ニッポン放送と、「ヨーロッパ企画」上田誠のタッグで贈るエンタメ舞台シリーズ第5弾『リプリー、あいにくの宇宙ね』が、 2025年5月4日に東京・本多劇場にて開幕。上田によるオリジナル脚本となる本作は、映画『エイリアン』などに代表される「宇宙船」を舞台に、スペースオペラ活劇のてんこもり集大成を、ポエトリー音楽にくるんでアレンジする。
このたび、主演を務める伊藤万理華、ヨーロッパ企画の手掛ける作品に初参加となる井之脇海、そして脚本・演出を手掛ける上田誠にインタビュー。上演への意気込みなどを語ってもらった。
――伊藤さんと井之脇さんは、上田さんの舞台には初参加となります。オファーを受けてのお気持ちを聞かせてください。
伊藤:劇は初めてなのですが、以前にドラマ『時をかけるな、恋人たち』(2023年)で上田さんとご一緒させていただきました。その時に、勝手ながら“私の肌感覚に合う”と感じたんです。その他の作品も、私の好きな世界観を表現されていて、「いつか舞台に出られたら」と思っていました。出演のお話をいただけて、とても嬉しいです。
井之脇:僕はこれがヨーロッパ企画さんの作品に初めて出演することになるので、「なんで僕!?」と思いました(笑)。これまで上田さんの手掛けた映画やドラマをよく見ていて、中でも『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)は特に大好きです。お話をいただいて嬉しかったと同時に、自分にとって大きな挑戦になると思ってお受けすることを決めました。
――これまでの作品も見ていたということで、ヨーロッパ企画の作品にどんな印象を持っていましたか?
井之脇:僕の見た作品が偏っていたのかもしれませんが、時間をループしたりする作品が多くて、「時間の使い方が面白い」という印象を持っていました。そこに笑いの要素もふんだんに含まれていて、お芝居も達者で面白い方ばかりで、すごく素敵な世界だと思っています。
――伊藤さんの「肌感覚に合う」とは、どんなところにそう感じたのでしょうか?
伊藤:私の好きな世界観なのですが、身近なテーマでファンタジーの扉を開いてくれる印象があり、どの作品もワクワクしながら見ていました。身近なテーマを不思議な世界観の中に置くと、それが上手く作用して、登場人物の関係性や心情が切なくなったり、また別れや新たな出会いに繋がったり。ただ面白いというより、切なさに胸が震える作品が多いイメージです。最後の最後にすべての伏線が回収される部分も見事だと思います。
――本作はまだプロット段階ですが、それを読んでいかがでしたか?
伊藤:逃げ場のない「宇宙船」を舞台に、新しいキャラクターがどんどん出てきて、トラブルが巻き起こっていくというストーリー。劇場というステージだからこその“密室感”が表現できるのではないかと、読んでいてワクワクしました。登場人物全員のキャラも濃くて、何をしでかすかわからないですし、そのドタバタ感を見ている方と一緒に楽しめたら良いなと思います。
井之脇:プロットに勢いがあって、上田さんがイメージする世界がしっかりと伝わってきました。先ほど伊藤さんが言ったように、この世界観にこのメンバーで閉じ込められたら一体どんなことが起こるんだろうとワクワクしましたね。演じるキャラクターについても、まだ少ししか知らないのですが、場違いな時に告白するシーンがあるみたいで(笑)。真っすぐなKYっぽい役なのかな? 今から演じるのがすごく楽しみです。
――上田さんは、この作品をどのような思いで作られたのでしょう?
上田:先ほど伊藤さんが「身近なテーマでファンタジーの扉を」という風に言ってくださいましたが、ヨーロッパ企画の代表作『サマータイムマシン・ブルース』がまさに日常の中にファンタジーが入り混じっている作品です。今作のような世界そのものがファンタジーな作品って、ある程度の勢いがあって、熱に浮かされた状態じゃないと、怖くてなかなかやれないんですよ(笑)。予算やスタッフワークなども関係していて、なかなか登れない山なんです。
――今回、その山に登る準備が整ったと。
上田:そうです。日常の景色を借りながらファンタジーを作るのが日本の映像作品にハマるやり方だと思っているのですが、演劇はそうではなくて、“どフィクション”が作りきれることが1番面白いところだと思っています。映像化されることが決まると嬉しいのですが、心のどこかで「映像でもできるんだ……」という気持ちもあって。「されないくらいの変な設定の劇を作ってやろう!」と思ったタイミングがあり、劇団公演はトリッキーなシチュエーションばかりやるようになり、そうしたら本当に驚くほど映像化されなくなりました(笑)。それはそれで誇らしいことで、この『リプリー、あいにくの宇宙ね』もそういう気持ちで作ります。ニッポン放送さんとも作品数を重ねてきた中で、スタッフに力がつき、信頼感も築かれ、伊藤さんや井之脇さんなど素晴らしいキャストが引き受けてくれて、「今ならいける!」と思いました。
――SF、アクション、コメディ、さらに音楽もあるとのこと。プロット段階から要素が盛りだくさんなことに驚きました。
上田:そうなんですよね(笑)。さらに、その中に多少の“リアル”も織り交ぜようとしています。宇宙なんて行ったことがないので、それをどこに作るかと考えたら、忙しい中で巻き起こるトラブルの体感だなと。僕自身、劇団でたくさんのプロジェクトに関わってきましたが、日々トラブルの連続なんですよ。例えると、劇団という“船”に乗り合わせたメンバーと一緒に未開拓の地に向かっている感覚。大変ながらも、それがとても面白いんです。
――なるほど、それを“リアル”に繋げるんですね。
上田:はい。僕の場合で“劇団”を例に挙げましたが、他のキャストさんそれぞれが、それぞれの“船”に乗って、旅をしたり、戦ってきたんじゃないかと。そんな、きっとみんなが感じたことのある感覚を落とし込もうと思いました。
――その船を「宇宙船」にしたのには、何か理由があるのでしょうか?
上田:せっかくなら「スタービースト接近中!」とかいうセリフを書けるほうがいいなあと。僕が役者さんのセリフを聞く感覚って、ちょっとカラオケに近いところがあるんですよ。「この人のこの歌を聞いてみたい」ならぬ、「この人がこのセリフを言っているところを聞いてみたい」みたいな。日常生活では言わないセリフを言えるのが演劇なので、そう思いながら今、絶賛台本を書いています。
――伊藤さん、井之脇さんにも言わせたいセリフがあるんですね。
上田:めちゃめちゃあります! 伊藤さんに『時をかけるな、恋人たち』で演じてもらった役もタイムパトロール隊員という設定だったので、そういったセリフがあったのですが、とても良かったんですよ。井之脇さんは、宇宙船のパイロットがとても似合いそうだなと(笑)。また、過去作を拝見して、あまりこういった作品に出ていなかったのもあり、絶対に面白いキャラクターになると直感してオファーしました。
井之脇:僕が自覚していない一面を見てくれているのだと知り、嬉しいです。ますます演じるのが楽しみになってきました。あと、僕もめちゃくちゃ宇宙用語を言いたいです(笑)。
上田:本当ですか? じゃあ井之脇さんのセリフにたくさん盛り込みますね(笑)。
――伊藤さんは、上田さんのオファー理由を聞いていかがでしょう。
伊藤:私もSFは大好きです。見る分には……(笑)。自分がその世界に入ったら違和感になってしまうのではと少し不安だったので、『時をかけるな、恋人たち』の役が良かったと言っていただけてとても嬉しいです。今作で私の演じる役は、船長やリーダーでもないのに、宇宙船のトラブルシューティングに追われるというキャラクターです。私自身も、なんとなく乗った船なのに意外と抱えるものが多くて、それをこなすのに必死になった経験は何度もあります。それを上田さんは見抜いたんだなと思いました。
上田:今回演じる役のように、実際の仕事で「なんでこの船乗っちゃったんだろう」と考えたこととかあったんですか?
伊藤:アイドルを6年半ほど経験したのですが、意外という意味で「なんで私がこの船に乗れちゃったんだろう?」と考えていました。
上田:そうなんですか!?
伊藤:アイドルの世界に飛び込んでみたいという気持ちはありましたが、本当に選ばれるなんて思っていなかったので。アイドルって、歌う、踊う、演技、バラエティ、トーク、することが盛沢山です。いつの間にかそこにいて、目指すものもわからないまま色々なことを経験して……まるで運命の激流に巻き込まれたようでした。でも、そうやってたくさんの経験を積ませていただけたからこそ、自分の知らない特技や良さを見つけられた場所だったなと思います。
――若い頃から芸能界にいるので、井之脇さんもそういった経験は多かったのでは?
井之脇:そうですね。順風満帆でない船の方が多かったかもしれません。たとえ自分の調子が良くても悪くても、作品はみんなで作るものなので。ドラマの現場でも、明後日のロケ地が決まっていないなんてこともありました。
上田:映像作品って本当そうですよね。
伊藤:大変ですよね。
井之脇:そんな大変な思いをしながら作った作品だからこそ、多くの方に届いてほしいんですけどね(笑)。
――ちなみに、シシド・カフカさん、かもめんたる、男性ブランコの出演も決定しています。俳優、アーティスト、芸人と多彩な方たちを揃えた理由は?
上田:ニッポン放送さんと手掛ける作品でいつも心掛けているのは、なるべく異業種の方々に出演していただくこと。クロスオーバーしている感じが面白いし、演劇にはそういう力が必要な気がしています。特に、今回の舞台は宇宙ですから。いろんな星の人たちが集まっている感じを出したかったというのが理由です。
――ありがとうございます。最後に、公演に向けての意気込みをお願いします。
井之脇:劇場自体が宇宙船の中のようになり、お客さんも一体となって大きな渦の中に巻き込まれていくような舞台になったら良いなと思っています。ぜひ劇場に観に来てください。
伊藤:観に来てくださるお客さんの反応で、回ごとに空気が変わったりするかもしれません。最初のうちはその雰囲気を楽しめる余裕は持てないかもしれませんが、そんなことまでもストーリー上で起こるトラブルと重ねて繋げて、楽しめるようにできたらと思っています。
上田:このタイミング、このキャストじゃないとできないような演目が作れると思っています。今この2人(伊藤さん&井之脇さん)の並びを見ていたら、コックピット感があるなと(笑)。2人は今日が初対面だったそうで、特に関係性もできあがっていない状態で話しているのを見ると、宇宙船ってこうだなと思いました。きっと宇宙船って仲良い人同士が「一緒に乗ろうぜ!」って乗るものではないので。偶然乗り合わせた者同士が徐々に関係性を築き、例え泥船になろうとも、頑張って戦っていくんです。その感じをぜひ、劇場に味わいに来てください。
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