1973/4/21浅田美代子が「赤い風船」でデビュー!【大人のMusic Calendar】

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1973年(昭和48年)の本日4月21日は、浅田美代子が「赤い風船」でデビューした日。ということで、筆者が熱烈なセルフリコメンドでしゃしゃり出ることと相成りました。

赤い風船,浅田美代子

来月コロムビアから発売されるコンピレーションの実現に向けて、ありとあらゆる70〜80年代アイドルの曲を聴きまくり、自己を翻弄する日々を送っている昨今の筆者であるが、さすがにその人気絶頂時強烈にイメージを叩き込まれたせいで、再評価を完全に怠っていた人も幾分かいる。アグネス・チャン、天地真理、桜田淳子、そして浅田美代子はまさしくその代表だった。アイドル時代終了後の彼女らの動向を知ることも、萎えの一因となっていたかもしれないが(90年代以降の彼女に「さんまの番組で殺人的ボケをかます元アイドルおばさん」以外のイメージを抱くことはまず不可能)、成熟した自分にとっては当時「その他大勢」だった人たちの中から隠れた名花を探し出すことの方が、彼女たちの大ヒット曲を聴き返すこと以上にはるかに有意義だった。

そんな傾向に変化の兆しが見えたのは、極めて最近のことだ。些細なきっかけで、所謂「歌のない歌謡曲」のレコードを集めることに熱中し始めたのがその最大の原因である。筆者の場合は、所謂和モノレアグルーヴ界隈で人気がある、60年代後期〜70年代初期のベースやドラムが大活躍するダンサブルなものよりも、73年〜75年の間にリリースされたものに遥かに魅せられているのだ。歌謡曲の聴取層が一気に若返り、ポップ度が格段と増したこの時期の曲を、歌の代わりに多種多彩な楽器をフィーチャーしつつ、マルチ録音技術の発展がもたらしたきめ細やかなサウンド(と言っても、この種のレコードの制作には通常、編曲からミキシングに至るまでLP1枚につき1週間もかけていないと思われる)で聴くのは乙なもので、幼かった頃の記憶も鮮明に蘇ってくる。
そして、時期的な関係で、これらのレコードには必ずと言っていいほど先に挙げた4人のヒット曲がフィーチャーされているのだ。いや、むしろ最近は浅田美代子の曲が入っていたら買う、という傾向にさえ陥っているような気がする。あの頼りなげな歌声が、どんな楽器の音色で再現されているかなと思うと、かえってワクワクするのだ。とある盤に入っていた「ひとりっ子甘えっ子」で唐突にメロトロンがピャーと流れ出した時は、度肝を抜かれたものだが。

個人的な話はこのくらいにして、この「赤い風船」、4月21日に発売されるや否や、3週後にはオリコンチャートの1位に立つという、当時の新人のデビュー曲にしては異例の瞬発力を発揮している。そのバックグラウンドには、当然、当時の国民的人気ドラマ「時間ですよ」(TBS系)でこの曲が歌われたという必殺要素があった。筒美京平の親しみやすいメロディ、そしてあの歌声。どちらかが別のものだったら、そこまでヒットしていただろうか。揺れ動く時代情勢の中、国民はあの声の中に、忘れていた清涼感を求めていたのかもしれない。前述したコロムビアのコンピの中で、内藤洋子の「白馬のルンナ」(67年)をアイドル女優による歌謡曲の革新と定義づけたのだが、「赤い風船」はその第2段階というべきものであった。

その後の彼女はたちまちアイドルトップランナーの一群に仲間入りした、と思われたが、ベスト20入りするヒットを7曲放った後、さらに3曲を出して歌手活動をあっさり打ち止めとした。わずか2年半の間である。しかし、残されたそのAB面20曲(当然アルバム曲を加えるともっと多い)がたまらなく愛しい。これぞアイドル歌唱の醍醐味という要素が容赦なく押し寄せる。微妙にずれる一人ユニゾン、苦しそうな高音…そのひとつひとつにドキドキしながら耳を傾け、あの頃の長閑な空気に思いを馳せるのだ。そのくせ曲がいいから余計憎めない。7曲目の「じゃあまたね」に聞き取れる心境の変化のようなものは、まさかその作曲者と3年後に結ばれる予兆ではと当時は知る術もなかったけど、続く曲から大幅に売り上げがダウンしたのは皮肉な事実である。
これら20曲をまとめた『ゴールデン☆ベスト』には、さんまの番組で第2次人気絶頂期を迎えた94年に19年ぶりの新曲としてリリースした「いっしょにねっ」が巻末に収録されているが、当時の年齢のほぼ半分に等しいブランクがあるとは全く信じられない、あのまんまの歌声に痺れる。曲的には岡村靖幸「だいすき」と「となりのトトロ」を合わせたみたいなものであるが。

最後にまた個人的な話で恐縮ですが。再発見を怠ったとか言っておいて、筆者がやっている音楽(?)ユニットRacco-1000が、6年前初めて公衆の目の前で行ったライヴで1曲目に演った曲は、他でもない「赤い風船」なのである。この時は女性ヴォーカリスト・M嬢と組んで、「スマホ時代のフォーク」を志向した演奏を2曲だけ行ったのだが、彼女の声を生かせるカバー曲やりたいなぁと探ったら、真っ先に思いついたのがこの曲だったのだ。筆者がフルートで、彼女がギターと歌。そしてiPhoneで打ち込んだオケ。リハーサルの時、ふとアカペラでBメロの部分をハモっていたら、対バンの女性フォークシンガーY嬢から「萌え〜」の一言が。そう、さりげなくハモるだけで萌えさせるほど、今の音楽には朴訥さが欠けている。その辺をなんとかしないとな、と思う。頼りなげな歌声が魅力の浅田美代子は、この萌え〜なハモりをデビュー曲の中で、一人二重唱でやってのけてもいたのである。

「赤い風船」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
ソニーミュージック 浅田美代子公式サイトはこちら>

【執筆者】丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。5月24日、初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』(3タイトル)が発売予定。

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