昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。
4月18日深夜の『星野源のオールナイトニッポン』は、小堺一機・関根勤コンビがゲスト。二人が今もTBSで喋っていたら絶対に実現しなかった座組であり、かつてコサキンリスナーだった私としてはたまらん2時間でしたが、個人的に嬉しかったのは「意味ねぇCD大作戦」コーナーの復活です。
何かが過剰に突出した歌謡曲を「こんな意味ねぇ曲があるんだぜ」と下の世代に紹介していったのもコサキンの大きな功績ですが、そんな「コサキンソング」の代表格でもある、布施明『ときめき』は、今ラジオで聴いても破壊力満点でした。なんなんだろう、絶唱をさらに超えた、サビの「意味ねぇ叫び」は?
そう、布施明は「過剰なほど過剰」なのです。
かつて、女優オリビア・ハッセーの夫だったという事実も凄いですが、今の奥さんが森川由加里というのもこれまた凄い。ちなみに1947年生まれなので、今年暮れにちょうど古稀を迎えます。なのに、まったく衰えぬ声量。
布施明の針が飛びそうな絶唱は、やはりアナログ盤で聴いてこそ、その神髄がより深く味わえるというもの。そこで今回は、ぜひ手元に置きたい「布施ソングス」をご紹介していきましょう。
【ビギナー向け】・・・『君は薔薇より美しい』(1979)
『星野源のオールナイトニッポン with コサキン』の「意味ねぇCD大作戦」で「信号待ちの時の心境・第1位」に輝いたのが本曲です。「♪かわった〜〜〜〜〜〜〜ァ!」の部分に凝縮されている異様なエネルギー。なぜにそこまで伸ばす??「伸ばしてる間に、信号渡れるよね?」(小堺)「やっぱ布施さんはスゴいな!全部ココに帰結するもんな」(関根)…まったく同感です。
もともとこの曲はカネボウのキャンペーンソングでしたが、久しぶりに逢った女性が(おそらくは化粧のせいで)美しく変わったことへの素直な驚き、それを表現するには、なにかと「過剰」な布施が最適、という判断だったのでは?
狙いは的中、ミッキー吉野の軽快な曲も素晴らしく、布施自身にとっても久々のオリコンTOP10ヒットとなりました。ちなみに、このキャンペーンに出演したのが先述のオリビア・ハッセーで、二人が知り合うきっかけになった曲でもあります。
余談ですが、脚本家の三谷幸喜氏はこの曲が大好きで、映画やドラマの打ち上げでよく歌うそうですが、映画『ラジオの時間』にプロデューサー役で布施が登場したのは、「ご本家の前で歌いたい」という夢を叶えるためだった、という説も。…よく分かります(笑)。300円前後で入手可能。
【上級者向け】・・・『霧の摩周湖』(1966)
北海道の東部にある摩周湖は「バイカル湖に次いで、世界で二番目に透明度が高い湖」ぐらいしか売りがない、世間的にも無名な湖でしたが、この曲がヒットしたことで一躍、誰もが知る観光名所になりました。
湖の持つミステリアスな雰囲気を、布施の甘く力強い歌声が増幅させたことは確かで、デビュー2年目、リリース時はまだ18歳だったのに、その力量たるや恐るべしです。作曲の平尾昌晃は、本曲でレコード大賞・作曲賞を受賞。職業作曲家にスライドしていく上で大きな自信になったそうですが、自分もロカビリーの人気歌手だった平尾は、布施の可能性に気付いていたに違いありません。
湘南の平尾邸で、作詞・水島哲氏と平尾が一行ずつ曲を書き進め、その都度、布施が歌っていって完成した、という創作秘話にも、二人の「何とかして布施君にふさわしい曲を」という愛を感じます。500円前後で入手可能。
【その他、押さえておきたい一曲】
『ときめき』(1969)
サビの絶唱を超えた「魂の叫び」は、ザッツ布施明。心揺さぶられること請け合い。この頬杖ジャケットも最高。コサキンリスナーは必携アイテム。
『赤いムームー』(1967)
これも『霧の摩周湖』の水島哲・平尾昌晃コンビの作品。ウクレレ片手の、このわざとらしい笑顔に座布団一枚。
【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。