昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
早いもので今年も師走に突入、歌謡祭の季節がやってきました。フジテレビ『FNS歌謡祭』のラインナップが発表されましたが、ヒデキのヤングマン熱唱、ユーミン初出演など様々な企画が並ぶ中、おお、と思ったのは、薬師丸ひろ子と橋本環奈の「新旧・星泉コラボ」です。二人の星泉の間には35年の時が流れているわけですが、曲は時空を超えるんですね。
今年は角川映画誕生40周年のメモリアルイヤーでもあり、今月、新宿で記念のリバイバル上映も行われますが、そんなわけで今回は角川映画のアイコンでもあった薬師丸ひろ子の名曲をレコードで振り返ってみましょう。
【ビギナー向け】・・・『セーラー服と機関銃』(1981)
冒頭、制服姿でブリッジするシーンに始まり、ラストの、新宿でモンロー張りのスカートひらりシーン(しかもゲリラ撮影)まで、今観ても「よくやらせたよな」と思うシーンが随所に出て来る、相米慎二監督・薬師丸版『セーラー服と機関銃』。その主題歌であり、薬師丸の歌手デビュー曲でもあります。
ジャケットはおなじみ、クライマックスの機関銃ブッ放しシーンですが、この写真、映画からの転用ではなく、実は撮影終了後に改めて撮り直したものです。映画撮影時、割れたビンの破片が薬師丸の顔を直撃し、流血したアクシデントはよく知られていますが、このジャケ写は後日撮ったものなので、鼻の横の赤い傷はメイクなのです。(髪も撮影時より伸びてます)
主題歌は来生たかおが担当。本当は来生自身が歌うはずで、当初タイトルは『夢の途中』でしたが、様々な人が口を挟んできたそうで、薬師丸が歌うことに。曲名も映画と同じタイトルに変更されました。一方来生も、元のタイトルで同時にリリース。結局両方ヒットしたのですが、混乱があったようで一部歌詞が違います。結果的に映画もこの曲も大ヒットし、原作の文庫本も売れ、いわゆるメディアミックスの先駆となったのはご存じの通りですが、やはり本曲の魅力は、薬師丸の澄んだ歌声に尽きます。
来生は自分で歌うつもりで作ったので、歌手経験のない薬師丸が歌うにはハードルの高い難曲でしたが、それでも音程を外さず歌いきっているところに“女優魂”を感じます。アイドルソング不滅の金字塔として、ぜひ持っておくべき一枚でしょう。映画の製作主体がキティ・フィルムだった関係で、キティレコードから発売(第2弾『探偵物語』以降は東芝EMI)。入手は容易で、数百円で手に入りますので、ぜひ美品をゲットしてください。
【上級者向け】・・・『Woman“Wの悲劇”より』(1984)
デビュー第4弾シングルで、主演映画『Wの悲劇』主題歌。歌手・薬師丸のポテンシャルの高さはデビュー曲でも証明済みですが、作り手の創作意欲を掻き立てるところもあったようで、どんどんハードルが上がって行った結果、行き着いたのが本曲です。松本隆による詩的なフレーズ満載の歌詞もそうですが、ユーミン(呉田軽穂名義)の曲もかなり難解なコード進行で、当時脂が乗り切っていた二人を、ここまで本気にさせたんだから凄い。
一応主題歌なのだけれど、完全に松本ワールド&ユーミンワールドで、映画はもはやどっかに行っちゃってますが、そこを主演女優として、もう一度映画の世界に引き戻している薬師丸。このハイレベルな鬩ぎ合いがタマランのです。
聴きどころはサビのファルセットですが、単なるハイトーンではない独特の気位、女優としての矜恃を感じます。一昨年の紅白歌合戦で、オリジナル編曲者・松任谷正隆のピアノをバックに歌ったときは、30年の時を経て再びシビれました。これも200〜300円で手に入ると思いますが、千円以上の価値がある不朽の名曲です。マストバイ。
【その他、押さえておきたい一枚】
『あなたを・もっと・知りたくて』(1985)
松本隆・筒美京平コンビによるデビュー第5弾。民営化直後のNTTのキャンペーンソングで、途中の会話も聴きモノ。
『ステキな恋の忘れ方』(1985)
デビュー第7弾。映画『野蛮人のように』主題歌。詞・曲は井上陽水が担当。中森明菜が先日リリースしたアルバムでカヴァー。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。