追悼!レコードで聴くザ・スパイダースのかまやつひろし作品【GO!GO!ドーナツ盤ハンター】

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昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。

3月に入り、春らしい特集を考えていたのですが、いきなり残念な報せが…。「ムッシュかまやつ」こと、かまやつひろしさんの訃報です。がん闘病中という報道はありましたが、去年の暮れ、ザ・スパイダース時代の盟友・堺正章さんの古稀祝いパーティーに出席、飛び入りで元気に歌ったばかり。快方に向かっていると信じていたのですが…享年78歳、ご冥福をお祈りします。
もともとはロカビリー歌手で、スパイダースにはゲストボーカルとして参加した後、正式メンバーとなりましたが、特筆すべきは自分で曲が書けたこと。まだ自作自演のアーティストが少なかった60年代前半において、ムッシュの創った斬新なナンバーは、日本のロック史を二歩も三歩も前進させたのです。
今回は追悼も兼ねて、スパイダース時代に絞って、ぜひ当時のレコードで聴きたい国産ロック黎明期のかまやつ作品をご紹介しましょう。

【初級編】・・・『フリフリ』(1965)

フリフリ

ビートルズが来日する前年、65年の5月に発表されたスパイダースのシングルで、初の歌入りオリジナル曲でもあります。
加入して間もないムッシュに、リーダーの田辺昭知(現・田辺エージェンシー会長)が「ウチもオリジナルで勝負したいから、何か書いてくれ」とリクエストして作られた曲で、「♪チャッチャッチャ」という手拍子3つのリズムで進行する単純明快なナンバーですが、「思った通りにやるのさ」という歌詞通り、自由気ままなムッシュワールドが全開。本曲はまさに“原点”と言ってもいいでしょう。
『フリフリ』というタイトルも独特で、後の『バン・バン・バン』に通じるモノがありますが、当時の日本に、こういうオリジナルの感性を持ったソングライターがいたことは記憶に留めるべきです。
なお、ジャケットを見て「アレ?スパイダースって7人組だったよな?ムッシュは?」と思った方もいらっしゃるでしょう。わたくし、仕事でお逢いした際に、ご本人に直接伺いました。答は…「あ、寝坊。起きたら撮影終わってたんだョ(笑)」。実は撮影に気乗りがしなくてわざとスッぽかした気もしますが、どうなんでしょうか。
余談ですが、B面の『モンキー・ダンス』を作詞したのはあの阿久悠氏で、これが記念すべき作詞家デビュー作でもあります。その意味でも貴重盤ですが、中古盤店の店頭でよく見掛けますし、私は運良く1000円以下で美品を手に入れましたので、頑張ってみてください。

【上級編】・・・『サマー・ガール/なればいい』(1966)

サマー・ガール

初期ムッシュ作品は傑作が多いのですが、特にこの2曲は白眉です。両方聴けるこのシングルはマストもの、これもマメに探せば1000円以下で入手できますので、ぜひゲットしてください。
いきなりコーラスで始まる『サマー・ガール』は、ブリティッシュビートを完全に自分のモノにした上で、そこにアメリカ・ウエストコーストのテイストをプラス。ビーチ・ボーイズ風のコーラスワークを融合させた名作です。井上順とマチャアキの掛け合いもお見事。
一方、『なればいい』は、ムッシュ自身が歌っているサイケな実験的作品ですが、欧米のガレージパンクマニアの間でも評価が高く、YouTubeなどで検索すると、この曲を耳コピして勝手にカヴァーしているバンドが世界各国にいます。「なればいい」が「♪ナリーバチイー」になっていたりするのですが、彼らにはそう聞こえるのでしょう。意味なんてワカンなくてもイイのです、初期衝動が伝われば。しかし半世紀以上経った今なおカヴァーされているのは驚きで、ソングライター・かまやつひろしのレベルの高さが改めて分かります。

GSブーム自体は、70年代に入るとアッという間に下火になり、スパイダースも解散へと向かいますが、当時の先端技術を駆使して、一人多重録音のソロアルバムを発表したり、ニューロック系アーティストや、吉田拓郎のようなフォーク系アーティストとも積極的に共演。振り返ってみると、ムッシュを媒介にして、日本の音楽はボーダレスになっていったような気がします。改めて、様々な音楽を愛した故人に感謝。Adieu, Monsieur!

【その他、押さえておきたい一枚】

『ヘイ・ボーイ』(1966)

ヘイ・ボーイ

ムッシュの革新性と才能がほとばしる傑作。この自在なビート感覚が半世紀前に純国産で実現していたことに驚愕。B面はビートルズのカヴァー。

『いつまでも どこまでも/バン・バン・バン』(1967)

いつまでもどこまでも

A面で売れ線の『いつまでも…』を書く一方、B面ではムッシュワールド全開でステージでの代表作に。これまた一枚で二度おいしいシングル。

【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。

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