本日10月11日は、やまがたすみこの誕生日。日本フォーク史を可憐に変革したあの少女も、今日で61歳となる

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本日10月11日は、やまがたすみこの誕生日。日本フォーク史を可憐に変革したあの少女も、今日で61歳となる。

「ギター少女」がもてはやされ、各地のライヴハウスで自作曲を歌う女の子が賑わし、アイドル並みの熱い支持を受ける現在からは想像できないが、70年代初頭のフォーク・シーンは「男性上位時代」だった。ましてや、アイドル的な受け方など夢の夢。女性たちのフォークとの関わり方というと、男性シンガーの自由奔放な表現に影響を受け、学生サークル的な行動範囲内で地道に成果を発表する程度であった。当然、メジャー・レコード会社の目の届く場所でそれらが行われることは稀だった。僅かな例外というと、すでにヤマハが70年に主催を始めていた「合歓ポピュラー・ソング・コンテスト」への作品応募位のものだったが、その場合にせよ、本選で競う場合は彼女らが作った曲をプロの歌手が歌うというパターンが殆どだった。今でこそ先駆的名盤と謳われる金延幸子『み空』でさえ、当時はインディペンデントな土壌の上に咲いた野生の花のような存在だった。

そんなフォーク・シーンを可憐に変え始めたのは、72年6月デビューした13歳と11歳の姉妹、チューインガム。従来歌謡界で作曲家として活動していた松田篝を父親に持つという恵まれた環境も手伝って、素直に歌心を育んだ彼女たちは、当時のフォークが持っていた近寄りがたいイメージを一気に親しみやすいものに転じた。そして同じ72年、当時の人気番組「家族そろって歌合戦」に登場し、自作曲「夏になったら」を歌って注目された一人の少女、それがやまがたすみこだった。

当時上野学園高校の1年生。今ではクラシック(特に古楽)音楽家を育てる場として名高い上野学園の高等学園部だけに、お嬢様を育む場というイメージが大きいが、この時期にはすみこの他、あの太田裕美も勉学に励んでおり、まさに乙女の憧れの園。ライバル番組「オールスター家族対抗歌合戦」と異なり、あくまでも一般から公募した家族たちが喉を競っていた「家族そろって〜」で、自作曲を歌う清楚な高校生の姿が強烈な印象を残さないわけがない。

本日10月11日は、やまがたすみこの誕生日。日本フォーク史を可憐に変革したあの少女も、今日で61歳となる

早速、コロムビアが彼女を獲得、翌年2月にシングル「風に吹かれて行こう」でデビューを飾る。ラジオを中心に大きな反響を呼び、早速フォーク・ファンの間でアイドル的存在へと躍り出た。TBSのドラマ『おさななじみ』にもギターを持ったマドンナとして登場。浅田美代子の好敵手というより、「ちゃんと歌えるギター娘」として耳の肥えた音楽ファンの熱いまなざしをも浴びることになる。ここまでメディア露出を得たにも関わらず、彼女のシングルがオリコンチャートに全くランクインしていないのは、歌謡史に於ける七不思議の一つ。
アルバムの方も、フォークのスタンダードナンバーを多く取り上げたファースト『風・空・そして愛』を皮切りに、次第に自作曲の割合を高めながらコンスタントにリリース。さすがに当時のフォーク歌手らしく、アルバム市場に於ける人気は地道に高まっていた。そんな「フォークのアイドル」路線が一つの曲がり角を迎えたのは、75年7月にリリースしたシングル「チューニング・ラブ」に於いてだ。この頃になると、ユーミンの台頭により女性自作自演歌手界がより進歩的に、かつファッショナブルな方向へと導かれており、デビュー3年目のすみこはここで大いなる挑戦状を叩きつけたのである。冒頭のコード進行といい、激しいテンポ・チェンジを導入した曲構成といい、当時のフォーク・ファンにとってはまさに衝撃的な一曲だった。あの優しさ、親しみやすさはどこへ行ったの?
この方向転換を機に、76〜78年にリリースしたアルバムは、より洗練された「都会の女性」を感じさせる楽曲が大半を占めることとなった。しかし、この路線がのちにすみこ再評価の核心となるのだから、時代はどう進むか全くわからない。現在ではLight Mellowという言葉で一括りされる洋楽テイストの強いサウンドに、抑え気味の歌声が実にうまくはまっている。78年リリースしたシングル「SF」を最後に、当時頭角を現していた作曲家・アレンジャー、井上鑑と結婚した彼女は、しばしの間音楽界の表舞台から退くことになる。まるでトニー・ヴィスコンティと結婚したメリー・ホプキンのように。
実はその後も、彼女の歌声はテレビのCMや企業イメージソングなどの中で、人知れず響き続けることになるのである。特におなじみなのは、喉の治療薬イソジンのCMに使用された「ただいまのあとは」だろう。2012年リリースされた『やまがたすみこCM WORKS』は、そんな彼女の裏ベストというべき充実したコレクションだ。

本日10月11日は、やまがたすみこの誕生日。日本フォーク史を可憐に変革したあの少女も、今日で61歳となる

最後に宣伝をひとつ。5月に3Wをリリースした、筆者監修によるコロムビアの女性ポップス史を辿るコンピレーションシリーズ『コロムビア・ガールズ伝説』に、待望のフォーク編が仲間入り。『FOLKY & ELEGANCE』として来る25日にリリースすることになりました。やまがたすみこさんの曲も当然、デビュー曲「風に吹かれて行こう」をセレクトさせていただきましたが、すみこファンの方には、彼女がファーストアルバムの中で取り上げた「しあわせの足音」を、オリジナル歌唱者・島田順子のヴァージョンで聴けるサプライズもあります。その他にも初CD化となるレアトラックがいっぱい。現在まで受け継がれるギター少女系譜の基盤を形作った数々の名曲たちに、ぜひ会いに来てください。

本日10月11日は、やまがたすみこの誕生日。日本フォーク史を可憐に変革したあの少女も、今日で61歳となる

【著者】丸芽志悟 (まるめ・しご) : 丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 10月25日に監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』シーズン2(2タイトル)が発売される。
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