昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。
皆様、ゴールデンウィークも残りわずかですが、いかがお過ごしでしょうか?私は原稿書きと部屋の片付けに追われ、ほぼどこにも行けませんでしたが、ラスト2daysは名古屋に帰省。ナゴヤドームで、開幕からちっとも波に乗れないドラゴンズに喝を入れてくる予定です。
そんな中、歌謡曲ファンとしてはひとつ嬉しいニュースがありました。3月、舞台出演中に転倒、右大腿骨を人工関節に入れ替える手術を受けた研ナオコさんが28日に復帰会見を開いたのです。「コントの上手さと歌唱力は比例する」が私の持論ですが、ちあきなおみと研ナオコはその双璧で、子供の頃、『全員集合』や『カックラキン大放送』でどれだけ笑わせてもらったことか。一方、マイクを持てば沁みる曲ばかり。これぞ芸能人の鑑であり、長年リスペクトしているシンガーの一人です。
今回のケガも全治3ヵ月のはずが、1ヵ月でスピード復帰。しかも杖をつかずに会見場へ現れたのには驚きましたが、今は通院治療を受けながら自宅でスクワットに励んでいるそうで、その心意気、さすがです。
さっそく、8日の小椋佳トリビュートコンサートから復帰するそうで、「私は200歳まで生きるつもり」と会見で豪語していましたが、ぜひ実現させていただきたいと思います。ということで、今回は復帰祝いも兼ねて、ドーナツ盤で持っておきたい研ナオコソングをご紹介しましょう。
【ビギナー向け】・・・『あばよ』(1976)
歌手・研ナオコの実力を物語るのは、一流アーティストからの楽曲提供の多さです。最初のヒット曲になった宇崎竜童作曲『愚図』をはじめ、小椋佳『泣かせて』甲斐よしひろ『別離の黄昏』吉田拓郎『六本木レイン』松任谷由実『帰愁』などなど、錚々たるメンバーが曲をプレゼントしていますが、シングル曲を最も多く提供したのが、中島みゆきです。
全部で7曲を書き下ろしていますが、最初に書いた『LA-LA-LA』(1976)は中島みゆきが初めて他のアーティストに提供した作品でもあります。「飛行機で偶然みゆきさんの曲を聴いて、あ、この人に曲を書いてもらおうと思った」そうですが、大ヒットとなった『わかれうた』(1977)はその時点でまだリリース前。ブレイク前に、中島みゆきのソングライティングの才能をいち早く見抜いたのは、研ナオコなのです。
これは『LA-LA-LA』に続くみゆき作品第2弾ですが、ラテン調でアップテンポな前作に比べ、こちらはしっとり泣かせる曲調。当時のナオコさんは、歌手よりもむしろCMやバラエティなどのタレント活動が目立っていましたが、中島みゆきが凄いのは、ナオコさんが演じるコントを見て「この人、こんなに人を笑わせられるんだから、泣かせることもできるはず」と見抜いたことです。見抜き見抜かれるこの関係、素敵だと思いませんか?
TVで見せる三枚目路線とは打って変わって、女のやるせなさ、切なさを前面に出したこの曲は、意外性もあって大ヒット。初のオリコン1位を獲得し、研ナオコの代表作になりました。同じくみゆき作品の傑作『かもめはかもめ』と併せて持っておきたい一枚です。200円〜500円で入手可能。
【上級者向け】・・・『夏をあきらめて』(1982)
これも大ヒット曲ですが、歌手・研ナオコの素晴らしさを語る上で外せない一曲なので、敢えて選ばせてもらいました。ご存じの通り、作詞・作曲は桑田佳祐。元々はサザンオールスターズのアルバム『NUDE MAN』(1982年7月リリース)に収録された曲ですが、直後の9月に、シングルとして研ナオコヴァージョンがリリース。当時ナオコさんは「歌いたい曲がない」という虚無感に襲われていたそうですが、久々にピンと来たのがこの曲でした。その直感は正しく、4年ぶりにオリコン10位以内に返り咲き(最高5位)、これも代表曲の一つになったのです。
普通、桑田作品を歌うと、どこか本家の歌い方に引きずられてしまうところがありますが(中村雅俊しかり、高田みづえしかり)、ナオコさんの素晴らしいところは、作品の世界観は残しつつ、しっかりと「研ナオコワールド」を構築しているところ。独特の、途切れ途切れ気味な唱法によるけだるさ、切なさは、やはりナオコさんでなくては醸し出せませんし、本来カヴァーというものは、そうでないと意味がないと思うのです。
80年代の歌謡曲でも、間違いなく5本の指に入る傑作で、中古盤店でも人気が高く、店頭では500円〜700円ぐらいですが、インパクト大のジャケットも含め、歌謡ファン必携の一枚です。
【その他、押さえておきたい一曲】
『うわさの男』(1973)
デビューは東宝レコード(レーベル第1号歌手)。初期の作詞は阿久悠が担当。浮気男に遊ばれた女友達を咎めつつ、そんな男に惚れてしまうという軽快作。
『窓ガラス』(1978)
『かもめはかもめ』に次ぐ、みゆき作品第4弾。同じ事務所だった若き日のTHE ALFEEがギターとバックコーラスを担当している貴重盤。オリコン最高8位。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。