産経新聞ソウル支局長の桜井紀雄氏が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。10月29日、韓国・ソウルの梨泰院で大勢の若者が亡くなった転倒事故について解説した。

epa09937042 President Yoon Suk-yeol is sworn in as South Korea's new President during his inauguration ceremony in front of the National Assembly in Seoul, South Korea, 10 May 2022. EPA/YONHAP SOUTH KOREA OUT　 EPA＝時事　写真提供：時事通信社

梨泰院の転倒事故、日本人2人を含む154人が死亡

10月29日夜、韓国・ソウルの繁華街である梨泰院の路地でハロウィーンを前に集まった大勢の若者らが折り重なるように転倒した事故で、ソウルの消防当局は30日、日本人女性2人を含む154人の死亡が確認されたと発表した。また、130人以上が負傷した。

飯田）事故現場となった梨泰院の路地ですが、どのような場所なのでしょうか？

桜井）古くは米軍基地が近いということで、特にアメリカから来た人などが立ち寄るナイトクラブやバーができて発展し、韓国の若者も遊ぶような場所になりました。日本で言うと六本木のような雰囲気がある街でしょうか。

道幅が狭く、坂道で歩きにくい現場

飯田）道路の幅も狭かったということですが、画像を観ると身動きがとれないほどのすし詰め状態のようでした。

桜井）私も訪れたことがありますが、道幅が狭い上に坂道が多いのです。坂にできた街のようなところで、非常に滑りやすく歩きにくい道だと感じたことがあります。

飯田）多くの方の死因は窒息死だったと、日本のメディアでも報じられていますけれど、現地ではどのように伝えられていますか？

歩いているだけで今回のような事故が起きることは予想しなかった

桜井）ハロウィーン前の週末ということで、周辺には10万人以上の人が集まっていたのではないかと報じているメディアもあります。

飯田）それだけの人が集まることは、地元当局としてもなかなか想定しづらかったのでしょうか？

桜井）ハロウィーンで人がたくさん集まることは予想されていて、過去にも数十万人が集まったこともあります。2016年には朴槿恵さんを弾劾に追い込んだデモがあり、この週末も大きなデモが市の中心部で行われていました。デモへの警備は、衝突が起きないように動線をどうするかなどの計画を立てるのですけれども、ただ歩いているだけで、このような凄惨な事故が起きるとは予測していなかったようです。

坂道の上と下の両方から人が押し寄せ、小柄な女性が圧迫されて呼吸できない状態で亡くなった

飯田）雑踏警備のノウハウは当局にもあったけれど、想定外の部分があったわけですか？

桜井）そうですね。かなりの警察官を投入して警備に当たっていたようですが、若者が羽目を外して麻薬を使ってしまったり、喧嘩が起きたりということへの警戒態勢を取っていたようです。

飯田）日本のように、雑踏を整理する類の警察官ではなかったということですか？

桜井）そうですね。事故が起きたところは特に狭い場所で、巻き込まれた方がSNSに動画をあげていますが、「すし詰め」という言葉では言い表せないくらいの人が坂道の上下両方から押されている状態です。

飯田）なるほど。

桜井）また、女性に被害が集中しています。小柄な女性が両方から圧迫されて、呼吸できない状態で亡くなったと分析されている方が多いです。

飯田）背の高い男性であれば、肺の部分が周りの人よりも上にあるので呼吸できるけれど、背の低い女性だと胸が圧迫されてしまう。

「セウォル号沈没事故」が朴槿恵政権退陣の要因の1つに　～対応を誤れない尹政権

国際政治学者・神保謙）思い出すのは2014年の「セウォル号沈没事故」です。多くの若者が亡くなり、事故自体が政権批判にもつながる重大な影響を韓国政治と社会に与えたと思います。今回の事件で、例えば韓国の責任体制や政治問題、ソウル市などにそういった声が上がる可能性はあるのでしょうか？

桜井）セウォル号事故をきっかけに国民は生命と安全に関わる問題、特に若者の命が奪われたことに神経をとがらせる部分があります。尹さんは29日の夜中に事故の一報を受けてから、矢継ぎ早に指示を飛ばして会議を開き、ご遺族や怪我をされた方への支援体制を次々に打ち出しています。

飯田）なるほど。

桜井）朴槿恵さんの時代は結局、事故が退陣につながる要因の1つになりましたし、いままさに尹錫悦さんは支持率が30％前後と低迷した状態で、野党との対立も激しいです。そのなかで今回の対応を誤れば、政権の今後につながるという強い危機感が表れているのではないでしょうか。

飯田）29日のうちから矢継ぎ早に指示を飛ばし、30日には現場も視察していますよね。

桜井）私はそのとき、ちょうど現場で取材していたので様子を見ましたが、非常にピリピリと緊張感を持った様子でした。

飯田）国民に対してメッセージなどは出されたのでしょうか？

桜井）直前に国民へ向けたメッセージを読み上げています。最善を尽くすということと、大統領自身が「ソウルの中心地でこんなに痛ましい事故が起こったことが信じられない」という思いを述べていました。対応に最善を尽くすと訴えられたあと、すぐに現場へ視察に向かっています。

飯田）大統領ご本人としても政権としても、相当重く大きく受け止めて動いているということですね。

桜井）そうですね。彼自身がセウォル号の事故などを受けて、「国民の生命と安全を守ることを重視する」と大統領候補であった当時から訴えていたので、やはり対応を誤れないのではないでしょうか。

飯田）日本人2人が亡くなり、外国人もかなり巻き込まれているようですね。

桜井）日ごろこういう場に行かないような地方の人々や留学生など、たくさんの若者が特別な日に集まって痛ましい事故が起こってしまったというのは、言葉に表せません。