昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。
WBC、侍ジャパンは米国代表に準決勝敗退でジ・エンド。残念ですが、これはやはり相手が強かった。選手の皆さん、小久保監督及びスタッフ各位、お疲れ様でした。
しかしWBCが終わっても、3月31日にレギュラーシーズン開幕が待っており、野球ファンに休むヒマはありません。その前に春のセンバツ高校野球も進行中で、つい先程、明徳義塾に一回戦負けしそうだった早実が、9回、土壇場で2点差を追い付き、延長で勝ち越して2回戦に進出。春から3年生になる注目の清宮、やはり何か持っているようです。
ところで、春のセンバツと言えば、毎年注目されるのが開会式の「入場行進曲」です。開始当初は、いわゆる普通の行進曲がマーチングバンドによって演奏されてきましたが、風向きが変わったのが、1962年の『上を向いて歩こう』(坂本九)。
以来、前年に世間でヒットした曲の中から、センバツ行進曲が選ばれるのが通例となりました。
今年の行進曲は、星野源『恋』でしたが、きょうは過去のセンバツ行進曲の中から、レコードで持っておきたい一枚を何枚か選んでみました。ぜひ手に入れて、センバツを見ながら行進してみてください。もしかすると甲子園球児の気分が味わえるかもしれません。
【その①】・・・『草原の輝き/アグネス・チャン』(1973→74年大会行進曲)
最初にセンバツ行進曲に選ばれたアイドルソングは、73年大会で採用された天地真理『虹をわたって』でした。当時の真理ちゃんブームの凄まじさを思えば納得ですが、それからアイドル楽曲が4年続くことになります。
74年大会で選ばれたのは、香港からやって来たアグネス・チャンの3枚目のシングルでした。アグネスはこの曲が出た当時、まだ17歳。カタコトの日本語で、けなげに歌うミニスカートの少女はたちまちトップアイドルとなり、同世代の高校球児たちの心もワシづかみにしました。
タイトルはエリア・カザン監督の同名映画から取ったと思われますが、作詞を担当したのが安井かずみ。高原でひとり、遠いところへ旅立った恋人の帰りを待つ女の子の歌で、なんでもない詞なのですが、居眠りをしたらその彼氏が夢に出て来て、手を振りながら「君は元気か?」と言ってくれた…というあたり、ものすごくキュンときます。それを可憐なアグネスがカタコトで歌うんだから、高校球児も野球どころじゃありません。
なにせ、まだ携帯もメールもLINEもない時代です。行進中、故郷で帰りを待つ彼女を思い浮かべ「優勝旗、持って帰るベ!」と心に誓った球児もかなりいたんじゃないでしょうか。なお作曲は、平尾昌晃センセイです。
初期アグネスを代表する名曲で、300円前後で入手できると思います。
【その②】・・・『ビューティフル・サンデー/田中星児』(1976発売→77年大会行進曲)
天地真理→アグネス→森昌子→岩崎宏美と、4年続いたアイドル楽曲に待ったをかけ、「真に行進曲にふさわしい曲とは何か?」、再び原点回帰を迫ったのがこの曲だと、私は勝手に考えています。
田中星児は、NHK『おかあさんといっしょ』の初代うたのおにいさんとして有名で、これが代表曲です。もともとこの曲は英国人歌手ダニエル・ブーンが世界各国で大ヒットさせた曲で、日本でもオリコン15週連続1位(洋盤チャートでなく、日本の曲も含めた総合チャートで)というとんでもない記録を打ち立てました。
当然、日本語カヴァーがたくさん作られたわけですが、松本隆が日本語詞を書いたトランザム版より、田中星児版(日本語詞:亜美ゆう)の方がヒットしたのは、やはり星のように明るい田中のキャラに依るところが大きかったように思います。高校球児にしても、球児と星児、漫才コンビみたいで親しみが湧いたんじゃないでしょうか。
余談ですが、以前出演交渉のため、個人事務所の電話番号にかけてみたら、「はい、田中です!」と明るい声で本人が出て来てビックリしたことがあります。(個人事務所って、ガチで個人だったのか…!)
今はマネジメントをどうされているのか定かでないですが、今年古稀を迎えるそうで、さらにこの曲が行進曲に選ばれてからちょうど40年、何か記念イベントを期待したいところです。レコードは、500円前後で手に入るかと。
【その③】・・・『ルビーの指環/寺尾聰』(1981発売→82年大会行進曲)
センバツ行進曲も、これだけ長い歴史があると、時には「どうやって行進すんねん!」とツッコミたくなる曲が選ばれることがあります。その最たるものがコレ。前年ミリオンセラーを記録し、レコード大賞も受賞しただけに、まあ選ばれても不思議はないのですが、アレンジャーの苦労がしのばれます。
78年大会の『愛のメモリー』(松崎しげる)、21世紀だと、2003年大会の『大きな古時計』(平井堅)などもアレンジャー泣かせだったと思いますが…
本曲、とにかく大ヒットし過ぎたので、100円コーナーを見ると必ず一枚は出てきます。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。