本日は「セーラー服と機関銃」の作者としても知られる来生たかおの誕生日

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【大人のMusic Calendar】

先日、歌手の亀渕友香さんが亡くなったという悲報に、ふと、思い出したのが、来生たかおのことだ。彼が、姉のえつことコンビで書いてレコード化された最初の作品が、確か、亀渕さんの「酔いどれ天使のポルカ」ではなかったかと。1974年、彼女がリッキー&960ポンドを解散後、初めて発表したソロ・アルバム『Touch, Me Yuka』に収録された。

本日は「セーラー服と機関銃」の作者としても知られる来生たかおの誕生日

来生たかおが、いわゆるシンガー・ソングライターとしてデビューするのは、その2年後の1976年のことだった。井上陽水、小椋佳に続く期待の新人というか、都会の風景を彩る新たな才気と、大きな期待を託されてのデビューだった。ただし、そう簡単に、世の光を浴びるというわけにはいかなかった。

1950年11月16日、東京大田区大森の生まれだ。以来、杉並を経て駒込と移ったりもしたが、東京を離れたことがない。つまり、根っからの東京人だが、23区というよりは、郊外にあたる北多摩地区で暮らし続けて50年以上になるらしい。幼い頃の思い出として、井上ひろしの「雨に咲く花」に胸をときめかしていたというから、なかなか早熟な子供だったのかもしれないし、あるいは、ぼく自身の記憶を辿ってみると、昭和20年代生まれの当時の子供たちは、自然にこういう歌謡曲に馴染んでいたと言えるかもしれない。

ビートルズの武道館公演にも、足を運んだ。ただし、曲を書くことに目覚めたのは、ビートルズではなく、弾厚作、つまり加山雄三の「君のスープを」がきっかけだった。姉えつこの部屋で見つけた彼女の散文の中から、「サラリーマン」という名の言葉たちに曲をつけた。それが、スタートとなる。それと、ビートルズの「レット・イット・ビー」に刺激され、ピアノを弾くようになったのが、決定的だった。

渋谷に、RCサクセションや古井戸や泉谷しげるなど若い才気の登竜門として、「青い森」という音楽喫茶のお店があった。そこに出演していたときのことだ。アンドレ・カンドレと名乗っていた井上陽水と一緒になり、ピアノを弾いてくれないかと頼まれる。それが、この道を本格的に歩き始める一歩となった。

それでも、容易にことは運ばず、稀代のメロディー・メイカーにも、デモ・テープをレコード会社に持ち込む日々が続いた。唯一認められたのが、「酔いどれ天使のポルカ」だった。この歌は、後に来生本人も、「ジグザグ~酔いどれ天使~」のタイトルでレコード化している。

来生たかおの名前が一躍知られるようになるのは、やはり、1981年、薬師丸ひろ子が、同名映画の主題歌として歌った「セーラー服と機関銃」の作者としてであり、彼自身が歌った異名同曲「夢の途中」のヒットだろう。もともと、力のある人だったから、たちまち、才覚を表す。大橋純子の「シルエット・ロマンス」、中森明菜の「スローモーション」や「セカンド・ラヴ」等々を含めて、数多くのヒット・ソングを他のシンガーに提供し、その名を知られることにもなる。

本日は「セーラー服と機関銃」の作者としても知られる来生たかおの誕生日

もちろん、デビュー・シングルの「浅い夢」からして、都会的というか、海外のポップスとの出会いから生まれた洒落たみずみずしさと、同時に、何処か懐かしいようなところを内包していて、それまでの日本のポップスには珍しい新味を放った。海外のポップスから吸収したであろう複雑で、美しいメロディー、ただしそこには、ときめきと寄り添う形でなんとも言えない物悲しさが沈んでいて、それが、歌の中から少しずつ滲みでてくる。昭和という時代そのものの光と影とを、彼の音楽は抱え込んでいるのかもしれないと、ぼくが思えるようになったのは、随分後になってからだ。

そう言えば、40周年記念アルバム『夢のあとさき』を発表し、しばらく充電期間を置いたが、そろそろ、再開の準備も始めたらしい。おそらく、随分と増えた白髪をかきあげながら、無造作にピアノに向かっていることだろう。そこには、頑なに吸い続ける煙草と、コーヒーが用意されているはずだ。そして、その姿に、幼稚園に入ることになったとき、門を前にして、どうして母親から引き離され、幼稚園に行かなければならないのかと、泣きじゃくっていた幼い子供の姿が重なる。ひょっとすると来生たかおという人は、その頃から余り変わってはいないのかもしれない、と思ったりもする。

本日は「セーラー服と機関銃」の作者としても知られる来生たかおの誕生日

【著者】天辰保文(あまたつ・やすふみ):音楽評論家。音楽雑誌の編集を経て、ロックを中心に評論活動を行っている。北海道新聞、毎日新聞他、雑誌、webマガジン等々に寄稿、著書に『ゴールド・ラッシュのあとで』、『音が聞こえる』、『スーパースターの時代』等がある。
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