昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。
今年は、沢田研二のデビュー50周年。ザ・タイガースのリードヴォーカルとして『僕のマリー』でレコードデビューしたのが、1967年2月5日。ちょうど50年前の今頃なのですが、半世紀経った現在も、気鋭のミュージシャンたちをバックに従えライヴツアーを行い、新譜をリリースし続け、曲の中で原発や安保法制についても物申しているジュリーの現役感たるや。来年は古稀(70歳)を迎えるので、また様々な動きがあると思いますが、今回はジュリーの原点となったGS・ザ・タイガースの、ぜひ持っておきたい一枚をご紹介していきましょう。
【ビギナー向け】・・・『銀河のロマンス/花の首飾り』(1968)
人気絶頂期にリリースされ、ザ・タイガースの最大のヒットとなったシングルで、両A面扱い。両曲とも彼らの代表作になりましたが、傑作2曲が一枚で楽しめるマストバイ盤です。『銀河のロマンス』は沢田、『花の首飾り』は加橋かつみ(トッポ)がリードヴォーカルを務め、二人の歌声の対比も楽しめますが、ここではジュリーが歌う『銀河…』に話を絞りましょう。
この曲は、タイガースの初主演映画『世界はボクらを待っている』(東宝)の主題歌として書かれました。ザックリあらすじを言うと、宇宙からやって来たアンドロメダ星の王女・シルビイがジュリーを見て恋に落ち、宇宙船で連れ帰ろうとしますが、「やっぱりジュリーはみんなのもの」と悟って地球に返してあげる→タイガースは武道館で無事新曲発表→めでたし、めでたし…という荒唐無稽なストーリー。最後の演奏シーンは、実際武道館にファンを集めてロケが行われました。
正直、内容は浅いですが、当時のタイガースの人気ぶりが分かるのと、演奏シーンが綺麗なカラー映像で残っているのは貴重で、デビュー間もない頃のジュリーも拝めますから、ぜひDVDをご覧になってください。(蛇足ですが、当時「星の王子様」を自称していた若き日の先代・三遊亭円楽師匠も「ナルシス殿下」役で特別出演しています。)
主題歌『銀河のロマンス』は、デビュー以来タイガースの曲を書き続けてきた、橋本淳・すぎやまこういちコンビが手掛けていますが、すぎやまがクラシック音楽をベースに彼らの楽曲を創作していたことは、他のGSとの差別化という点で大きな意味を持っています。この曲の美しい旋律も、ジュリー独特の甘い歌声にみごとマッチしており、のちのソロデビュー曲『君をのせて』にも通じるゾクッとする魔力を感じます。
リリースからおよそ半世紀経ちましたが、いまなお出物は非常に多く、逆に彼らの人気が窺えます。200円前後で入手できますので、ぜひ美品をゲットしてください。ジュリーの赤いパンツが素敵です。
【上級者向け】・・・『美しき愛の掟』(1969)
絶大な人気を集めたタイガースですが、ジュリーをメインにしたアイドル的アプローチで売っていこうとする渡辺プロと、あくまでバンド志向でやっていきたい5人との間に、だんだん溝が生まれていきます。
事務所の路線を最初に我慢できなくなったのが加橋かつみで、69年に突如バンドを脱退。代わりにリーダーのサリー(=現・岸部一徳)の弟・岸部シローが加入します。この加橋脱退劇の裏には、実は様々な駆け引きもあったのですが、恐らくジュリーにとっても、こういう形で昔からの仲間が欠けたことは大きなショックだったはずです。
そんな騒動に揺れていた頃にリリースされたのがこの曲で、作詞はなかにし礼、作曲は新進気鋭の若き作曲家・村井邦彦(のちにアルファレコードを設立)が担当しました。レコーディングの時点では加橋はまだ脱退していなかったので、コーラスで参加。しかし新生タイガースの初シングルに、抜けたメンバーの声が入っているのは都合が悪いと、渡辺プロはシローを入れてレコーディングをやり直しました。ジャケットも、今後はジュリーをメインにしたい事務所側の意向が透けて見えますが、実は『廃墟の鳩』(別項参照)のジャケットを左右反転させたもの。しかも加橋の顔をぼかす処理が…。
ジュリーも内心複雑だったと思いますし、実際、再レコーディングでは気持ちが入らなかったようです。結局、先に録ったトッポ参加ヴァージョンの方がジュリーの歌の出来がいい、ということで、そちらが採用に。結果的に本曲は、加橋が参加した最後のシングルになりました。
4年前の武道館再結成ライヴで、加橋を交えてこの曲が演奏されたとき、ジュリーの鬼気迫る歌声はいまだに忘れられませんが、実はそんな背景があったのです。500円〜700円ぐらいで入手できるかと。
ジュリーについては1回ではとても語り尽くせないので、PYG時代も含め、何回かに分けて持つべきレコードを紹介していきます。お楽しみに!
【その他、押さえておきたい一枚】
『僕のマリー』(1967)
ちょうど50年前の2月5日にリリースされた、記念すべきデビュー曲。お揃いのスーツで、タンバリンを手にしたジュリーの初々しさがGOOD!
『廃墟の鳩/光ある世界』(1968)
両曲とも名盤『ヒューマン・ルネッサンス』収録の名曲。A面は加橋。ジュリーが歌うB面『光ある世界』はアルバム冒頭を飾る荘厳な傑作。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。