1月17日（水）のニッポン放送の番組『垣花正 あなたとハッピー！』で、経済アナリストの森永卓郎が『メディアが伝えない、税制改革の最大のポイント』と題して特集。

昨年12月14日、政府与党はこれからの「税金」は、こんな感じにしていこうと思います、という税制改正大綱というものを発表した。各メディアでもさまざまな報道がされたが、主にどんな内容だったのか。森永卓郎によると・・・。

森永）メディアでの報道は、給与所得控除の上限引き下げによる年収850万円以上のサラリーマンの増税や、たばこ税増税、出国税・森林環境税の創設などに集中したんです。

この『税制改正大綱』は、我々国民にどんな影響があるのか？

森永）メディアで報じられた改革内容は、我々にそこまで影響がない。給与所得控除の上限引き下げは年収850万円のサラリーマンなんて全体の1割もいない。森林環境税も、まだまだ先の話。

そこまで重要とは思えないこの改革・・・しかし！　この話には、メディアで報じられていないポイントがあった。

森永）メディア関係の人は、税制改正の資料をちゃんと読み込んでいるのかなぁと、僕は疑ってしまいました。

それは「事業承継税制」の拡充だという。

森永）たとえば、東京で営んでいる魚屋さんのご主人が亡くなった場合、お店を子供に譲るとなると、東京の地価の値上がりも影響して大きな相続税がかかってしまうんです。そうすると、相続するために、お店を売らなければいけなくなってしまう。結果、商店街からお店が消えて、歯抜けになってしまうんです。

そこで出てきたのが「事業承継税制」、これは5年以内に事業承継計画を作成し、非上場株を相続・贈与した場合には、後継者が死亡するまで、相続税・贈与税の納税を100％猶予するというもの。

しかも、後継者が死亡した場合、これまでの猶予制度では、会社を受け継いだ時の正味資産が課税対象となっていたが、今回の改正で、後継者の死亡時の正味資産が対象となる。

この制度改正が何を意味するのか。

森永）あくまでよくある話なんですが・・・一代で事業を成功させて、巨万の富を築いた創業者がいたとします。そのバカ息子が、お店を受け継いだ後、やりたい放題やっちゃって、お店の規模を小さくしてしまった。その場合、お店の相続税の対象となるお店の評価額は後者が適用されるんです。つまり、このケースだと、ほとんど相続税を払わなくてもいいんです。

これまでの税制では、創業者が亡くなると、莫大な相続税がかかってきたが、今回の税制改正で、税金の納付は後継者の死亡まで猶予されることになる。つまり、相続時の税負担がなくなる。実質的に相続税の撤廃に近い税優遇を、富裕層に与えかねない税制改正だ。庶民が相続をすると、相続人が2人の場合、4,200万円を超える財産があると、相続税がかかってくる。ところが、相続財産が非上場企業の場合においては相続税がまったくかからないというのは、あまりに不公平。

政府の狙いはなんなのか・・・？

森永）この事業承継税制は中小企業を助けるのではなく、超富裕層達の相続税逃れのために作ったのではないかという疑念を持っています。

この話の流れで、どうして富裕層の相続税逃れになるのか。森永はこう解説する。

森永）富裕層は何千億円と価値のある資産を貯めこんでいます。しかし、彼らが亡くなり、誰かに相続するとなると、とてつもない相続税がかかってしまう。そこで、この事業承継税制を悪用する人が増えるのではないかと思うんです。

いまのような相続税を課していたら、町工場や商店街は消える。しかし、事業承継税制を富裕層の相続税逃れに悪用させてはならない。悪用させない対策はないのだろうか。

森永）事業承継税制の適用対象金額を、例えば、1億円までというように限定すればいい。そうすれば、本当の中小企業のほとんどが救われる。しかし、金額の上限が設けられる可能性はほとんどないと思う。今回の税制改正の真の狙いは、富裕層の税逃れだから…。

さらに事業承継税制にはこんな落とし穴も。

森永）この事業承継税制の書類を作るのは大変。専門家に助けてもらって作成しなければならないのだが、中小企業だとそんな余裕はない！

話は最初に戻るが、この事業承継税制を「メディアが伝えない」のはなぜなのか。

森永）たぶん・・・新聞社・テレビ局など各メディアの記者たちは、政府が発行する報道用の資料を読み込まず、そのままニュースにしているだけだと思います。資料が分厚くて、読みづらいんですよね。

ということは、ちゃんとした経済ニュースが聞けるのは、森永が解説する「あなたとハッピー」だけということになる！

垣花正 あなたとハッピー！
FM93AM1242 ニッポン放送 月～金 8:00～11:30