです。会見後、Web上の反応を見ていたら、普段は野球を観ないのに「来年(2022年)は日本ハムの試合を観に行きたい!」と書き込んでいる人たちが結構いて驚きました。無関心な層にまで、あらためてプロ野球に目を向けさせた新庄監督。今回の会見だけで、すでにひと仕事しているのです。

今季は3年連続5位に終わった日本ハム。10シーズン監督を務めた栗山英樹前監督が退任を表明し、後任は侍ジャパンを東京五輪金メダルに導いたOB・稲葉篤紀氏、というのが大方の予想でした。ところが、10月になって新庄氏の名前が急浮上。稲葉氏はGMに就任し、元チームメイトを側面から支援することになりました。

なぜ“既定路線”とまで言われていた稲葉氏ではなく、新庄氏に白羽の矢が立ったのか……諸事情あったようですが、いちばんの理由は、北広島市に建設中の新球場移転を2年後に控え「新しいホームグラウンドにふさわしい、よりインパクトのある指揮官」を球団が求めたということでしょう。

ネームバリューだけでなく、これまでの常識をひっくり返してくれそうな人物……となれば、新庄氏しかいません。会見で「僕でいいのかなという思いの反面、僕しかいない」と語ったように、これは天命、という自負が新庄監督本人にもあるのです。

会見に同席した川村浩二球団社長兼オーナー代行は、新庄氏に監督就任をオファーするにあたって、2つの「お願い」をしたと明かしました。

-----

『お願いは「チームを勝たせていただきたい」ということと、「ファンサービスを実践してファンに喜びを届けていただきたい」ということの2つ。「その順番は間違えないでいただきたい」とも伝えた』

~『中日スポーツ』2021年11月4日配信記事 より

-----

球団が新庄監督に求めているのは、あくまで「チーム強化」。派手なパフォーマンスで話題を呼んでも、成績が伴わなければすぐにソッポを向かれてしまいます。そんなことは新庄監督も先刻承知。現役時代、パフォーマンスを行う一方、本業のプレーでもファンに喜んでもらおうと陰で他の選手より練習していたことは、元チームメイトやスタッフが証言しているとおりです。

会見で、日本のプロ野球はしばらく見ていなかった、と正直に語った新庄監督。引退後の指導者経験もなく、その点を懸念する声も当然あります。しかしコーチ経験がなくても、落合博満・元中日監督のように確固とした野球理論とブレることのない信念を持ち、成功した例があるのもまた事実。新庄監督は選手としてメジャーの野球も経験していますし、阪神時代には野村克也監督の薫陶も受け、引き出しはたくさん持っています。

会見で新庄監督は、この1年間、12球団の2軍選手のプレーを観て勉強していた、と明かしました。チェックしていたのが1軍の主力級ではなく「2軍選手」というのが、また新庄監督らしいところ。原石を探す目に自信があるからでしょう。伸びしろのある選手が多い日本ハムだけに、どう彼らを育てるのか楽しみです。

また、「プロ野球を変えて行きたい」というコメントについて、具体的にどう変えて行くのかと聞かれた新庄監督は、こう答えています。

-----

『まずは作戦面。こういう野球で、ヒットを打たなくても点は取れるんだと。作戦面でのおもしろさ。こんなやり方があるんだ!というのを僕たちから先に発信して、他の球団が真似されるような感じで考えている。そのためには選手たちが僕の考え方をしっかり把握して、ついてこなければできないので、早く選手と会って、伝えていきたいなと思っている』

~『BASEBALL KING』2021年11月4日配信記事 より

-----

新庄監督が「ノーヒットで点を取る」という例を挙げたとき、筆者がすぐに連想したのが、落合監督の野球です。例えば、四球で塁に出たランナーが盗塁。内野ゴロの間に三塁へ進み、犠飛で生還……といったパターンで、無安打でも点を取ることは可能。チーム打率は高くなくても、そういう得点パターンを積み重ねて勝って行ったのが、落合監督時代の中日でした。

ただ、そういう野球は玄人受けしますが、いかんせん地味です。新庄監督の場合は、想像ですが「四球→二盗→三盗→スクイズ」、いや、もしかすると最後は「ホームスチール」を考えているのかも知れません。ともあれ「ノーヒットでどうやって点を取るんだろう?」と考えるだけでもワクワクしますし、「勝つ野球」と「観て楽しい野球」を両立させる1つのヒントがそこにある気がします。

もう1つ、「落合監督と似てるなあ」と思ったのは、この発言です。

-----

『僕ね、選手の顔と名前を全く知らない。ただ1年間勉強してプレーはしっかりインプットしてる。だから、キャンプで顔と名前とプレーの答え合わせをしていって、いいチームを作っていきます。だから皆ラインは全く一緒。そのためにはキャンプに入るまで、このスタートライン立った時にはもうほぼほぼレギュラーは決まってると思うんですよ。

だからオフシーズン、自分で色々と考えて、身体を作って、頭の中をアップデートして、このラインに立って、みんなで楽しく厳しく。まぁ厳しくはなると思います。僕はやってきたので。そういう風な気持ちでオフシーズンを過ごしておいてください。お願いします』

~『BASEBALL KING』2021年11月4日配信記事 より

-----

落合監督が就任直後、まず口にしたのが、「2月1日に紅白戦をやります」でした。全員に平等にチャンスを与えるから、春季キャンプ初日に試合ができる体を自分でつくっておけ、というのがその真意。ほぼ全員が万全の態勢でキャンプインしたとき、落合監督は「これなら勝てる」と確信したそうです。事実、1年目にリーグ優勝を遂げたのはご存知のとおり。

上に引用した新庄監督のコメントも、意味するところはまったく同じです。全員横一線、ということは、主力クラスもウカウカできず、若手選手たちにとってはレギュラーを奪う絶好のチャンス。なにげに、もうムチが入っているのです。「やるなあ、新庄監督」と思いました。

最後に、「監督として目指す最終形」を聞かれた新庄監督のコメントを引用しておきます。目標は「日本一」ではなく、さらにその先を見据えています。

-----

『世界一の球団、世界一のチームにしたい。それこそ夢ではないけど、でっかい目標として置いておきたい。そのためには全国のファンの力がものすごく大事。北海道と日本ハムが一緒に生活していければ最高だと僕は思っている』

~『BASEBALL KING』2021年11月4日配信記事 より

-----

新型コロナ禍で日本全体が沈滞ムードにあるなか、ファンも含めた全員の力で、最高に面白い野球を展開し、この鬱屈とした世の中自体を変えて行こう……北の地で新庄監督が発したこのコメントは、そんな雄大な宣言に聞こえてなりません。常識は壊すためにあるのです。

Page top