昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。
早いもので、もう1月も終わろうとしていますが、野球界はいよいよキャンプインの季節。プロ野球の正月は「2月1日」なのです。NPB9球団がキャンプを張る沖縄を巡るのは野球ファンにとって最高の楽しみですが、行くたびに思うのは、やはり米軍基地の街でもあるということ。1972年に返還されるまでアメリカの占領下にあった関係で、そのとき沖縄で育った子供たちは、日本の音楽ではなく、主に洋楽を聴いて育ちました。その申し子が、具志川市(現在はうるま市)出身のフィンガー5(ファイブ)です。
まさに沖縄返還の年、1972年にデビュー(その前に一度、別な名前で世に出ているので、正確には「再デビュー」ですが)。ジャクソン5を意識した、5人兄妹によるファミリーグループでしたが、リズム感の良さと、レベルの高いパフォーマンスは今でも強く印象に残っています。デビュー45周年を迎えたフィンガー5の、ぜひ持っておきたい名曲を、当時のジャケットと共にご紹介していきましょう。
【ビギナー向け】・・・『個人授業』(1973)
1972年から本土のテレビに出るようになり「あの子たちは誰?」と注目を浴びていたフィンガー5ですが、翌1973年8月、満を持してリリースしたメジャーデビューシングルがこの曲です。
作詞・作曲は、当時山本リンダを「ウララウララ〜」で再生させた阿久悠・都倉俊一の黄金コンビ。ちょっぴりグラマーな女性教師に「できるなら個人授業をお願いしたい」なんて歌詞を、当時12歳のアキラに堂々と歌わせる阿久悠はさすがの一言。3分間の楽曲内で非日常の世界を構築し、劇場型エンターテイメントに持っていく手法は、後に二人が手掛けたピンク・レディーに繋がっていきます。アキラのハイトーンボイスのインパクトも強く、この曲はいきなりミリオンを突破。フィンガー5の人気も沸騰しました。
ジャケットがイラストなのも珍しく、アキラと妙子の似顔絵を描いたのは野球マンガの大御所・水島新司。(後に『バンプ天国』のジャケットも担当)。注目は、当時アキラはまだトレードマークの巨大サングラスを掛けていなかったので、イラストも素顔のままになっています。200円前後で入手可能。
【上級者向け】・・・『恋のアメリカン・フットボール』(1974)
『個人授業』の後『恋のダイヤル6700』(1973)『学園天国』(1974)と学園恋愛モノでミリオンセラーを連発していったフィンガー5ですが、その“部活編”が本曲です。舞台をありきたりなバスケ部やサッカー部でなく、「アメフト部」にする阿久悠のセンスには脱帽ですが(中学生はやんないだろ!)、この設定は一つ大きな問題を生みました。ステージでもこのコスチュームで歌い踊ったのですが、そう、アメフトのヘルメットは顔がよく見えないのです(笑)。
結局、テレビで歌うときは、いちいちヘルメットを外すという余計な動作が加わることになりましたが、曲間の「ハイク!」という掛け声が絶妙で、スポーツ歌謡の傑作として心に留めておきたい一曲です。アキラはこの直後に変声期を迎えたので、本曲は彼のボーイソプラノが聴ける最後のシングルになりました。
ここでちょっと自慢ですが、実は数年前、すでに50代になったアキラ氏の特番を担当する機会に恵まれ、ここぞとばかりにレコードにサインをいただきました(右下に注目)。中古市場では500円〜1000円の間で取引されていますが、このサイン入りレコードは100万円積まれても売りません。
【その他、押さえておきたい一枚】
『学園天国』(1973)
冒頭、アキラの「Are you ready?」から疾走感溢れる学園ロックの傑作。次男・光男の奏でるブルースハープも聴きモノ。作曲は井上忠夫。
『ぼくらのパパは空手の先生』(1975)
ブルース・リー主演『燃えよドラゴン』の大ブームを受けて作られた東洋テイスト全開の珍作。この曲からポリドールに移籍。ややレア盤。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。