日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が4月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月2日に行われた林外務大臣と中国・秦剛外相との会談について解説した。

中国の秦剛国務委員兼外相（右）と握手する林芳正外相＝2023年4月2日、中国・北京の釣魚台迎賓館［代表撮影］　写真提供：時事通信

林芳正外務大臣が中国を訪問、秦剛外相と会談

中国を訪問した林芳正外務大臣は4月2日、秦剛外相と会談した。林大臣は尖閣諸島を含む東シナ海情勢について深刻な懸念を表明する一方、韓国を含めた3ヵ国の協議の枠組みを再開することで一致。また日本人男性が北京で拘束されたことに抗議し早期解放を強く求めた。

飯田）外務大臣の中国訪問は、約3年3ヵ月ぶりだということです。昼食も交えながら4時間ほど会談しました。どうご覧になりますか？

秋田）大変よかったと思います。今回は中国の首相にも会いました。

飯田）李強氏。

「冷たい平和」の時代に入った日中関係　～共存するためにホットラインも合意し、お互い危機管理の必要性を確認

秋田）でも、これは仲直りや改善ということではないと思います。一言で言えば、日中関係は「冷たい平和」の時代に入ったと言えます。

飯田）冷たい平和。

秋田）冷戦は緊張が高すぎるので双方、望んでいないと思いますが、冷たい平和の時代に入った。会ったから改善するのではなく、「冷たいけれど、共存していかなければいけない」というところで合意できたのです。ホットラインなども合意しましたよね。

飯田）日中の。

秋田）日中の防衛当局間のホットラインも設置し、これからも対話を続けていく。「冷たい平和が紛争にならないようにしたい」という、お互いのコンセンサスが生まれつつあるという点では「よかった」と思うのですけれど、逆に言えば、それだけ紛争の火種を抱えていることを双方が認識せざるを得ないということでもあります。

飯田）「お前は俺のことを嫌いだよな。俺もお前のことは嫌いなんだよ」とお互いに理解しているから、「肩がぶつかったりしないようにしよう」という感じですね。

秋田）そうですね。足を踏むだけでも喧嘩になりかねないので、きちんと危機管理を行わなければいけません。

習近平首脳部は日本からの投資も呼び込み、経済を再開させたい　～一方、「反スパイ法」強化の下で厳しく動く現場

飯田）アステラス製薬社員の日本人男性が拘束されたという報道がありますが、進展はあるのでしょうか？

秋田）これについては正直、私もわかりません。ただ、なぜこういうことが起きているのかを考える必要があると思います。

飯田）なぜ起きているのか。

秋田）習近平首脳部が駆け引きとして行っているのか。もしくは習近平首脳部は今回、日本とこういう形で「冷たい平和の対話」を進めていこうという方向であり、しかも投資を呼び込みたいと思っているけれど、手足が勝手に動いているのか、ということです。

飯田）公安などが。

秋田）私は後者だと思います。意味がないですよね。もう1つの中国側の意図としては、日中の緊張を和らげて、ゼロコロナで痛んだ経済を立て直すために日本からの投資や経済交流を再開したいという思いが強いのです。地方からも北京に陳情がきています。でも、今回の拘束は真逆ですよね。

飯田）日本人男性の拘束は。

秋田）習近平政権は中央集権を強め、「愛国強国路線」のトランペットを鳴らして号令をかけています。2014年には反スパイ法を制定しました。国家の安全を害する行為をスパイ行為と言っています。

飯田）きょう（3日）の紙面のなかでは、それをまた強化するというような報道も出ています。

秋田）日本の国会に相当する先日の全国人民代表大会で、「強化する」と決まっています。そうすると、下は一生懸命やらなければと思っているのです。

飯田）現場は。

秋田）法律を適用しないと上から怒られるので、厳しめにやっていると思います。その結果が今回、こういう形で出てきている。

飯田）日本人男性の拘束と。

秋田）中国全体から見ると間が悪いというか、理解に苦しむのですが、逆に冷たい平和の文脈で言えば、やはり情報漏洩は厳しく取り締まらなくてはならない。日本人だけでなく、他の外国人が拘束されているケースもあります。

飯田）日本人だけではなく。

秋田）習近平首脳部が交渉材料として拘束しているのならば、何かやってあげれば「では許しますよ」ということになりますが、今回は下がはりきって行ったものなので、「なぜやってはいけないのですか」となってしまうかも知れない。