昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
クリスマス、終わっちゃいましたねえ…。今年は祝日も重なって3連休ということで、愛する人とクリスマスを満喫された方も多いと思いますが、私のように暮れも仕事に追われてしまった方、一人寂しく過ごして「クリぼっち」だった方…この連載は、そんなあなたの味方です!
そもそも「12月25日を過ぎたら、クリスマスソングを聴いてはいけない」という法律は、世界のどこにもありません。(私は正月も夏も聴いてます)。そこで今回は、クリスマスを味わい損ねたアナタのために延長戦!ひと足遅く「アナログ盤で聴きたいクリスマスソング」を3曲選んでみました。残り物のクリスマスケーキとシャンパン片手にお読みいただければ幸いです。
【おススメその①】・・・『ジングル・ベル/ぼくのクリスマス』加山雄三(1966)
若大将全盛期1966年11月にリリースされたクリスマス用のシングルです。A面はおなじみのスタンダード曲ですが、ぜひ聴いていただきたいのがB面の『ぼくのクリスマス』。岩谷時子作詞・弾厚作(=加山)作曲で、普通に歌えばいかにも若大将な曲なのですが、なぜか一部でテープの早回しが使われており、通常の生声で歌う若大将と、早回しのハイトーンな歌声(正体は加山)がデュエットしているのです。
これは50年代末にアメリカで大流行した、シマリスたちが歌う「チップマンクス」のレコードで使われた手法を真似たものです。要は歌を倍遅いスピードで録音しておき(わざとゆっくり歌う)、そのテープを通常速度で再生すると、オクターブ高い変な声になる、というもの。この手法で録音されたザ・フォーク・クルセダーズの『帰ってきたヨッパライ』が1967年に大ヒットしましたが、若大将はそれよりリリースがちょっと早く、その実験精神はさすがです。クリスマス盤だからこそ許されたお遊びとも言えますが。
この曲、後に若大将のベスト盤やクリスマスアルバムにも収録されましたが、それは再録したヴァージョンで、オリジナルはこのレコードか、同時期に出た4曲入りEPを買わないと聴けません。店頭価格は1,000〜1,500円ぐらいです。
【おススメその②】・・・『ブルークリスマス』Char(1978)
1970年代末、岡本喜八監督が、倉本聰のシナリオを映画化。UFO映画を製作したことを覚えていますか?SF作品、しかも東宝配給なのに、特撮を一切使わず、肝腎のUFOは出て来ないという意欲作。一部に熱く支持されましたが(庵野秀明監督もその一人)、興行的には失敗しました。そんな伝説の映画『ブルークリスマス』の同名主題歌がこの曲です。
当時『気絶するほど悩ましい』などヒット曲を連発、アイドル的人気を博していたCharが歌い、作詞は阿久悠が担当。Charは編曲と歌だけの担当ですが、演奏、アレンジ、歌いっぷり、すべて一線級。残念ながら映画同様ヒットせず、これがメジャー活動最後のシングルになりましたが、若き日のCharの溢れんばかりの才能が凝縮された貴重な一枚です。
この曲も、オリジナル音源が聴きたければこのシングルを入手するしかなかったのですが、なんと今月、この映画のサントラ盤が公開から38年遅れでリリース。やっとCDでも聴けるようになりました。ただ、この音はぜひアナログで聴いていただきたい。店頭では800〜1,000円ぐらいです。
【おススメその③】・・・『クリスマス・イブ』山下達郎(1983)
定番中のド定番ですが、あえて…。毎年暮れになると必ずチャートインするこの曲、元々はアルバム『MELODIES』(1983年6月発売)の中の一曲でした。その時点では達郎ファンしか知らなかったこの曲を「せっかくだから、クリスマスソングとしてシングルカットしてみたら?」と提案したのが、当時ムーンレコード社長だった小杉理宇造氏です。(現ジャニーズ・エンタテイメント社長)。その一声がなかったら、果たしてこれだけの有名曲になっていたかどうか…。
で、1983年12月に最初のシングル盤が出たのですが、これはドーナツ盤ではなく、LPサイズの12インチシングルでした。盤面に雪の結晶をデザインした限定盤のピクチャーレコードでしたが、この時はそれほどヒットせず、1986年11月、ジャケットを変えて7インチのドーナツ盤で再発(写真)。レコードの盤面はクリスマス仕様で真っ白になっています。
この7インチシングルも当初、動きは鈍かったのですが、1988年末、JR東海のクリスマス向けCMで使われると徐々にセールスが伸び始め、1989年12月、ついにオリコンチャート1位を獲得。最初の12インチシングル発売から、実に6年後のことでした。
それから30年近く経った今も、毎年暮れになるとチャートインしているのは驚くほかありませんが、そんな経緯も噛みしめつつ、ぜひ一度アナログで聴いてみてください。この曲の聴きどころである「一人多重アカペラ」も、レコードで聴くとより肉声に近く聞こえますし(ホントです)、達郎本人のこの曲に込めた思いが、溝の間から伝わってきますから。
12インチ盤は結構高値になりますが、7インチ盤はオークションサイトで、2,000円前後で入手が可能です。
*なお、年内の掲載は今回が最後になります。今年もご愛読ありがとうございました、次回の掲載は、2017年元日になります。来年も『ドーナツ盤ハンター』をどうぞよろしく!
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。