米中首脳会談に前のめりになる米政府の「勘違い」
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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司が11月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。11月15日に開催が報じられている米中首脳会談について解説した。
米中首脳、11月15日にもサンフランシスコで会談か ~実現すれば対面での会談は2度目
AFP通信は11月8日、アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席が米サンフランシスコで15日に会談する見通しだと報じた。実現すれば、2022年11月のインドネシア・バリ島以来となる。
飯田)前回はG20のタイミングで行われました。今回はアジア太平洋経済協力会議(APEC)のタイミングとなります。
峯村)バイデン氏が大統領になってから習近平氏と対面で会ったのが1回だけなのです。それも現在、米中関係が悪化している象徴的なものに感じます。私は10月にワシントンへ行き、バイデン政権の関係者らと意見交換しました。その話題はもっぱら米中首脳会談でした。いずれの関係者も会談には前のめりで、「いまの習近平体制について」の意見も求められました。
経済が低下し、外務大臣と国防大臣が不在の習近平政権は「政権発足以来、最も弱っている」と見る米政府の「勘違い」
峯村)「APEC期間中に実現する」とほぼ口を揃えていました。よく中国が「いま会うための雰囲気づくりをしているのだ」などと言うではないですか。その言葉をそのままアメリカの政権関係者が使っていたので、「本当に前のめりになっているな」と思いました。ある幹部の1人が「いまはチャンスだ」と言うのです。
飯田)チャンス。
峯村)習近平氏は弱っているのだと。なぜ弱っているかと言うと、いま中国経済が悪いですよね。景気が下がっている。さらに、「習近平氏にとっての右腕と左腕である外務大臣と国防大臣がいないではないか。これは習近平政権が発足して以来、最も弱い時期なのだ」という分析を披露していました。
飯田)外務大臣だった秦剛氏と、国防大臣だった李尚福氏が、両方とも失脚した。
峯村)その2人がおらず、二重のパンチで弱っているところに「習近平さん」と手を差し伸べることによって、「きっと向こうも妥協してくるだろう」という発想なのです。
飯田)アメリカとしては。
峯村)いかにもアメリカ的な発想ですが、「違います」というのが私の答えです。
習近平氏にとって外務大臣も国防大臣もいくらでも替えはいる ~弱っている認識はない
峯村)習近平氏からすると、今の経済減速は確かに痛いです。おそらくインセンティブとしては経済を何とかしたいから、「アメリカ向けの輸出を緩和し、関税を下げてくれ」というようなところはあると思います。ただ、「助さん格さん」……。
飯田)外務大臣と国防大臣。
峯村)その「助さん格さん」がいないから弱いかと言えばそれは違います。まさにアメリカ的な考え方で、彼らがよくミスをするところなのです。確かに日本やアメリカでは、外務大臣と防衛大臣はとても大事です。一見すると助さん格さんがおらず、トップが孤立しているように見える。しかし、中国においての外務大臣は、共産党の序列だと300位くらいです。権限は日米と比べると圧倒的に小さい。一方の国防大臣も、軍事委員会に入っているから偉そうに見えますが、彼らもサブというよりはむしろ外交です。軍事外交も行う、どちらかと言うと操り人形に近いような存在です。
飯田)そうなのですね。
峯村)習近平氏からすれば、腐敗や問題があったから首を切っただけです。「いくらでも替えはいる」という発想なのです。別に弱ったという意識はありません。既に米中の認識がずれているのです。
オバマ政権時代の「サニーランズサミット」の過ちを繰り返すのでは
峯村)バイデン政権は、オバマ政権のメンバーが務めています。その雰囲気を聞いていて私が感じたのは、2013年、10年前のオバマ政権時代の「サニーランズサミット」です。皆さんもうご記憶にないかも知れませんが、当時と同じ感じがしました。あのときはオバマ政権で、習近平氏が出てきたばかりでした。習近平氏は話もできるし、自分の言葉を持っている。「前任の胡錦濤氏と比べるといいではないか」というムードだったのです。
飯田)習近平氏は。
峯村)カリフォルニアのきれいな別荘地であるサニーランズで、これ以上ないぐらいの接遇でもてなした。オバマ政権の方も気持ちよくなってしまい、習近平サイドが提案した新型大国関係……「中国とアメリカで手を握って世界を管理しよう」という話に、少し前のめりになったのです。それを見た習近平政権は、南シナ海における人工島の建設や、尖閣に対するアサーティブな態度が出てきたところを考えると、「同じ過ちを繰り返すのではないか」ととても心配です。
飯田)同じ過ちを。
峯村)民主党政権の特徴は、優秀で、まさに「ベスト・アンド・ブライテスト」と呼ばれる人たちが揃っています。ただ、必ずしも喧嘩上手ではない。今回も、「危機を回避するためにはまずトップと会わなければ」という会談自体が目的化してしまっているように感じます。「中身は会って考えよう」というような。
飯田)ある種の楽観主義のようなものがある。
峯村)そういうところがあります。おそらく、双方から聞いていますので、米中首脳会談は行われます。行うのですが、「新型大国関係」の二の轍を踏まないで欲しいですね。
中国の情報を膨大に収集することはできるが、分析が甘いアメリカ
飯田)アメリカのインテリジェンスとして、中国国内の情報を取り切れていないところがあるのですか?
峯村)一時期、弱まった時期がありましたが、いまのバーンズ米中央情報局(CIA)長官が、チャイナ・ミッション・センターをつくりました。中国専従チームを立ち上げ、対中関係に関しては「かなり改善した」と、バーンズ氏自身も認めています。アメリカの情報機関は、確かに膨大な情報を収集する能力があります。世界の各地にエージェントと呼ばれる人たちがいて、情報収集をしているのですが、正直言って分析は必ずしも完璧とは言えません。
飯田)分析は甘い。
峯村)バイアスが掛かっていたり、自分たちの尺度で見ることがある。おそらく、そこには言葉の壁、文化の壁があるのだと思います。旧ソ連、ロシアに対するインテリジェンスは非常にレベルは高いといわれていますが、中国文化はなかなかアメリカ人にとっては理解するのは難しいのでしょう。
飯田)そうですよね。
峯村)私の知る限り、中国語を流暢に読み書きできて、話せるアメリカの研究者は、片手で数えるくらいしかいません。私の恩師だったハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル先生は素晴らしく、彼の書庫を見ると、ズラッと中国語・日本語の本コーナーがあるのです。
飯田)エズラ・ヴォーゲルさんと言うと、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のイメージがありますが、中国研究も……。
峯村)それは一面的な見方です。ボーゲル氏はうまく中国と日本を使い分けていたのです。亡くなったとき、日本の新聞には「日本研究の大家、逝去する」と書かれていましたが、中国の新聞には「中国専門家の大家が亡くなった」と書いてあるわけです。私がハーバードにいたとき、先生と同じ研究所にいたからわかるのですが、日本の官僚を集める日本の勉強会「ヴォーゲルスクール」を行っているのです。しかし、一方では日付をずらして、中国のヴォーゲルスクールも開いていました。
飯田)両方ある。
峯村)両方を完全に分け、「両方から情報を吸い上げる」という構造をつくっていたことに、あるとき気が付いたのです。私がいくら頼んでも中国の方の勉強会には入れてくれませんでした。本当にこの人はプロだなと思いました。特に若い人たちのなかには、中国語を話したり聞くことができる人はいます。しかし、原文を読んで、文脈のニュアンスまで読める人となると、かなり減ってしまう。そういうところから「中国の意図や現状を間違えているな」というのが私の分析です。
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