1984年2月28日、マイケル・ジャクソン『スリラー』がグラミー賞で8部門受賞

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日本でグラミー賞という音楽イヴェントの存在を幅広く知らしめたのは、1984年2月28日に開かれた第26回(1983年度)授賞式の模様が、録画中継でTV放映されたことだったと思う。アメリカのケーブルTV局=MTV: Music Televisionが81年に開局となり、ひとつのムーヴメントとして我が国でも洋楽に映像を通じて接点を持つ世代が育まれ出した時期だ。その第26回の圧巻は、マイケル・ジャクソン独占とも呼べる獲得状況だった。彼が手にしたのは実に8部門。当時一度の授賞式での最多とされた大記録だ。82年12月に本国で発表されたアルバム『スリラー』が持つ、まさにその時代の瞬間を鮮やかに切り取った如き作品性が色あせぬ記憶となった。ディスコ・ブームを継承するダンサブルでソウルフルな音楽スタイルは、80年代にミュージック・シーンで支柱を築くアーバン・コンテンポラリーの要素を明瞭に伝え、加えてファッショナブルな外見と超絶のステップによるヴィジュアルの魅力をビデオを通じて打ち出すのに成功した。そんなヒットの条件が詰まっていたのである。

1984年2月28日、マイケル・ジャクソン『スリラー』がグラミー賞で8部門受賞

大きかったのは一般的な関心が集中する主要4部門の中の2つを獲ったことだ。最優秀レコードが「今夜はビート・イット」。これはポリスの「見つめていたい」、アイリーン・キャラの「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」、マイケル・センベロの「マニアック」、そしてライオネル・リッチーの「オール・ナイト・ロング」を抑えての受賞で他の候補のいずれもがポテンシャルの高い全米No.1ソングだった点も激戦を制したイメージだった。それは、『シンクロニシティー』(ポリス)、『フラッシュダンス』(サウンドトラック)、『イノセント・マン』(ビリー・ジョエル)、『レッツ・ダンス』(デヴィッド・ボウイ)らの強敵に打ち勝って最優秀アルバムに輝いた『スリラー』にも当てはまる。なお、「見つめていたい」が獲得した最優秀ソング部門の候補に、マイケルは「今夜はビート・イット」と「ビリー・ジーン」の2曲を入れているのもすごい。ちなみに最優秀新人はカルチャー・クラブが選出された。

あとの獲得部門と対象作品を確認すると、最優秀男性ポップ・ヴォーカルを『スリラー』で、最優秀男性ロック・ヴォーカルを「今夜はビート・イット」で(エドワード・ヴァン・ヘイレンのゲスト起用が大正解)、最優秀男性R&Bヴォーカルと最優秀R&Bソングを「ビリー・ジーン」で手中にしている。そして最優秀プロデューサー部門をクインシー・ジョーンズと連名で受けた。実はマイケル個人が『スリラー』関連で受賞したグラミーはここまでの計7つだ。最優秀録音部門に『スリラー』のエンジニア=ブルース・スウェディンが選ばれており、アルバム自体が生み出したトロフィーが計8となる。では、マイケルは一度の授賞式での最多獲得=8ではないのか? いえ、獲得なんです。この第26回において、マイケルはさらにもうひとつ、『E.T.ストーリーブック』によって最優秀児童向けレコード部門を得ている。だからマイケル・ジャクソンが、“『スリラー』で8部門独占”というのは正確ではない。

ところで第26回に匹敵する状況となったのは、00年2月23日発表の第42回(99年度)。アルバム『スーパー・ナチュラル』関連に、レコード、ソング、アルバム、ポップ・グループ、ポップ・ヴォーカル・コラボレーション、ポップ・インスト、ロック・グループ、ロック・インスト、ロック・アルバムの9部門が与えられた。そうサンタナだ。ただしアーティストとしてのサンタナ(カルロス・サンタナ)に限定すると、ソング部門の「スムーズ」は、作者のイタール・シュールとロブ・トーマスが受賞者。したがってサンタナとしては8となる。

1984年2月28日、マイケル・ジャクソン『スリラー』がグラミー賞で8部門受賞

同様に、03年2月23日発表の第45回(02年度)でのノラ・ジョーンズも破格だった。デビュー・アルバム『ノラ・ジョーンズ』関連で、主要4部門に、ポップ女性ヴォーカル、ポップ・ヴォーカル・アルバム、エンジニア、プロデューサーと、ノミネートされた8部門すべてに輝いた。これも”ノラ・ジョーンズが8つ獲得”とするのは厳密には正しくなく、ソングは作者のジェシー・ハリスが、エンジニアはジェイ・ニューランドとS.ハスキー・ホシュクルドゥルが、プロデューサーはアリフ・マーディンがそれぞれ受賞対象者だ。つまりノラ自身は5つとなる。グラミー史上希有の主要4部門同時受賞をノラは果たしておらず、それはこれまで第23回のクリストファー・クロスのみである。

1984年2月28日、マイケル・ジャクソン『スリラー』がグラミー賞で8部門受賞

話をマイケル・ジャクソンに戻すと、グラミー大量受賞の勢いと計7曲の全米トップ10シングルを生むという快挙も伴い、84年中も売れ続けた『スリラー』は、全世界1億5,000万枚を超える史上最多セールス・アルバムへと邁進していくことになる。

【著者】矢口清治( やぐち・きよはる):ディスク・ジョッキー。1959年群馬生まれ。78年『全米トップ40』への出演をきっかけにラジオ業界入り。これまで『Music Today』、『GOOD MORNING YOKOHAMA』、『MUSIC GUMBO』、『ミュージック・プラザ』、『全米トップ40 THE 80'S』などを担当。またCD『僕たちの洋楽ヒット』の監修などを行なっている。
1984年2月28日、マイケル・ジャクソン『スリラー』がグラミー賞で8部門受賞

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